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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
三章
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第43話:8年経っても、いつもの団欒

「ご主人おかえりー!」


 たたいまを言う前に、アンコが飛びついてきた。今日のアンコはテンションが高い。

 高いとよくこうなる。

 なんか、ゲームのエンカウントみたいだな、アンコ。


 はい、ただいま。


「おいおいアンコくん。急に飛びついたら腰が壊れるだろ」


「『エーデルワイス』すれば?」


「お前、そういう事じゃないだろ」


 治るからいいじゃん。みたいな、そんなスタンスは……まあ、いいか。

 セミのように俺に張り付くアンコを抱きかかえる。


 茶番を入れたが、俺の筋肉は魔法なんか使わなくてもアンコを抱えるくらい余裕だ。

 獣みたいな筋肉はないけどね。

 別に、一番最初の町のギルドで言われたことを気にしてるわけじゃないよ。


「ご主人ご主人、あのね、今日ね、…………なんだっけ?」


「俺がそれをわかったら怖えーだろ」


 わかったら千里眼かエスパーかストーカーだ。


「アンコも、もう20歳になるのにかわらねえなあ」


 それが良いんだが。


「変わらないのは、トーヤ様とノイエさんですよ。お羨ましい限りです」


 セミになったアンコを抱えたままリビングに入る。

 中ではリビングに隣接する調理場で、リリセラが料理をしている。ノイエはお疲れなのか、ぼーっとリリセラを眺めている。おかえり。ただいま。


 8年……いや、もう9年か。

 9年も料理に関われば手馴れたもので、リリセラも作業をしながら会話に参加するくらいはお手の物になっていた。


 使えないって言われて泣いてた頃がホント懐かしいな。


「ノイエは別にしても、俺はなんで止まったんだろうな。賢者の石がなんか作用してるのかね」


 ノイエは言わずもがな、俺もなんか成長が止まってしまった。

 具体的に言うと、地球に居た頃の外見。丁度こちらの世界に来る直前くらいの年齢になった所で止まってしまった。

 つまり、3人と出会った頃から俺の外見は変わっていない。15歳くらいのままだ。

 理屈はまったくわからない。


 トカゲですらたまに脱皮して成長しているのに。


「それにしてもあのトカゲ、もう10年位は生きてんのか? 全然元気だけど寿命ってどうなってんだ?」


 時の経過を実感しているとふと思った。


 トカゲってなんとなく短命のイメージだったけど、そうでもないのかな。

 亀が50年以上生きるんだからなんも不思議じゃないか。トカゲも亀も爬虫類だし。


「決闘トカゲなら30年位は生きるらしいわよ」


 そこそこ長命だな。

 あと20年くらいか。


「そういえば、ワタクシとアンコさんの寿命ってどうなっているんでしょうね」


「え? 何が?」


 リリセラとアンコって寿命ないの?

 やめてくれる? 急に変な新要素突き付けてくるの。


「ほら、ワタクシ達って一度死んでいるじゃないですか。その場合、寿命ってどうなるのでしょう?」


 ああ、そういう事。

 一度死んでるのに、老衰した時を寿命と言っていいのかどうかって話か。


 別にいいんじゃないか? 九死に一生はカウントしなくても。実際に死んだわけじゃないんだし。


「それを言ったら、俺だって。こっちの世界に来る時に死にかけたぞ。賢者の石がなかったら間違いなく死んでた」


 よく考えたら、ノイエ以外みんな死にかけてんだな。このパーティ。

 どいつもこいつも簡単に死にやがって。


「では、此処にいる方で、死んでいないのはノイエさんだけなんですね。なんだかすごいです」


「ノイエはいつ死ぬの?」


 それ、言っちゃうんだ。アンコだもんな。


「ちょっと、巻き込まないでよ。いやよ、私はまだ死にたくないわ」


「そりゃそうだ」


「ノイエさんは大丈夫なんじゃないですか? 魔法も随分お上手になられましたし」


 あーうん、それな。

 ノイエはその、なんというか……その、俺からアレ、というか魔力を受け取るようになって、魔力の最大量が上がって強くなったのはいいんだけど……。

 そういうパワーアップの仕方はやめてください。照れるから。


「あーやめやめ。この話は終わり。おしまい」


「そうね。別の話にしましょう」


「丁度、お食事も出来ましたし、食べましょうか」







「そういや、ノイエ。何かさっきアンコがテンション高く、今日の報告をしようとしてたんだが、何かわかる?」


「ちょっとわからないわね。私の方は今日たい肥をやって、その時アンコに手伝ってもらったけど」


「じゃあウンコで喜んでたのか? アンコは?」


「お?」


 飯の時はダメだな。アンコ。こっちの話を聞いてるようで聞いてない。

 聞いてないようで聞いてたりもする。


 それにしてもたい肥か。くそ。


 たい肥といえば、最近になって、ウンコを素早くたい肥にする魔法が開発された。

 人や家畜が多くなるとウンコの処理は絶対必要になるので、待望といえる素晴らしい魔法だ。


 悔しいのはそれを開発したのが俺じゃなくて、アトレイアの方で開発されたというのが悔しい。

 ウンコに変なプライドを持つのもどうかと思うが、悔しいものは悔しい。


「……食事中にする話題じゃないな」


「それもそうね」


 今日のお夕飯は、


 芋で作った麺に野菜を乗せ、濃いめのドレッシングを掛けた、サラダスパゲティ……のようなもの。

 焼いたお肉に、キノコ系のソース。

 根菜を潰して作った、水分少なめのスープ。

 あと果物。


「いやー、まさかマヨネーズがドレッシングとして開発されるとは思わなかったなー」


 卵油ということは知っていたけど、ドレッシング枠なのは予想外だった。

 絶対ソース系の調味料だと思っていたもん。

 スーパーマーケットで醤油とか味噌の辺りに並んでそうな。ソースの隣。

 それがドレッシングとはね。


 料理をしてる人には常識だったりするのかな。


「マヨネーズ? 知ってる言葉で言ってくれないとわからないわ」


「新しく開発されたものですよ。今日、とある方が登録しに持ってきまして」


「ご主人のことだから、ちきゅうにあったものだよ」


 アンコやるじゃん。よくわかってるね。


「アンコ正解。マヨネーズは卵のドレッシングだよ。地球にもあったんだけど、多分ドレッシングの中で一番使われてる奴」


「興味深いわね」


 ノイエはサラダ党だからドレッシングにはうるさい。


「とにかくすごいぞ。地球では何にでもマヨネーズをかけないと気がすまないっていう、中毒者もいたんだから。マヨラーっていう言葉すらあったんだぞ」


「それはすごいわね。早く食べてみたいわ」


「でも、ノイエはあまり好きじゃない味だと思う」


「…………………そう」


 期待した分だけ虚無るノイエ。

 持ち上げて落とすのは基本だけど、悪気はなかったんだ。ごめんて。


「でも、アンコは好きな味だと思うぞ」


「ホント? やったー」


 アンコは期待を胸に喜びでいっぱいだ。

 ちなみにノイエの顔はまだ暗い。ずーん、って感じ。


「それで、ワタクシはどうでしょう?」


「試食してないのか?」


「得体のしれないものは、……ちょっと」


 これだから良いとこのお嬢……いや、お姫様か。


「そうだな、リリセラは複雑な味が好きだから、あまり好きな味でもないかも」


「そうですか……」


 ノイエと一緒に落ち込むリリセラ。空気を読んだアンコが一緒になって落ち込んだフリをする。

 おい、暗い食卓を演出しないでくれ。





「そうだわ、トーヤ。今日、ため池に例のスライムが出たから牧場の子やトカゲにあげたわよ」


「そういえばそんな時期か。大した害はないけど毎年毎年どっから湧いてくるんだ」


 気持ちをすぱっと切り替えたノイエが今日の報告。

 まあ、いつまでも落ち込む内容でもなかったし。


「それ! それ!」


「アンコさん。どうなさいました?」


「ご主人ご主人。それ!」


「アンコがさっきテンション上がってたのはこれか」


 スライムで遊んだのを報告したのかったのか。

 ところでお前、いま何歳だっけ? 俺も誘えよ。

 スライム煮て溶かして、高層滑り台に塗って、高速スライダー作ってやるから。


 宗教のアレコレや開発の報告受けるより、絶対楽しいだろ。


「ノイエさん、本当に町の方に住まなくていいんですか? もう差別もなくなりましたよね?」


「いいのよ。こっちの方が居心地がいいんだから。自然も多いしね」


「アンコも町より村が好きー」


「俺もこっちだな。やっぱ都心からちょっと離れた位の田舎こそ至高」


 俺、ノイエ、アンコの3人は村派だ。

 リリセラは元々城に住んでたから、村よりも町の方が好きなのかもな。


 それにリリセラは村での仕事より、町での仕事の方が多いから。


「ワタクシも好きですが。向こうはほら……トーヤ様が」


 町だと俺への称賛がすごいって?


 魔法の大会でもそうだったけど、リリセラはなんか、俺が褒められると嬉しくなるようだな。

 俺も3人が褒められたら嬉しくなるけど。


 ただ、俺としては町のむやみに褒めてくるアレがちょっと居心地悪い。


「あら、健気な子ね。私、リリのそういう所好きよ。けどダメ」


 多数決により村になりました。







「大体話は終わったかしら。トーヤ、今日もリバーシをしましょう」


 夕食も食べ終わると、日課とばかりにノイエが勝負を挑んでくる。


 娯楽が欲しくてリバーシやチェスなどのボードゲームを作ったら、ノイエがハマった。

 恐ろしい事に、自費で大会まで主催する始末。


 そのハマり具合もあって、最初は勝ててたけど、最近は勝てなくなったのであまりしたくない。知的生命体め。


 俺としてはカードゲームの方が好きなんだが――

 トランプなどのカードゲームは裏面を統一させたり、硬さが足りなかったり、大きさが全く同じに見えるカードを作る技術がなくて断念している。紙もまだ結構貴重だし。


 あまりしたくない場合はどうするかと言うと。


「俺とアンコは風呂に入ってくるから、その間はリリセラとやっててくれ」


 リリセラを生贄に捧げて、自由の翼を召喚するのが一番。


「入る入るー。ご主人はやく、はやくいこー」


「ほらリリ、そっちに座って」


「ああっ、待ってくださいトーヤ様……トーヤ様~~」


 リリセラはノイエにも俺にも全く勝てないので俺以上にやりたくないらしく、情けない悲鳴をあげていた。


 8年も経って、成長したし内面も多少は変わってしまったけど、ノリや態度はほとんど変わらない。

 多分変わってないと思う。

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