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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
二章
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第26話:あの日見た魔法

一話飛ばしたかも?

A.飛ばしてません

「夢から覚めろ、午前0時のシンデレラ『エンドフェイズホーリー』」


 開幕、即ホーリー。悪魔は死ぬ。

 お疲れ様でした。


 いくら強かろうが、悪魔には完璧な対処方が存在していて、俺はそれを知っていた。

 つまりそういう事だ。


 先制+初手で倒してしまったから、悪魔が強かったかどうかもわからんがな。


「…………」


「あ……」


 観客がポカーンとしていた。

 これは大会なのだ。観客がいる。ある意味エンタメなのだ。

 

 悪魔祓いの魔法は、悪魔が見えない人達にしてみれば、一瞬ちかっと光って、それで終わったようにしか見えない。

 ようするに死ぬほど気まずい。


 憑かれていた男はなぜか気絶したので、リアクションもない。

 俺は嫌な汗をかきながら足を膝についたが、もう遅い。


 悲しい視線に晒されながら、俺は3人の元へ戻った。

 最悪の形で目立ってしまった。


「お疲れ様でしたっ。あっという間でしたね!」


「ご主人のかちー」


 無邪気に喜んでくれる2人だが、俺には今その笑顔が苦しいよ。


「傍目にはよくわからない戦いだったわね」


「お願い、言わないでくれ。次からは気を付けるから……」


 けど、次の対戦相手は女性だった。


「えっ? そういうのある? なんで? 嘘でしょ?」


 いや、魔法に男性も女性もないんだから普通にありえる話なんだけど、バチバチにやりあう大会で男女混合でやるとか。

 っていうかなんで一回戦で負けてくれないの。そうすれば俺はやらなくて済んだのに。


 なんで3人は何も言ってくれないの?


 こういう時の俺ってどうするの? やるの? 女性を? 魔法で? えいっ、って?







 優勝した。

 つまり俺は一度も負けなかった。


 準決勝である3回戦も、決勝である4回戦も何の苦戦もなかった。

 ただ、エンタメを意識した俺は、無駄に演出を頑張った。


 ダメージの無い光だけの魔法を当てて、無傷な相手を強そうに見せたり。

 わざと相手に魔法を打たせてギリギリで避けたり。


 エルフでもない一般ピーポー達の相手は苦痛でしかなかった。

 こうやって相手をしてみると、如何にノイエやジジイが優秀だったかわかる。普通の魔法使いさん、マジ雑魚。



「ご主人ご主人、なんであそんだの? 弱かった?」


 やめてくれないか。俺の罪悪感をチクチク刺激するのは。


 たしかに舐めたプレイをしたけど、お前も見ていただろう? 初戦を。

 俺が真面目にやると、場が白けるんだよ。


「あなたって女が相手でも容赦しないのね」


 やめてくれないか。俺の罪悪感をチクチク刺激するのは。


 容赦したから。めちゃしたから。

 ノックアウトさせるか、降参させなきゃいけないから、ある程度はやらなきゃいけないんだよ。勘弁してくれよ。


「これで、トーヤ様の素晴らしさを少しは民に理解してもらえたかと思うと気分が良いですね」


 お前は結局、俺を自慢したかっただけかよ。

 景品が何かを知る前からやたら推してたけど、そういう事かよ。


 なんていうか、MP(メンタルポイント)をガリガリ削られた気分だ。たいして魔法も使ってないのに……。


 けど、これで賢者の石は俺のものだな。

 やることやって、町を出ようぜ。



「いやいや、いやはや。いやはや、これはこれは」


「お? なに言ってんの、こいつ」


「はい、お叱り」


 人の口調を茶化しちゃダメでしょ。だからお叱り。

 いや、確かに変な言い回しだし、なんだこいつって感じだったけども。

 身内に使う軽口を、そのまま他人に使っちゃダメ。わかった?




 大会が終わって俺たちは、本部までやってきた。

 優勝賞品である賢者の石を貰いに。


 ノイエがちらっと言っていた、よそ者って言葉を思い出してひと悶着あるかと思ったが、特に何もなく、賢者の石はもらえた。

 色々ザルな運営だったが、出し惜しみはないらしい。


「ご主人ご主人、石みせてー」


「ほら、食べたり無くしたりするなよ」


「おー」


 アンコに賢者の石を渡すと、まじまじと観察を始めた。日光に当てて透かして見ようとしている。


 リリセラとノイエの2人は、賢者の石には興味があまり無いようだ。

 2人とも既に見たことがあるのだろうか? あるんだろうな、お姫様とエルフだし。


 俺は賢者の石を沢山取り込んだけど、実物は見ていない。

 瀕死の間にジジイが使ったらしいから。

 だから俺も見るのは初めて。


 見た目は赤い水晶だな。

 ルビーよりも濃くて、血の色みたいだ。ルビー見たことないけど。

 それに透明度もかなり低い。


 ん? 透明度が低いなら水晶じゃないのか? わからん。

 俺には姉妹とか居なかったから宝石には詳しくないんだ。母も宝石系はあまり興味なかったみたいだし。


「それで、ですね。いやはや」


「あれ? まだなんかあります? 石以外にも」


「ええ、ええ。いやはや。それはそれは、うんぬん」


 それにしても腰の低い喋り方をする人だ。

 きっと、上から下から色々言われる立場の人なのだろう。


 ぶっちゃけ、この人の喋り方がアレすぎて聞き流したので、何を言っていたのかわからなかったけど、リリセラが説明してくれた。


 昔から校長先生の話とか聞き流す癖があったんだよね、俺。

 多分、全校生徒の8割が同じ癖を持ってたと思う。



 要約すると、俺の魔法が多彩で素晴らしかったので、ぜひこの町で人に教えてほしい、と。

 学校だか、塾だが、寺子屋だか。そういう感じ。期間は次の新月まで。

 ようするに大体一か月。


 見た目を派手にしようとエンタメした所為か。


「一か月か……」


「それだけあれば、トーヤのも収穫できるんじゃないかしら?」


「ワタクシもできたら、もう少し……」


「アンコの畑ー」


 みんな畑に未練たらたらだった。俺もだ。


「じゃあ、もう少しだけ滞在するか」

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