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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
三章
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第42話:8年後の町

 病院、学校、銭湯、公園等の施設。

 電気、蒸気機関等の機械類。

 菌、消毒等の概念。

 ソース、ドレッシング等の調味料。

 etc. etc.


 どこかにはあるかもしれないが、少なくともアトレイアの国では見たことのない、俺が開発、普及させたもの。

 いや、電気や蒸気機関はまだ開発できないか。簡単な物はできたけど、爆発事故とかあって頓挫した状態になってるから。


 それから、


 『エーデルワイス』による重傷者の治療。

 食料の分け与え。

 一日で増える建造物。

 空を飛び、魔物を退治する俺。



 町を作るにあたって、やりたい放題やっていたからか、俺を現人神とする宗教がこの8年の間に出来ていた。

 つまり神様、もしくは神様の代理人みたいに思われている。


 町を歩いているとたまに俺を拝む人がいるのは、そういうやつらだ。


「これはこれは、アシュクロフト様――なむなむ」


「なむなむすんな」


「ははは」


「ははは、じゃない」


 大体この宗教に入る人は、俺によって本人か身内の重度な怪我、病気を治してもらった人に多い。それもあって熱狂的で過激だ。


 そもそもこの町は、ノイエ達が差別に遭わない&豊かに暮らせるようにと作った町だけど……。


 やっぱり差別は無くならなかった。

 外から来ておいて嫌悪感を示すのがたまに居た。


 でも、宗教の人や、村時代からの子供達、俺の世話になって恩を感じてる住民や、普通に俺を好意的に思ってくれている住民のおかげで、それを言葉や態度に出す人は少ない。


 特に宗教の人がやばい。

 ノイエやアンコに嫌悪感出したやつが、そのまま行方不明になる事件とかが普通にあった。


 ちょっと怖いよこの町。俺の町なのに。







「アシュクロフト様!」


 町の人はみんな、俺をアシュクロフトと呼ぶ。

 トーヤと呼ぶ人も居たが、産まれた子供に『トーヤ』と名付ける人が多すぎて、俺が怒ったら何故かアシュクロフトと呼ばれるようになった。


「見てください、新しいドレッシングを開発しました!」


 町を歩いているとこうやって開発物を見せてくる人がいる。


 この町は今、開発ラッシュだ。


 俺が溜め込んだ地球産のアイデアや、思いついたアイデアをどんどん提供してるし。

 一発当てれば一攫千金なので、何かを開発しようと躍起になっている人が多い。


 簡単なアイデアや設計図を丸投げするだけで、人に開発してもらうのは心苦しいけど、やっぱりノウハウの事とかを考えたら俺が開発するよりも、この世界の住人達がした方がいいから。


 前に、俺がスープの味を濃くすればソースになる。

 というシンプルでいて、思いつき一つで開発に繋がる話はこの町でも有名なので、みんなこぞって開発しようとしている。

 もちろん、副職としての開発者がほとんど。


「今回のドレッシングはすごいんですよ。今までとは違って、卵の黄色い部分を使ってドレッシングの開発に成功したんです!」


「へー」


 ぶっちゃけあまり、興味はない。

 こいつらにとって目新しくても俺にとっては目新しくないか、奇抜なだけで評価に値しないものだから。


 けど、俺は優しいので興味あるフリをしてやる。

 こういうのって、モチベーションに関わるし。


「んで、そのドレッシングってのはどれだ?」


「これです!」


 そうして出てきたものは――


「マヨネーズじゃねえか! マジかよ!」


 俺が知っている物より水っぽいし、少々匂いがキツイがマヨネーズだ。

 20年位ぶりに見た。


「マヨネーズ? もしかして、もうある物でしたか?」


「いや、すまん、勘違いだった。気のせい。というか、これ作るの大変だったんじゃないか?」


 完全にイメージでの話になるんだが、マヨネーズって割と現代に近い時期に開発されたのではないだろうか。

 歴史の浅いというか。

 それはつまり、素材はあっても中々思いつかないような、特殊な作り方な訳で。


 それをこんな早々に開発するとか。こいつ天才か?


「自分、元々バター作りをやっていたので!」


 何? どういう事? バターとマヨネーズって関連性あるの?

 バターは乳製品で、マヨネーズは卵と酢じゃないの?

 ???


 わかんねえ。どこが繋がってるんだ。


「……とにかく、これは確かに斬新なドレッシングだな。新しく商品として扱うといい。役所に持っていって、リリセラに登録してもらうといい」


「わかりました!」


「それで、2年が過ぎたら作り方を公表するから。ただし、その際にも材料の割合や分量は公表しないから」


「はい!」


 開発されたものは基本的に作り方を登録させる。

 そして、時間が立ったらレシピを公開する。


 世間に広めることで、世界に広がるからだ。

 世界に広まれば世界が豊かになる。俺はそれを望んでる。

 狭い地域で終わらせたくないというか。


 けど、そのまま公開すると開発者が損をするので、時期を見て市場調査をし、その流行具合で開発者に金を渡す仕組みにした。

 変則的な著作権みたいなもんだ。


 登録しないというのもあるが、他の人に真似をされれば、開発者が損をする。

 真似されなければ、売り上げ等を独占できる。


 その辺は自由にさせている。

 あまり強制しすぎると反発されるだろうから。


「それと、その開発したものは素晴らしい物だと思ったので、これを」


 そう言って金貨を2枚渡す。ポケットマネー。


 これは俺個人からのプレゼント。

 マヨネーズの開発とか超うれしいから。


「こ、こんなに!?」


 小躍りしそうなほど驚く青年。


 鉄、銅、銀、金とある硬貨の中でも、最上級の硬貨である金貨だ。

 銀貨の20倍。銅貨の400倍。鉄貨の4000倍である。

 鉄→×10→銅→×20→銀→×20→金。


 宿と食事代だけで考えたら一日鉄15枚あれば生活できるので、慎ましくすれば500日ほど生活できる金である。 


「それだけ素晴らしいものだと思ったんだ」


「ありがとうございます! これからも頑張って開発します!」


 この町を作ってから、礼を言われることにも慣れてしまった。人前に立つことにも。

 なんだかちょっと侘しい気分。


「ああ、村の方でも品種改良を頑張って、もっと美味しい素材を提供出来るようにするよ」


「ありがとうございます!」


 礼を言うと、青年はテンション高く去っていった。


 開発ラッシュっていってもこんな感じ。工房とか研究所とかそういうのじゃない感じ。

 一応そういうのもあるけど。







「わかった。わかったから。ちゃんと着いていくから」


「申し訳ありません。ご容赦を」


 マヨネーズ青年と別れたあと、俺は拉致されてしまった。宗教の人たちだ。


 まあまあ、とか。どうどう、とか。なんやかんやしているうちに、あれよあれよとコイツら拠点へと連れてこられた。

 教会のようなものだ。


 地下階段を下りるとかは特に無く、迎えられる部屋。渡されるローブ。彫刻の利いた椅子。


 渡されたローブは白い。真っ白だ。

 漂白技術も確立されていないのに、よくこんな白いローブを仕立てられたもんだ。


 そして、椅子もこれまた細かい彫刻の入ってある。

 宝石や金属の装飾品はないが、キレイな彫刻だ。

 いったい何か月かけて作ったのだろう。感心する。


 部屋の中は既に人が待機している。20人くらい。


「今日もアレだろ? 座ってればいいんだろ?」


「そのように、お願いいたします」


 別にありがたいお言葉を求められたり、奇跡を見せたりするわけではない。

 なんか俺を前に雰囲気出して、拝んだり祈ったりしたいらしい。


 この信者の人たちもこの町に住んでるって事は、普段の俺を見ているわけで。

 求められているのは、態度。

 とにかく威厳のある裏の顔を信じたいようだ。


 俺は雰囲気を出していればOK。ってこと。


 こうやって大勢に役割を求められると、つい演じてしまうのは悲しい人のサガだ。

 なんとなく威厳を出しながら椅子に座る。


「なむなむ」「なむなむ」


 なむなむする信者たち。

 やり方はともかく、こいつらには役に立ってもらっているので、無碍にはしにくい。

 持ちつ持たれつ。法を犯したら罰すればいい。



 全然関係ないけど、この世界って教会的なものが無い気がする。いや、ここにあるのがそうか。

 っていうか日本でも教会って、お世話になることまずないし。

 一応地元にもあったけど入ったことはない。近親が結婚したら使う機会もあったのだろうか。

 どうでもいいか。今更。



 祈りの時間は割と短い。大体5~10分くらいだろうか。

 長いと俺もしんどいし、信者の人たちもしんどい。

 いや、信者の人たちは頑張れるけど、俺はヤダ。


「じゃあ、俺は帰るから」


「お送りいたします」


 なむなむもされたので俺の用は終わり。羽織ったローブを脱がしてもらい部屋を出る。

 なんもしてないのに疲れた。


 俺の前じゃ大人しいのに、こいつらを相手にすると気疲れする。なんでか。







 そんなこんなで町をうろうろしていると、日も暮れる頃になっていた。

 仕事というわけでもないし、定時というものもないし、適当になんかして適当に帰る。うらやましいか? そうでもないだろう? ……そろそろ帰るか。


 の前に役所に寄る。


「アシュクロフト様、お疲れ様です。リリセラ様ですか?」


「ああオットーさん、そんな感じです。今日はもう村に帰ろうかなと」


 妻がバジリスクの呪いで困っていたオットーさん。

 ギルドの依頼で知り合った、王都の人。


 たしかに俺は町を作ったけど、町長の役目はこのオットーさん任せだ。

 俺は村長をやってるし、オールラウンダーちっくにウロウロする為、町長まではできないから。


 ぶっちゃけ、悪いことしなさそうな人ならお飾りで良かったのだが、リリセラや他の人の力も借りて、上手く運営してくれている。

 正直、俺がやるよりもよっぽど上手くやってくれている。


「リリセラ様なら、先ほどお帰りになられましたが」


「あれ?」


 ああ、そうか。今日はリリセラの料理当番だから早めに帰ったのか。

 ちなみに休日は俺の当番。俺の料理はアンコに人気。豪快だから。


「そういえば先ほど、不思議なドレッシングの登録しに来た方がいましたよ」


「俺も会いましたよ。卵のドレッシングを作った人ですよね」


「ええ、そうです。マヨネーズという名前で登録されてましたね。私も試食させてもらいましたが、あれは流行るんじゃないでしょうか?」


 マヨネーズ?

 あいつ、マヨネーズって名前をそのまま使ったのか?

 あいつバカか?


 俺がマヨネーズの名前を出したって事は、他にマヨネーズって存在があるって事なのに。

 まあ、実際には地球のものであって、この世界には無いから結果オーライなんだけど。浮かれすぎだろう。


「それで――」「ええ――」




 気がついたら結構な時間をおしゃべりしていた。

 本当に帰らないと。夕食に遅れてしまう。


「なんかあったら、誰かに頼んで魔導書を使って呼んでください」


 別に誰か遣いを寄こしてもいいんだが、魔力を飛ばしてもらった方が早い。

 正直、自宅に客人が来るの好きじゃない。


「そんじゃ帰ります。お疲れさまです」


「お疲れさまでした」


 大体こんな一日だ。早く帰ろう。

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