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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
三章
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第44話:リリセラとデート

「おかあさん、お腹すいた。ねえ、お腹すいた」


「お願い。もうちょっと、もうちょっとだけ我慢して」


「在るはずなんだ、この先に。楽園のような町があるって。聞いたんだ。俺のーー」


 ――ある日。

 リアカーを引いて、離れた町への買い出しから帰る途中、荒野を歩く謎の3人組を見つけた。


 聴覚を強化して聞いてみると、どうやら3人は親子で、俺の町へ向かっているらしい。

 確かに方向も合ってる。


 なるほど、たまに居る難民だ。

 こうやって町に来る途中のを見つけたのは初めてだけど。


「失礼、話は聞かせてもらいました。俺の町へ行きたいとか」


「なんだこの子供は!? こんな所に!」


 あっ、俺の事は知らないんだ。

 俺の事も知らない程度の噂で、こんな場所を歩いてるって事は、よっぽど切羽詰まった人達なんだろう。

 話からすると餓えてるみたいだし。


「ナーミンの町に行くんですよね? ご一緒にどうです? あ、食事の用意しますね」


 といっても、荷物には手を付けたくないので、その辺のを狩るか。

 そういえば、狩りも久しぶりだな。


 まずはソナーで食べられる獣か魔物を探す。

 居た。800mほどの所。多分、地面に作るタイプの鳥の巣がある。

 魔力を伸ばす。


 野生はただの魔力だけでも接触すると逃げられるため、有効範囲まで伸ばしたところで破裂するように電気の魔法。

 避雷針の要領で魔物へと電気が誘導され、はい終わり。


 死んだ鳥を風の魔法で引き寄せ、首を落として、心臓マッサージをする事で素早く血抜き。

 血抜きの際に心臓マッサージって本当は良いのかダメなのか知らないけど今は時間の短縮が優先。

 どうせ、俺が食べるわけじゃないし。


 で、捌いて、焼いて、渡す。


「なんだコイツ!」


 『なんだコイツ』って……。

 たしかに知らない人から見たら『なんだコイツ』って感じだけどさ。








「ってことなんだけど、オットーさん。空いてる集合住宅ってある? どっか作る?」


「作らないでください。えっと、西区のガラス工房のそばの集合住宅の人が、最近戸建を買って移ってますね」


 西のガラス工房の近くってことは、


「ああ、あそこね、わかった」


「住宅への案内はアシュクロフト様が直々にするのですか?」


「そのつもり。リリセラも連れてくけど平気かな? 忙しいなら一人でやるけど」


「はい、大丈夫ですよ」


 そう? 悪いね。仕事増やしちゃって。


 俺が作った無料の住宅だ。アパートというよりは寮かな?

 外から拾ってきたのは荒れてたりするので、治安も考えて寮母がいる寮が良い。

 母と呼ぶには屈強すぎるパワータイプの男達だが。


「先生、私はどうしたらいいですか?」


 リリセラの護衛兼秘書の女の子。前に塾で教えてた土魔法を得意とした子。


 結局、どこの仕事にも就くことはできなかったらしいので、連れてきた。

 城勤めも考えていたからか、戦えるタイプだったのもあって、護衛を任せた。

 俺の町で働けて、しかも元姫の直属の護衛なんだから超出世だろう。


 リリセラはアンコやノイエと違って自衛力がないので、ちょっと心配だったんだ。


 まあ、この町でリリセラにちょっかいを出すのはバカとしか言えないけど。

 もしリリセラに手を出そうとすれば、宗教の人や町の人に睨まれて、下手したら殺されるから。俺や俺の一家に対する狂信っぷりはすごい。


 とはいえ、他所から来る人も多いので、そんな暗黙の了解を知らない人も居る。

 そんな時の護衛だ。アトレイアの元姫だし、政治的に利用される可能性もあるしね。


「俺がついてるから大丈夫だけど、どうする?」


「……先生がついてるなら、私は事務に戻りますね」


 変な気は使わなくていいぞ。

 別にこんな時間から、人前でいちゃつく気はないから。


「それじゃあトーヤ様、行きましょうか」


 そう言いつつ、俺に向かってさりげなく手を伸ばすリリセラ。


「だから、人前では嫌だって言ってるだろ」


「いいじゃないですか。慣れたって言っていたじゃないですか」


 ええい、やめんか。あほ。俺はTPOも弁えず、人前でいちゃつくバカップルが嫌いなんだ。

 たとえ町の人が許しても、俺が許さん。

 つーか、今から人を案内するんだぞ? そんな前でやるのか? ダメだろ。

 そうだろ? じゃあ行こうか。






 

「ここ、銭湯という身体を洗う施設。まず、この町では清潔にしてもらうから」


 小汚い3人を風呂に入れ。



「じゃあ、これで3人分の料金と手間賃。案内と手助けしてあげて」


 料金を払って、従業員の人に洗うのをやってもらい。



「服3人分を3組くれ」


 3人を風呂に入れてる間に清潔な服を用意し。



「風呂から上がったら食事にしましょうか」


 鳥では足りないだろうから、食堂に案内し。



「ここが、あなた達の住む場所です。おーい、誰か居るかー?」


 新しく住む場所に案内し。



「裏のガラス工房が手伝いを募集してたので、顔を出してみてください。もし合わなければ、先ほどの役所で仕事が貰えますので」


 職の斡旋をする。









「なんなんだアンタは……。俺たちを、どうするつもりだ?」


「別にどうも。働くなりなんなりで、俺の町に貢献してくれれば、なんでも」


 身なりから何となく察していたが、あまり人に親切にされる事に慣れていないようだ。

 拾ってくる人にはよくあるので気にしない。


「あの、何から何まで、ありがとうございました」


 奥さんの方は素直に礼を言える人のようだ。

 この人がいるなら、あまり問題は起こさないだろう。


 起こしても屈強な寮母に絞められるだけだが。




「トーヤ様。ワタクシは何で呼ばれたのですか?」


「いや、女性も居るから必要かなーって思ったんだけど。別にいらなかったな」


「いえ、ワタクシは要らない子ではありませんから」


「そういう事を言ってるんじゃないって」


 どれだけトラウマになってるんだ。

 もう最初の頃の役立たずじゃないから。


「今から戻っても、時間もありませんし、少し歩きませんか?」


「そうだな。そろそろ日も暮れるし、適当な巡回して帰るか」









「トーヤ様。これ、ワタクシにどうでしょうか?」


「服も大分、色々なデザインになってきたな。リリセラにはこっちの方が似合うと思う」


「ワタクシもそう思ってました」


「えっ?」


「えっ?」


 服を見て。



「おーい、露店をするのは良いが、道に商品がはみ出してるぞ。敷地内でやれー」


「トーヤ様って結構細かい事気にしますよね」


「えっ? いや……、大事な事だろ?」


 視察をして。



「間食するには遅い時間だから、ここは無しで」


「今日はノイエさんのお食事担当ですからね」


 ティータイムはスルー。



「ちょっとガラス工房に戻ってもいいか? 商会からの連絡を話すの忘れてた」


「わかりました。ワタクシは外でお待ちしてますね」


「すぐ戻るから」


 ちょっと用事を済ませて。



「お嬢さん一人? うわっ、すごい美人」


「ワタクシの事ですか?」


「待てお前ら、ただのナンパだから。俺がいるから。大丈夫。取り囲むな。散れっ」


 ナンパを撃退。




 町の声に耳を傾けながらリリセラと歩いていると、ちょっと興味深い話をする二人組がいた。


『だからよぉ、やっぱりリリセラ様はローレル様だと思うんだよぉ』


『処刑された直後に消えたっていうしさ、この町がアトレイアの国とだけ提携組んでるのも怪しいよな』


『それに知ってるかぁ? グロリア様って、瀕死の病気だったのに、ある日急にピンピンに治ってたって話だぜぇ』


『優秀な治療師を見つけたっていうけど。そんなこと出来るのって、どう考えてもアシュクロフト様だよな』


 やはりこれだけ目立つと、リリセラの素性に気づく人もいるようだ。

 この町から王都まで数百km程度しかないんだから、元々そっちの人も少なくないだろう。


 とはいえ、この世界じゃDNA鑑定もないし、確証の取りようもない。

 グロリアさんと俺は裏で繋がってるから口裏も合わせ放題だ。


 仮にバレても……まあ、騒ぎにはなるだろうけど、なんとかなるだろう。

 それだけの基盤は作った。


「お姉さまの方は大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫だろ。あの人なら」


 なんだかんだしっかりしているし。


 それに、仮にリリセラがローレル姫だとバレて何をするのかって話だし。

 誘拐するにしても人質にするにしても、まずリリセラをなんとかしないといけないわけで。


 この町でそれをするのは不可能に近い。

 街中でアイドルを誘拐するようなものだ。


 俺が居て、ノイエが居て、アンコも捜索なら役に立つし、護衛する子も居る。

 自警団が居て、ギルドの人が居て、過激派の人もいて、格闘を見世物にする武闘派の人もいる。

 武具類もそれなりに揃っている。 


 そしてそれはグロリアさんも知っているので、口八丁も通用しないだろうし。

 無理筋ってやつだ。


 けど、一応連絡しておくか。


「そうだ、グロリアさんで思い出したんだけど」


「なんですか?」


「お前、グロリアさんとの文通に伝書鳥使うのやめなさいな」


「ダメですか?」


 駄目。数もそんなにいないから。


「あれは帰巣本能を使ってるから往復に使えないんだよ。わざわざカゴに入れて商隊の畜車で持っていってるの知ってるだろ?」


「商隊の方って一日に一本しか出ませんよね」


「まとまって出た方が安全だからな。とにかく伝書鳥使うと緊急時に使えなくなるから、普通に出してくれ」


「わかりました。次からは商隊の方にお預けしますね」


「そうしてくれ」



 気が付くと日も暮れてきた。夕焼けの朱も藍色か紺色に近づいている。

 なんていうか、疑う余地もなくデートだったなこれ。


「そろそろ帰るか」


「いえ、もう少し暗くなってから帰りましょう」


「……月が見たいのか?」


「わかっちゃいますか」


 いつもって程でもないけど、よくある事だからな。

 いったいどれだけの革命だったんだろうか、あの日は。リリセラにとって。


「遅く帰るんだから、後でノイエとアンコに謝っておけよ」


「ご一緒に謝ってくださいますか?」


「やだ」


「いじわるです」


 俺は大体いじわるだよ。

 優しいのはお前らが困ってたり、悲しんでる時だけでいい。いや、よくはない。


「あ、月が見えてきました」


 ゆっくりと時間を潰すように村へ歩いていると、ようやく月が見え始める。


「そうだな。もうちょっと暗いとハッキリ見えるんだが」


「そうですね。ですが、今夜も満月ではないですけれど、きっと――」


 だから、さりげなく指を絡めるなって。

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