第49話:深夜の帰宅
「ただいまー……」
ドラゴンの頭を持ち帰るのが思ったより大変で、夜になってしまった。
自然と語尾が小さくなる。
今しがたドラゴンを退治してきた俺が、まさか自分の家に帰るのに忍び足とか。泣ける。
一泊くらい野宿しようかと思ったけど、心配してると思ったからできるだけ早く帰ってきた。
けどこんな夜も遅いと寝てるだろうし、やっぱり野宿すればよかったかも。
「ご主人だーー。おかえり、ご主人っ。ご主人おかえりっ!」
「おかえりなさいませ」
「遅いわよ、心配したじゃない」
夜も遅いのにみんな起きていて、出迎えてくれた。
嬉しい。
結構嬉しい。
すごく嬉しい。
帰りを待ってくれる人が居るというのは良いものだ。
「ただいま。心配かけて悪かった。ちゃんと無事だから」
怪我どころか、ホコリ一つ付けられてない。
ドラゴン自体は色々やっていたが、俺は何もされていない。一方的にやっつけた。
「それにしては遅かったわね。明日になるのかと思ったわ」
「アンコが土産欲しいって言うから、ドラゴンをもって帰ってきたんだよ。それと、ちょっと迷子になってた」
この世界は道しるべ的な物が少なすぎる。
特に夜。灯台とかあればいいのに。
「ドラゴン!? どこ?」
「あっち。頭だけだけどな。胴体はアトレイアの人にあげたから」
「あたまでもいい! あたま見たい!」
これだけ喜んでもらえるなら、頑張って持って帰ってきた甲斐もあるってもんだ。
今頃アトレイアの人達は持って帰るのにひーこらしてるだろう。
いや、夜だからもう寝てるか。見張りを立てて。
「見てくるー!」
「大きい声出して村人起こすなよー」
はーい。と返事をした後、口に手を当てて走っていくアンコ。
あの時は大人だと思ったけど、普段はやっぱり子供だな。
「まったくアンコったら、明日にすればいいのに」
「アンコさんらしいですね」
暗くて見えないだろうから、ちょっとだけドラゴン周りを明るくしておこう。
村の人が万が一に出歩いても見えない位置に置いたし、凍らせてあるから匂いの心配もない。
トカゲの近くに置いたから、トカゲがビビっているかもしれない。
その姿を想像するだけでちょっと笑えてくる。
流石にドラゴンにかじり付いてるってことは無いだろ。凍ってるし。
「それで何の話だったっけ?」
土産の話を挟んだら、その前の話がなんだったか忘れてしまった。
たしかノイエがなんか言ってたような。
「帰りが遅かったわねって話よ」
あーはいはい。それね。
「アンコに土産を頼まれたのもそうだけど、そもそもドラゴンが出るまで結構待ったから」
グロリアさんと雑談してたしどの位の時間を待ったのか、ちょっとわかってないな。
陽の感じからすると3時間位か? もっとか?
砂時計レベルのものは開発したけど機械時計は流石に無理だから、早く天才出てきて、開発してほしい。
「行く前に言っていましたよね。いつ来るかわからないって」
ハチ公前で待ち合わせするカップルじゃあるまいし、いつ来るかなんて細かい時間はわからない。
ドラゴンの気分もあるし、伝書でのやり取りでは進行速度を計るのも難しいだろう。
むしろ3時間程度で済んで運がよかった。
「だから遅かったのね」
「ワタクシはアトレイアと外交でもしてるのかと思っていました」
たしかにリリセラはあまり心配しました、って感じじゃないな。出発前は心配してたけど。
こういうところはリリセラ強いわ。
逆にノイエが弱くてちょっと面白い。普段と逆だから。
「そういや、グロリアさんが戦場にいたぞ。士気向上とか言って。避難させたけど」
「ちょっと待って、人間のお姫様ってそんな事までするの?」
「いや、普通はしないだろ」
「やはり、お姉さまの立場はまだ弱いのでしょうか? お姉さまはそういう事をワタクシに話してくださいませんから……。明日、お手紙を出してみます」
そうするといい。きっと募る話もあるだろう。
今回は俺とドラゴンの話題がほとんどだろうけど。
「……それにしても、あなたって本当にドラゴンすら狩れるのね」
「まあね」
「随分自信もって言うわね。実物は大したことなかったのかしら?」
「いや、思ってたよりずっとやばかったよ。準備出来る時間がなきゃもっと手こずってた」
「勝てないとは言わないのですね」
見た感じ、こっちの方が移動速度も射程距離も上だったし。
長期戦にはなるかもしれないけど、負けるって事もなさそうだった。
魔力量は多いが、あれだけ身体もでかく、動かす方に魔法使わないとダメな時点でロスが大きい。
その程度じゃ俺には勝てない。
手の内を全部見せてもらった訳じゃないけど。
「ご主人ご主人、見てきた! すごい! でかい! まえ見たのとおんなじ。アンコの村をおそったヤツだった」
戻ってきて早々、アンコが衝撃的な言葉を口にした。
「本当か!?」
「トーヤ、椅子倒れたわよ」
「ワタクシがお直ししますね」
アンコは俺らの中の誰よりも動物の顔の見分けが付く。
ということは、やっぱりみんなの仇だったのか。……八つ当たりじゃなくて良かったな。
「え? うー、自信なくなってきた」
ぬか喜びだった。
まあ、しょうがないか。
ずっと前の出来事だし。アンコはその頃キッズだし。
アンコも必死だったはずだから、ちゃんと覚えてろってのも無理な話か。
けど、ちょっとは胸のつかえが取れるか。
俺がやったのはみんなの仇。それでおしまい。それでいいじゃん。
「さて、アンコも戻ってきたし、もう寝ましょう。眠いわ」
「そうですね。夜も深いですし」
「リリセラ悪い。明日はアトレイアの人達の手伝いを少ししてこようと思うから、オットーさんに伝えておいてくれ。それと、手紙はその時渡しておくよ」
「……何かおかしい気がしますが、お願いします」
グロリアさん一行が胴体を持って帰るのは大変そうだし、少しだけ手伝っておこう。
せめてドラゴンを載せられる台車位は作ってあげよう。
よく考えたら2000人居るとはいえ、持ち上げられるような重さじゃないし。ロープで引っ張るにしても100km以上あるって地獄だし。
引きずっている間に擦り減ったら、無傷で倒したのが勿体なくなる。
「トーヤ、きっと明日からお祭り騒ぎになると思うから」
あ、そうか。そういうのもあるのか。
ドラゴンの頭を持って帰ってきたし、そうなるのか。あー、祭りかー。えー。
「うーん、面倒臭いな。無かったことになんねえかな。埋めるか」
「えー、ご主人もったいない。ほり返す」
やめて。
「アンコさんもこう言ってますし、この際、この町の名物にしたらどうですか?」
「それ、いいわね。骨だけにして、町の何処かに置きましょう」
おい、本当にハチ公みたいになってきたぞ。
実際にやるとしたらどうなるんだ?
場所確保して、腐るのを待つのは時間が掛かるから、肉を削ぐ人を手配して。樹脂も大量に必要になるな。他には何が必要だ? 悪戯に壊されない対策が必要だよな? 他には? ええと……。
ああ、忙しくなる。
祭りの規模どうしよう。オットーさんとも相談しないと。
「わかった。台車だけ作って、すぐ帰ってくるよ」
「お話終わった? じゃあ寝よー、ご主人おやすみー、ノイエもリリもおやすみー」
「じゃあ俺らも寝るか」
「ええ、おやすみ」
「おやすみなさいです」
おやすみ、みんな。また明日。
さっきも思ったけど、なんだか、すごくすっきりした。
町を作り、3人が幸せそうで、仇も取って。
俺がやらなきゃいけない事を全て終えたような。
まあ、また明日からしばらく大変なんだけど。
だからお休み。
――その晩、俺は夢を見た。
俺が居て、3人が居て、両親が居て、ジジイまで居た。
俺は3人を親に紹介していて、両親は嬉しそうで、ジジイは少し離れた場所からこちらを見守っていた。みんな笑っていた。
それは魔法でも何でもない普通の夢だったけど、幸せな夢だった。
次で最終話です。
というかエピローグです。




