第42話:8年後の町
病院、学校、銭湯、公園等の施設。
電気、蒸気機関等の機械類。
菌、消毒等の概念。
ソース、ドレッシング等の調味料。
etc. etc.
どこかにはあるかもしれないが、少なくともアトレイアの国では見たことのない、俺が開発、普及させたもの。
いや、電気や蒸気機関はまだ開発できないか。簡単な物はできたけど、爆発事故とかあって頓挫した状態になってるから。
それから、
『エーデルワイス』による重傷者の治療。
食料の分け与え。
一日で増える建造物。
空を飛び、魔物を退治する俺。
町を作るにあたって、やりたい放題やっていたからか、俺を現人神とする宗教がこの8年の間に出来ていた。
つまり神様、もしくは神様の代理人みたいに思われている。
町を歩いているとたまに俺を拝む人がいるのは、そういうやつらだ。
「これはこれは、アシュクロフト様――なむなむ」
「なむなむすんな」
「ははは」
「ははは、じゃない」
大体この宗教に入る人は、俺によって本人か身内の重度な怪我、病気を治してもらった人に多い。それもあって熱狂的で過激だ。
そもそもこの町は、ノイエ達が差別に遭わない&豊かに暮らせるようにと作った町だけど……。
やっぱり差別は無くならなかった。
外から来ておいて嫌悪感を示すのがたまに居た。
でも、宗教の人や、村時代からの子供達、俺の世話になって恩を感じてる住民や、普通に俺を好意的に思ってくれている住民のおかげで、それを言葉や態度に出す人は少ない。
特に宗教の人がやばい。
ノイエやアンコに嫌悪感出したやつが、そのまま行方不明になる事件とかが普通にあった。
ちょっと怖いよこの町。俺の町なのに。
◇
「アシュクロフト様!」
町の人はみんな、俺をアシュクロフトと呼ぶ。
トーヤと呼ぶ人も居たが、産まれた子供に『トーヤ』と名付ける人が多すぎて、俺が怒ったら何故かアシュクロフトと呼ばれるようになった。
「見てください、新しいドレッシングを開発しました!」
町を歩いているとこうやって開発物を見せてくる人がいる。
この町は今、開発ラッシュだ。
俺が溜め込んだ地球産のアイデアや、思いついたアイデアをどんどん提供してるし。
一発当てれば一攫千金なので、何かを開発しようと躍起になっている人が多い。
簡単なアイデアや設計図を丸投げするだけで、人に開発してもらうのは心苦しいけど、やっぱりノウハウの事とかを考えたら俺が開発するよりも、この世界の住人達がした方がいいから。
前に、俺がスープの味を濃くすればソースになる。
というシンプルでいて、思いつき一つで開発に繋がる話はこの町でも有名なので、みんなこぞって開発しようとしている。
もちろん、副職としての開発者がほとんど。
「今回のドレッシングはすごいんですよ。今までとは違って、卵の黄色い部分を使ってドレッシングの開発に成功したんです!」
「へー」
ぶっちゃけあまり、興味はない。
こいつらにとって目新しくても俺にとっては目新しくないか、奇抜なだけで評価に値しないものだから。
けど、俺は優しいので興味あるフリをしてやる。
こういうのって、モチベーションに関わるし。
「んで、そのドレッシングってのはどれだ?」
「これです!」
そうして出てきたものは――
「マヨネーズじゃねえか! マジかよ!」
俺が知っている物より水っぽいし、少々匂いがキツイがマヨネーズだ。
20年位ぶりに見た。
「マヨネーズ? もしかして、もうある物でしたか?」
「いや、すまん、勘違いだった。気のせい。というか、これ作るの大変だったんじゃないか?」
完全にイメージでの話になるんだが、マヨネーズって割と現代に近い時期に開発されたのではないだろうか。
歴史の浅いというか。
それはつまり、素材はあっても中々思いつかないような、特殊な作り方な訳で。
それをこんな早々に開発するとか。こいつ天才か?
「自分、元々バター作りをやっていたので!」
何? どういう事? バターとマヨネーズって関連性あるの?
バターは乳製品で、マヨネーズは卵と酢じゃないの?
???
わかんねえ。どこが繋がってるんだ。
「……とにかく、これは確かに斬新なドレッシングだな。新しく商品として扱うといい。役所に持っていって、リリセラに登録してもらうといい」
「わかりました!」
「それで、2年が過ぎたら作り方を公表するから。ただし、その際にも材料の割合や分量は公表しないから」
「はい!」
開発されたものは基本的に作り方を登録させる。
そして、時間が立ったらレシピを公開する。
世間に広めることで、世界に広がるからだ。
世界に広まれば世界が豊かになる。俺はそれを望んでる。
狭い地域で終わらせたくないというか。
けど、そのまま公開すると開発者が損をするので、時期を見て市場調査をし、その流行具合で開発者に金を渡す仕組みにした。
変則的な著作権みたいなもんだ。
登録しないというのもあるが、他の人に真似をされれば、開発者が損をする。
真似されなければ、売り上げ等を独占できる。
その辺は自由にさせている。
あまり強制しすぎると反発されるだろうから。
「それと、その開発したものは素晴らしい物だと思ったので、これを」
そう言って金貨を2枚渡す。ポケットマネー。
これは俺個人からのプレゼント。
マヨネーズの開発とか超うれしいから。
「こ、こんなに!?」
小躍りしそうなほど驚く青年。
鉄、銅、銀、金とある硬貨の中でも、最上級の硬貨である金貨だ。
銀貨の20倍。銅貨の400倍。鉄貨の4000倍である。
鉄→×10→銅→×20→銀→×20→金。
宿と食事代だけで考えたら一日鉄15枚あれば生活できるので、慎ましくすれば500日ほど生活できる金である。
「それだけ素晴らしいものだと思ったんだ」
「ありがとうございます! これからも頑張って開発します!」
この町を作ってから、礼を言われることにも慣れてしまった。人前に立つことにも。
なんだかちょっと侘しい気分。
「ああ、村の方でも品種改良を頑張って、もっと美味しい素材を提供出来るようにするよ」
「ありがとうございます!」
礼を言うと、青年はテンション高く去っていった。
開発ラッシュっていってもこんな感じ。工房とか研究所とかそういうのじゃない感じ。
一応そういうのもあるけど。
◇
「わかった。わかったから。ちゃんと着いていくから」
「申し訳ありません。ご容赦を」
マヨネーズ青年と別れたあと、俺は拉致されてしまった。宗教の人たちだ。
まあまあ、とか。どうどう、とか。なんやかんやしているうちに、あれよあれよとコイツら拠点へと連れてこられた。
教会のようなものだ。
地下階段を下りるとかは特に無く、迎えられる部屋。渡されるローブ。彫刻の利いた椅子。
渡されたローブは白い。真っ白だ。
漂白技術も確立されていないのに、よくこんな白いローブを仕立てられたもんだ。
そして、椅子もこれまた細かい彫刻の入ってある。
宝石や金属の装飾品はないが、キレイな彫刻だ。
いったい何か月かけて作ったのだろう。感心する。
部屋の中は既に人が待機している。20人くらい。
「今日もアレだろ? 座ってればいいんだろ?」
「そのように、お願いいたします」
別にありがたいお言葉を求められたり、奇跡を見せたりするわけではない。
なんか俺を前に雰囲気出して、拝んだり祈ったりしたいらしい。
この信者の人たちもこの町に住んでるって事は、普段の俺を見ているわけで。
求められているのは、態度。
とにかく威厳のある裏の顔を信じたいようだ。
俺は雰囲気を出していればOK。ってこと。
こうやって大勢に役割を求められると、つい演じてしまうのは悲しい人のサガだ。
なんとなく威厳を出しながら椅子に座る。
「なむなむ」「なむなむ」
なむなむする信者たち。
やり方はともかく、こいつらには役に立ってもらっているので、無碍にはしにくい。
持ちつ持たれつ。法を犯したら罰すればいい。
全然関係ないけど、この世界って教会的なものが無い気がする。いや、ここにあるのがそうか。
っていうか日本でも教会って、お世話になることまずないし。
一応地元にもあったけど入ったことはない。近親が結婚したら使う機会もあったのだろうか。
どうでもいいか。今更。
祈りの時間は割と短い。大体5~10分くらいだろうか。
長いと俺もしんどいし、信者の人たちもしんどい。
いや、信者の人たちは頑張れるけど、俺はヤダ。
「じゃあ、俺は帰るから」
「お送りいたします」
なむなむもされたので俺の用は終わり。羽織ったローブを脱がしてもらい部屋を出る。
なんもしてないのに疲れた。
俺の前じゃ大人しいのに、こいつらを相手にすると気疲れする。なんでか。
◇
そんなこんなで町をうろうろしていると、日も暮れる頃になっていた。
仕事というわけでもないし、定時というものもないし、適当になんかして適当に帰る。うらやましいか? そうでもないだろう? ……そろそろ帰るか。
の前に役所に寄る。
「アシュクロフト様、お疲れ様です。リリセラ様ですか?」
「ああオットーさん、そんな感じです。今日はもう村に帰ろうかなと」
妻がバジリスクの呪いで困っていたオットーさん。
ギルドの依頼で知り合った、王都の人。
たしかに俺は町を作ったけど、町長の役目はこのオットーさん任せだ。
俺は村長をやってるし、オールラウンダーちっくにウロウロする為、町長まではできないから。
ぶっちゃけ、悪いことしなさそうな人ならお飾りで良かったのだが、リリセラや他の人の力も借りて、上手く運営してくれている。
正直、俺がやるよりもよっぽど上手くやってくれている。
「リリセラ様なら、先ほどお帰りになられましたが」
「あれ?」
ああ、そうか。今日はリリセラの料理当番だから早めに帰ったのか。
ちなみに休日は俺の当番。俺の料理はアンコに人気。豪快だから。
「そういえば先ほど、不思議なドレッシングの登録しに来た方がいましたよ」
「俺も会いましたよ。卵のドレッシングを作った人ですよね」
「ええ、そうです。マヨネーズという名前で登録されてましたね。私も試食させてもらいましたが、あれは流行るんじゃないでしょうか?」
マヨネーズ?
あいつ、マヨネーズって名前をそのまま使ったのか?
あいつバカか?
俺がマヨネーズの名前を出したって事は、他にマヨネーズって存在があるって事なのに。
まあ、実際には地球のものであって、この世界には無いから結果オーライなんだけど。浮かれすぎだろう。
「それで――」「ええ――」
気がついたら結構な時間をおしゃべりしていた。
本当に帰らないと。夕食に遅れてしまう。
「なんかあったら、誰かに頼んで魔導書を使って呼んでください」
別に誰か遣いを寄こしてもいいんだが、魔力を飛ばしてもらった方が早い。
正直、自宅に客人が来るの好きじゃない。
「そんじゃ帰ります。お疲れさまです」
「お疲れさまでした」
大体こんな一日だ。早く帰ろう。




