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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
二章
33/56

第31話:帰ろうか

 目が覚めた。覚えてる。


「あ、ご主人起きた」


「ああ、おはよう。アンコもへーきか? どこか痛くないか?」


「うん。へーき。元気」


「ほんとかー?」


「ほんとほんと。アンコ、うそつかない」


「ならよし」


「うん」


 アンコも特に後遺症はなさそうだ。

 魔法を疑っているわけじゃないけど、昨日、肝心な時に役に立たなかったのが棘のように刺さっている。ちょっとだけね。


「トーヤ様、おはようございます。随分寝ていらっしゃいましたね。お疲れですか?」


「いや、お疲れとはまた違うんだけど」


 夢の中に長く居ようとしてたから長く寝てただけじゃねえかな。

 身体の疲れは特にない。


「そうなんですか? 魔力をたくさんお使いになられたので、お疲れなんじゃないんですか?」


「仮にお疲れだったら何かしてくれんの?」


「えっ…………」


 なんでそこでフリーズするんだよ。

 別に大層な事要求してないだろ。


「えっと……、が、がんばれっ、ってします!」


 両手を横で曲げて、えいっえいっ、ってするリリセラ。

 美人なくせに、くそプリチームーブかましやがって。ずるいぞ。


「どうでもいいけど、今日は子供たちいいの?」


「げっ、今何時?」


「ナンジってなによ」


 かーっ!

 これだから時計も無いような世界は。


 いいよ俺が開発してやるよ。夢の中で勉強してきたし。

 流石に機械式の時計は1mmも仕組みわからんから、日時計と砂時計だけだけど勘弁な。


 とにかく、色々覚えているうちに色々しないと。

 その前に、まずやらないといけないことをこなさないと。


「塾行ってくる」







 塾に着くと、生徒が群がってきた。

 コスプレしてる人に群がるカメラマンみたい。ちょっと違うか。


「先生っ、昨日のなにあれ!? 飛んでなかった!?」


「アレなんの魔法!?」


「昨日のすごいうわさになってたよ?」


 あーあーあー、そのことか。完全に頭になかったわ。なるほどね。そういうことなんだ。ふーん。




「夜逃げしようと思う」


「きゃっふー!」


 アンコはまたも大喜び。

 君は本当に俺の心の重荷を軽くしてくれるね。アンコが喜んでくれたなら俺は嬉しい。


「トーヤ、あなたね……。また町に居られない理由作ったの?」


「なんだか大変ですね」


「ちょっと待って、俺の話を聞いて」


 夜逃げって言葉を知っていたのはこの際ほっといて、事情を説明する。



「昨日、トーヤ様が飛んでいったのを町の人に見られて、騒ぎになっている。と」


「そういうことかな? 個人の特定はされてないけど、バレるのも時間の問題だと思う」


 塾の子がきっとバラす。

 もしかしたら昨日のうちにバラしてるかも、広まってないだけで。


「この町を出ること自体は町主にもう話をつけてきたし、塾の子供達にも話はつけてきたのでは大丈夫だけど……」


「よく子供達がぐずらなかったわね」


 いや、ぐずったよ。

 めっちゃ。


『先生、行っちゃうの?』『やだやだ』『俺たちを捨てるのかよ』『授業はどうなるの?』『もう会えない?』『先生……』


 心が痛い。


 それでも、最後には納得して送り出してくれた。

 いや、納得じゃなくて我慢だな。我慢して送り出してくれた。

 まだ子供なのに。


「子供心にも騒ぎの大きさがわかってるからじゃないでしょうか?」


 まあ教えれるようなことは既に終わってて、最近は練習するのを見てるだけにみたいになってきてたのもあるけど。

 なんにしても悪いことをしてしまった。


「まあそういうことなので、申し訳ないのですがこの町とも……、というかこの畑ともおさらばになりました」


「私達の方に原因があるんだから、責められるならこっちの方よ。ごめんなさい。いつも私たちのために」


「そうですよ。トーヤ様に責はないです」


「うー、アンコが死んだばっかりに」


 みんながそう言ってくれるとこっちも気持ちが軽くなるよ。

 でも、俺は俺の考えで行動してるんだから、やっぱり責任は俺にあるんだと思う。

 問題になるのはやり方が悪いって事だから。


 今回の事件は心に留めておいて、次に活かそう。

 もう次は絶対、町に戻れなくなるようなことはしないんだ。

 っていうとフラグになりそうだ。







 騒ぎが大きくなる前に、荷造りをして町を出た。

 こんな夜に急遽働かせることになってすまんトカゲ。次の餌は半ナマであげるから。


「それで、次はどこへ行くんですか?」


 それは実は決まってるんだ。リリセラが許可をくれるなら。いや、許可もらうけど。


「王都に行こうと思う。もちろんリリセラの国のな」


「!?」「!?」「おー?」


 アンコを抜かして、絶句する2人がちょっと面白かった。

 けど、話は最後まで聞いてね。


「ウワサ程度の話なんだけど。リリセラの姉な、処刑の後から衰弱がひどいらしいんだ」


 元々病気で弱っていたらしいし。

 そのせいで、リリセラを国主にしようかって話が出て、あの一件があったわけだし。


 そして、それを後悔していることも知っている。


「お姉様に会いにいくのですか?」


「俺もだけどリリセラもな」


 アンコとノイエは口を挟まなかった。


「直接会ったわけじゃないけど、このままだとお前の姉、死ぬぞ。この世界は医療もあれだし、姉の体調の悪さはヒールでは治らないんだろ?」


「お姉様を治すんですね」


 まあ察するよね。

 でも、それじゃあ半分ってところかな。


「それもあるけど、本命はリリセラの復讐だな」


「!!??」「!!??」


 またも絶句する2人。

 いいから最後まで聞いて、悪い意味じゃないから。


「だって処刑されたなんてムカつくだろ? だったらやり返してわだかまりをなくそう。治して殴ってまた治してやればいいんだよ」


 妹の首を斬るような姉はボッコボコにして、尻に手えつっ込んで奥歯ガタガタ言わせて、ごめんなさいってさせてやればいいんだよ。それで仲直りだ。


 それで仲直り出来るような奴、今まで見たことないけど。


「わだかまりを残したまま、姉を死なせたくないだろ?」


「ですが」


 まだグズるか。しょうがない。

 それなら切り札を切るとしよう。

 卑怯だからあまり使いたくない切り札だけど。


「俺ら3人はもう会うことは出来ないけど、家族には会っておいた方がいいぞ。会えなくなってからじゃ遅いんだから」


 俺は夢の中で会ったけどそれは内緒にしておこう。

 ノイエとアンコはダシに使ってごめんね。


 いや、そういう優しい視線もやめてほしい。ちょっと責めるくらいでお願いします。


「……わかりました。覚悟を決めます。今はまだ決心がつきませんが。……帰路のどこかで」


 帰路って言っても二ヶ月はあるし、それでいいよ。リリセラならOKしてくれるって信じてたよ。

 その二ヶ月の間に姉が死なないことを祈ろう。


「そうと決まればアトレイアの国へ戻ろうか」


 目的は姉妹の仲直り。

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