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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
三章
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最終話:異世界を歩く賢者の石達

「……トーヤ様、そろそろのようです」


 床に伏せるリリセラの手を取り、さする。


 『エーデルワイス』で体調を整えている所為か、アンコもリリセラも自分の死ぬ瞬間がなんとなく分かると言っていた。


 それが良いのか悪いのかわからないけど、最後の瞬間を一緒に居られるのはいいことだと思う。


「……トーヤ様、寂しくないですか?」


 大丈夫。


「……ノイエさんもトーヤ様も、本当は寂しがりですから」


 大丈夫。俺たちは大丈夫だよ。心配いらない。


「……トーヤ様、あの美しかった月は今でもワタクシの胸に」


 お前は本当にそれが好きだな。


「……トーヤ様、ワタクシは幸せでした」


 ああ、俺もだ。


「…………」


「ああ……、……おやすみ」


 リリセラが目を閉じると、静かに息を引き取った。


 今、リリセラが死んだ。

 大切な人がまた死んだ。


 アンコ、見てるか? 今、リリセラがそっちに行くから。


「トーヤ……」


 わかってる。

 悲しくはない。大丈夫。


 ノイエが俺の肩に手を置いた。その手には力がこもっていた。







「こっちの世界に来てからもう何年だろ。もう70年位か?」


 アンコが息を引き取ってから10年も経っていないのに、リリセラも後を追うように息を引き取った。

 トカゲはずっと前に死んでしまった。


 俺とノイエは外見すら全然変わらないのに。


「二人きりになっちゃったわね」


 二人きりか……。


 こうやって二人で立ってみると、出会った頃を思い出すな。

 まだアンコも居なかった数日間。ギルドで出会った俺とノイエ。


 外から見るとその頃のままだ。

 外から見ると。


『ワタクシも居ますー』


『アンコもー』


「今、何か聞こえたかしら?」


「聞こえたよ」


 俺には聞こえた。

 リリセラとアンコの声が、ハッキリと。



『聞こえたかしら? じゃないですー。ちゃんと説明して下さいよー』


『ご主人ご主人、リリもアンコと同じになった。やっとなった』


「悪魔がなんか言ってるぞ。怖えー」


 おい、やめろ。耳元に寄って来るな。


「私は集中しないとちゃんと聞こえないのよね。トーヤが羨ましいわ」


 おどけたようにノイエが言う。

 ネタにしてるけど、実際俺と違って、強化をかけないとアンコ達の声も聞こえないノイエは大変そうだ。


 一応、ボソボソと何か喋ってるなー程度はわかるんだっけ?

 俺にはハッキリと聞こえるよ。


『悪魔ってなんですか? ワタクシって死にましたよね?』


 リリセラとアンコは魔法の大会で悪魔を見てないから知らないんだったな。

 何年前の話だったかな……。


『ご主人が魔法でなんとかしてくれた』


 そう、いつも通り俺の魔法がなんとかしたんだ。

 しょうがない、無知な子羊達に説明してやるか。


「簡単に言うと、俺とノイエの共同大魔法でアンコとリリセラは悪魔となり、死から解放されました。おわり」


 『カーネーション』で死体から魔力を奪い、『エーデルワイス』としてそのまま放出する。

 厳密にはちょっと違う魔法だが、大体そんな感じ。

 その人の魔力を悪魔として再生出来るすごい魔法だ。


 実際に悪魔を見ていたから思いつけた。

 練習も死ぬ程した。


 ノイエに強化をかけてもらうことで頭を活性化させ、その間だけ大魔法二個撃ちを可能にしたのだ。

 開発するのかなり頑張ったんだから。ノイエとこっそり。


 ノイエが俺の肩に手を置いただろ? それがないと出来ないんだよ。

 ってリリセラはその現場見てないか。死んでたわけだし。

 アンコは見てただろ? アンコの時もやってたんだぞ。


「その説明は流石に雑すぎないかしら? 私はわかるけど」


『全然伝わりませんでした』


『アンコもリリも死んだけど生き返った。2回目』


 本当に2回ずつ死んでるから困る。



『詳しい説明はまた後で聞きますが、他にもまだあります。アンコさんのことです』


「アンコがどうしたって?」


『ワタクシ、アンコさんが悪魔とかいうのになっているの知らなかったのですが……ずっと居たんですよね?』


「居たわよ。ただ、リリは見えないし聞こえないから内緒にしておきましょう、って話になってね」


『内緒ですか……』


 『お前には見えないけど、俺たちは見えるんだー』、ってやられたらリリセラもたまったもんじゃないからな。

 会話にも参加できないんだし。


 それなら何年もモヤモヤさせるより、一回すぱっとモヤらせる方がいい。モヤらせるってなんだよ。


『なんだか釈然としないのですが……』


「何度も伝えようか迷ったんだけどな。けどいいかって」


『よくないですー』


「ごめんなさいね。ずっと黙っていて」


 素人はわからないことだらけで大変だな。


 俺が理解に苦しむ事ばかりするのが悪いんだけど。

 でも、そのおかげで一緒にいられるじゃん。感謝して。



『あれ? そうするとノイエさんが死んでしまったらどうするんですか?』


 ノイエと共同で魔法を使った事で悪魔化できたんだから、当然ノイエが死ぬ時はできない。


「そうよ。気にしてなかったけど、どうするのよ」


『大丈夫。ご主人ならなんとかできる』


「トーヤだけじゃダメだから、私がやってるんじゃない」


『他の方に頼むんじゃないでしょうか?』


「うぬ惚れた事を言うわけじゃないけど、かなり繊細な事してるわよ? トーヤも私も」


『石は? 賢者の石は?』


「それこそ無理よ。あれ、そんな繊細な事できないから」


『だとしたら、どうするのでしょう?』


『うーん……わかんない……』


「……おーい、急にガールズトークに移るのやめてくれー……」


 3人に言うつもりはないけど、ノイエが死ぬ時に2人を昇天させて、俺も後を追って逝こうと思ってる。絶対言葉にはしないけど。


 っていうか、俺の寿命ってどうなってるんだろう?

 肉体の劣化を一切感じないから見当もつかないわ。魔力を使い切れば流石に死ねるはず。


『そもそもノイエはいつ死ぬの?』


 いつか聞いたようなセリフだな。


 そういやエルフの寿命ってよく知らないな、俺も。

 たしかノイエは純粋なエルフじゃないんだろ? 亜種的な。

 気にしてるみたいだったから触れてこなかったけど。


「いやな聞き方するわね。……そうね、種族的な寿命で考えたら、後80年から100年ってところじゃないかしら」


「そんなに」


『そんなに』


『そんなに』


 皆して驚く。そりゃ驚く。


 細かい数字は覚えてないけど、だってもうノイエって100歳近くて……さらに80~100年って。

 ロリババアじゃん。未だに120cmだし。

 ノイエ、いつ成長するの?


 それとなんか、アンコもリリセラも死んで悪魔になってから、若い頃の性格に戻ってる気がする。


 なんでだろう? 肉体に依存してないとそうなるのかな。

 だから俺もこんな歳なのに感性が若いんだな。きっと。


『いっぱい旅できるね、ご主人』


「そうだな。お前ら悪魔組が、辻成仏させられなければな」


「辻成仏ってなによ」


「通りすがりのハイレベル聖職者が、すれ違いざまに昇天魔法をかますことさ」


『すみません。もうちょっと解りやすい言葉でお願いできますか?』


 俺が地球にいた頃、ネットのゲームであったんだ。そういう遊び方が。遠すぎる記憶だ。


 まあ、ほぼ100%ないけど、そんなこと。

 冥の魔法自体難しいし、そもそも魔力視を使わないと普通は見えない。


 そして、俺の魔力は普通よりも密度が高くて干渉させにくい。


『それなら、まだまだ一緒にいられますね』


「そうだな」


 一緒にいられることほど幸せなことはないよな。







「ところでこれからどうするの?」


 アイデアも出しきって、経済も安定してきて、俺が何かすると他の人の仕事を奪ってしまうだけになって久しく経つ。

 だから村長の座とか全て引き継いで、近隣の町や村を転々と旅する日々だったのだけど……。


「そろそろどっか遠い所に行って、そこでまた村か町でも作ろうか」


『また始めからやってみるのもいいですね』


『村、村がいい』


 あの頃に比べたら様々な技術も生み出されて、この世界も大分豊かになったけど、それでもまだまだ足りないと思う。


 俺の周りだけかもしれない。遠いところにはまだ伝わってないかもしれない。

 それなら、もう少し位貢献してもいいよな。これだけの力を貰ったんだし。


 行こう、次のどこかへ。まだ、知らない場所へ。




『ご主人ご主人』


 アンコが俺を呼ぶ。


「どこへ行こうかしらね」


 ノイエが次へ思いを馳せる。


『ちょっと待ってくださいー』


 悪魔に慣れていないリリセラが情けない声をあげる。



 久しぶりに旅に出よう。

 死に別れるはずだった2人すら連れて。

 もう少しだけ4人を続けようか。…………少し?




終わり

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