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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
二章
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第27話:授業をするよ

 翌日、俺は朝から塾へ来ていた。


 話によると塾生は全てそれなりに裕福な家庭の子だが、お偉いさんのお子さんはいないとのこと。貴族はもっぱら家庭教師だってさ。


 まあ、貴族なんてどうでもいい。

 うちには貴族よりも上位な存在。リリセラがいるからな。


 それに変な権力者がいない方がやりやすいだろう。

 俺は社会経験がないので、正直な話、イマイチ目上の人との接し方がわからないんだ。

 高校生になって、バイトとか経験する前に異世界に来てしまったからね。



「じゃあ授業を始めます」


 中に入ると椅子に座った少年少女がいた。机はない。

 下は1桁から上は14歳位の子供が全員で6人。

 子供の無邪気な視線が俺に突き刺さる。


「ジュギョウ、って何?」


「新しく教えてくれる人ってこの人?」


「この人子供じゃん」


「昨日の大会で勝ってた人だ!」


 塾なのに授業って言葉すら知らないあたり、前途多難さを感じる。


 ってかうるさいジャガイモ達だな。

 そうだジャガイモだよ、こっちの世界にもジャガイモがあったらいいのに。ああ、植えたい。

 育てやすくて、量もできて、主食にもなって、旨い。

 俺もそういうのを育てたい。

 

 既に心は畑に飛んでいた。帰ったら畑仕事しよう。


『なんか考え事始めたぞ』『だから、授業ってなんなのさ』『子供じゃん』『この歳で大会優勝出来るなんてすごくない?』『この人が教えてくれるんだよね?』『あんまりすごくなさそう』『昨日の見たけど凄かったよ』


 やんややんや、やんややんや。

 ピーチクパーチク。


 子供が集まると騒がしいを通りこして騒音だな。

 やかましいが、別に不快ではない。俺も子供の頃はこんなだったし。


「はいはい、静かにー。こう見えても子供じゃありません。静かに聞くようにー」


『この人なんか偉そう』『でも教えてくれるんだから、ちゃんと聞かないと』『前の人も偉そうだったよね』『この人ぐらい魔法が使えるようになったら、お城で働けるようになるのかな?』『わたしはお城じゃなくてもいいからお仕事につけるようになりたい……』


 大丈夫。イライラしてないよ? 俺も子供の頃はこんなだったし。


 けど、なんだか小中学校の先生たちが「静かになるまで2分もかかりましたー」とかやる気持ちが少しだけわかったような気がする。




「静かになったようだし、授業を始めるぞ」


 ようやく静かになったので授業を開始する。

 のだけど、そもそも何を教えればいいのかわからない。


 わからないから、直接生徒達に聞こう。


「そもそも何を教えればいいんだ? 今使える魔法を上手に使えるようにすればいいのか?」


 それとも何か新しい魔法を覚えさせればいいのか?

 俺の知ってる魔法使いはジジイとノイエ位だから、元々出来る部類の人だったし。

 新しく教えるのは難しそうだ。


 魔導書を使えば、また話は違うのだろうけど。魔導書は高い。

 経費で落ちればいいんだろうけど、無理だろう。


「上手にってそんなことできんの?」


「多分出来る。魔法に関して俺にできないことはない」


「この人、すごい自信だよ?」


「でも、多分って言ってるぞ……」


 またピーチクパーチクうるさくなってきた。

 このままではいけない。


「とりあえず全員、外に出てくれ。全員がどの程度の魔法が使えるのか知りたい」


 教えるにはまずレベルを知らないと。それよりも黙らせないと。

 よって全員を部屋から追い出す。




 んで、全員に魔法を使わせた結果。得意分野が――

 火が2人、風が1人、水が1人、風と光が1人、土が1人ということがわかった。


「これから魔法を教えるけど、今見た魔法から得意分野だけを伸ばしてもらおうと思う」


 まずは、今使える属性を伸ばすことにした。

 魔力も練度も足りてない少年少女達には、バランスよく色々使えるようになるより、得意分野を伸ばした方が楽しいだろう。




「まずは風だな、風を使える子はこっちにこい。残りは見ててもいいし、自由にしてていいぞ」


 自由にしてていいっていうのに、全員が見学を選択した。

 こいつら優秀だな、自習OKで見学を選択とか。俺が学生をしていた頃じゃ考えられない。興味の問題か。


「まず、風の魔法だけど。いま使ってるみたいにピューピュー吹かすのは禁止」


 身体が吹き飛ぶくらい強く吹かせられないなら無駄遣いだ。

 瞬発力があるなら石を飛ばしたりもできるけど、それならぶっちゃけ投げても大差ない。


「じゃあどうすんの?」


「風の魔法で風吹かせたらダメって?」


 こいつらは城に勤めたいのだから使用方法は主に戦闘。よって使い方は――


「風の魔法だけど風を吹かせるんじゃなくて空気を固める。これを使えば攻撃を防ぐことが出来るというわけなのです」


「よくわからない」


 とのことなので、ほっぺを膨らませて指で押す。

 すると見えなくても空気というのものがある、ということがすぐわかる。わからない? わかれよ。


 空気の存在を教えたあとは、実際に俺の周りに空気を集めて固めて、そこに石を投げさせる。

 すると当然、石は俺には届かず空気の壁にあたって落ちる。


「すげー」


「やべー」


「風つえー」


 称賛が飛んできて少し照れる。

 風つえーだと意味が違って聞こえるな。強風って意味に聞こえる。


「これが基本だな、やり方は後で教えるぞ」


 あともつかえてるので風の話は終わりにし、残りは自習させて次へいく。とりあえず一通り教えてからちゃんとした事を教えよう。





「次に火だな。火は俺が見てやるから各々使ってみろ」


「はーい」


「ほーい」


「へーい」


 おい、なぜ3人返事した。火は2人だろ。真面目にやれ。


「ほーい」


「へーい」


 しかも最初に返事した奴が偽物かよ。どうなってんだ。



 2人に火の魔法を使わせてみるがやはり弱い。

 最大量で、バスケットボール程度だ。


 このままでも戦闘に使う位なら出来るだろうけど、俺はそれを魔力視を使い色を見ながら指示し、純度を上げさせた。

 純度が上がれば威力、この場合は熱量か。熱量が上がるので役に立つ。


 風と同時に使えれば純度を上げなくても温度を上げる方法はあるけどね。物理に従って。この場合化学か?

 それはおいといて。


 あとは、火を空中に維持させ、そこに別途、継ぎ足していくことで威力を上げる方法を教えた。

 魔力の消費が激しいのですぐにバテるだろうが、最大威力は高い方がいい。特に火は。





 水は応用できなければ、戦闘には向いていないので、とにかく飲み水の確保要因だ。


 よって、目には見えないけれど、空気中には水分というものがあるので、そこから集めるということをなんとか教えた。

 大気中にある水分の事を教えるのはたいへんな苦労だった。

 目に見えないものの存在を教えるのってマジたいへん。

 物を冷やして結露させて、なんとかなったけど。それでも理解に時間がかかった。


 それから、兵として採用されたいなら魔法よりも体力をつけろと走り込みをさせる。




 土は魔力消費が激しくて、正直どうにもならない。


 得意と言っても石を魔法で砕くとかだし。

 せめて土で壁を作れる位にならないと役にたたないだろ。


 なので、魔力を通して硬貨の純度を調べる方法を教えた。

 純度の高さがすぐわかれば、偽造硬貨に騙されることもなくなり、商人などの会計的な仕事で役に立つから。

 この世界は重さで量るのが普通らしいけど。


 昨日、どこでもいいから魔法の仕事に就きたいって言ってたのは多分こいつだな。土魔法で仕事に就くのはマジ大変だろうけど頑張れ。


 問題は前にノイエが言ってた、金属には魔法は使えないって奴。

 俺には普通に使えるからこればっかりはやらせてみないとわからない。


 もしダメならまた考えるよ。




 光は……、色を変えるぐらいかな……。

 それ以外は、ただひたすらに練度をあげて光量を増させるくらいしか思いつかない。

 ごめんね。ほんとごめんね。


 夜明かりをつけたり、色で通信するとか方法があるけど。だからなに? って感じだし。

 その辺は魔法の練習じゃなくて、ただの工夫だから……。





 で、全員に色々教えた結果、懐かれた。


「すげー」


「なんで色々魔法使えるの?」


「前に教えてた人よりわかりやすい」


 前の人より良いだと? 当然だ。賢者の石さまが化学や科学の知識を持っておられるのだぞ。


「先生と呼べ」


 俺は図に乗った。


「先生もっと教えて」


「先生!」


「先生、先生!!」


 うむ。子供というのは素直でよろしい。


 なに、任せろ。俺が一流にしてやる。

 例え賢者の石(俺の血液の方)を飲ませてでも……。







「ってな感じよ」


 家で今日一日の出来事を語る。

 食卓を囲んで、完璧に仕事帰りのお父さんだよ、これ。

 いいね。好みのシチュエーションだよ。


「トーヤ様、なんだか楽しそうですね」


「子供が好きなのね」


「ご主人って教えるのじょうずだっけ?」


 なんでそういうこと言うの?

 自分では割と上手く説明出来る人だと思ってたよ?

 なあ、ノイエ?

 ノイエには魔法を教えることもあったし、わかってくれるよな?


「トーヤの話は内容さえ難しいけど、説明が下手だと思ったことはないわよ。…………?」


 ないわよ。とか言いながら、どうだったかな、って思い出そうとするのやめてノイエさん。

 いいよ別に、無理してフォローしなくても。


「ところでノイエたちは今日は何をしてたんだ?」


「クエスト!」


 またクエストか、暇なんだろうな。


「はい、今日は畑仕事が終わった後に、みなさんで簡単なクエストをしました」


「この子ったら、クエストの最中に泥だらけになって遊んでたのよ」


「あ、あの時はおっきな虫が居て驚いたんですよっ。ふざけてた訳じゃないんです」


 すごいわかるわ、それ。

 こっちの世界の虫は大きいのはマジ大きいからな。20cm位あるカナブンっぽいのとか。

 俺も森で慣れるまで時間かかったよ。慣れねえよ、気持ち悪い。絶滅しろ。



 それにしても、なんだか随分ほのぼのとしてるな、そっちは。

 なんか危機感が足りてないようにも思えるけど、ノイエ達にとっても弱いんだろうな、この辺の魔物は。

 畑の関係で、やばそうなのはちょいちょい俺が処分してるからな。


「へーき。きにしない。だいじょーぶ。アンコもたまに汚してノイエに怒られる」


「アンコさんはたまにじゃないですし、ワタクシは自分で洗いましたっ」


 元お姫様が自分の服を自分で洗うとか、本当にたくましくなったもんだ。虫にはまだビビるみたいだけど。


 塾の子供達も素直で悪くなかったが、やはり俺はこっちの方が好きだ。

 こういう日が続いて欲しい。

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