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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
二章
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第25話:波乱ってほどでもない

 畑の問題は山ほど発生はしたけど波乱ってほどでもなく、3ヶ月が経った。


 早いモノは2ヶ月も半ばから収穫でき、みんなご機嫌です。

 本来、こんなに早く収穫できるものじゃないってノイエが言っていたから、きっと『エーデルワイス』が効いたのだろう。


 ちなみに俺のはまだ収穫出来ていません。ご立腹です。

 じゃあ、ご機嫌じゃねーじゃねーか。


「ご主人ご主人、アンコのあげようか?」


「情けをかけるんじゃねええぇぇーーー!!」



 そして3ヶ月後といえば大会当日。


「トーヤ様、ようやく待ちに待った大会ですよ」


「トーヤがやったら一体どうなってしまうのかしらね」


「ひとが死ぬ?」


「なに? この大会って、人殺してもいいの?」


「良いわけないじゃないですかっ。何を言ってるんですか」


 特別待ちに待ったわけでもない魔法の大会。

 とりあえず賞品も欲しいし、リリセラが妙にやる気なので大会に出る事になった。もちろん俺が。リリセラがじゃなくて。


 大会は町でやる。

 実を言うと久しぶりの町だ。


「俺はしばらく畑仕事やダム管理にかかりっぱなしだったから、町は久しぶりだな」


 特にダムは初めての試みで、もし事故が起こると災害に繋がりかねないから慎重に管理した。

 俺が原因で大災害とか洒落にならないし。


 それに町に行っても特にやりたい事がないというのもある。

 そもそも娯楽施設もないし、店は品揃えが悪いし、魔導書とかもあまり興味を引くものはなかったし。


「アンコはノイエとクエストしてた」


「畑は付きっ切りでやる事でもないから。それに、お金も必要になるし」


「ワタクシも見学してみたいです」


「そうね。次の町でね」


 今日、賢者の石を貰ったら町を出るから農業は終わりなんだけど、すごく勿体無い気がしてきた。

 だからって、いつまでもここに居るつもりもないし、やめる時はすっぱりやめよう。


 とか言いつつ実は昨日、みんなで続けるかどうかの会議をした。

 結果は、農業は終わりにして出発することになった。

 後悔はしていない。本当はちょっと後悔してる。半分位持っていこうかな。無理かな。無理だよね。でも、無理すればなんとか。無理か。





「む?」


 町に入ってすぐ異変に気づいた。

 なんかいる。魔力のすごいのが。

 町に入るまで気付かなかったなんてボケたかな? 俺。


 ちょっと普通じゃないレベルだし、処分した方がいいだろうか?

 別にいいか。大会終わったらおさらばだし。機会があったらちょっと見て、それでバイバイだ。


 だいたい魔力が多いだけで処分されるなら俺だって処分の対象だし。

 大会を観にエルフのすごいのとかが来たんだろ。ノイエの知り合いだったどうしよう。いいや内緒にしとこ。パーティ抜けられたら嫌だし。抜けられたら後付けるけど。


「そういえばノイエは結局大会には出ないんだな」


「私はエルフだから。魔法が得意のはわかってるし不満を買うわ。それにここは差別もあるからあまり目立ちたくないの」


「ワタクシはノイエさんの活躍も見たかったですが、ノイエさんがそういうなら仕方ないですね」


「ノイエとご主人、戦わないのかー」


「無茶言わないでよ」


「なんだ、アンコは俺のノイエの戦いが見たかったのか。また今度な」


「やらないわよ。やめてよ」


 謎の魔力を感じていながらもほのぼのとした会話を繰り広げる。

 多少の驚異は俺にとって驚異ではないのだ。




 大会は参加者13人。

 日本にいた時の大会ってやつの規模から考えると、すごく小さな物だ。


 会場も、デパートの屋上ライブでも行うのかと思わんばかりサイズで、この中で魔法を打ち合うらしい。競い合うではなく打ち合うらしい。


 今回は違うが、国からの勧誘があることを考えると、戦いに使えるかどうかを見るのは当然というわけだ。

 戦いに使えない競技者なんて見てもアレだからな。


 もちろん怪我人を治せる治癒魔法の使い手が2人待機しており、安心してほしいとのことだ。俺には必要ないが。

 治癒魔法使いは大会に出ないの? そんなん引っ張りだこだから大会に出る必要ないだろ。


「対戦カードも運営側が勝手に決めるとか、13人とキリのいい数字じゃないのにマジざるシステムだな」


 権力者を運営がこっそり贔屓する為のシステムなのかな。

 魔力は体力よりも回復し辛いし、戦闘回数が少なければ、それだけ温存できるのだから。


 どこの世界も権力者は自分に有利なシステムを作るのさ。


「システムという言葉の意味はわかりませんが、1対1で上がっていくのなら偶数にするか、別の手段を取るべきですよね」


「なんでもいいよ。ご主人がすこぶる勝つし」


 アンコの信頼は厚い。

 実際のところ、俺の勝利を疑っている者は一人として居ないのだ。




 試合になったら呼ぶのでということで観客席に戻っていると、俺の中だけで噂のあいつが会場に入ってきた。


 当然そちらを見るとさらにぶったまげた。

 一人の男に重なるように、ぼんやり魔力が見える。

 しかもこれ、人だ。人の形をしている。


 顔や手があり、魔力の集合体ではあったがたしかに人だった。だが、下半身は薄い。

 どう見てもノイエの知り合いではないだろう。


 それに、魔力視も使わずに見えるというのは初めての経験だった。

 それだけの密度がある。

 なにこれ、守護霊?


「(ノイエ、ノイエっ……)」


 3人でガールズトークを楽しんでるところもうしわけないが、他の人には聞こえないようにノイエに耳打ちをする。周りに知られたら大騒ぎかもしれないから。


「(ちょっと、耳元で喋らないでよ。見えてるわよ)」


 ノイエも既に魔力視を使ってみていた。

 しかしまわりを見るに、他の人には見えていないどころか、気づいてもいない。


 2人にはなんでもないよと話を続けさせる。


 男にまとわり付くその魔力には、意思があるのだろうか?

 人の形をしているだけで、ただ、漂う存在なのだろうか。


 いや。


「(ノイエ、ノイエっ……)」


「(ちょっとっ、何よ。怒るわよ)」


「(あれって、悪魔じゃないか?)」


「えっ?」


「ノイエさん、どうしました?」


「あっ、いえ、なんでもないわ。気にしないで」


 俺の方からも何でもないよ。とウソを付いて、あっちを向かせる。

 明らかに疑って居たが、これはリリセラに聞かせたくない。


 リリセラは一度、悪魔の汚名を着せられて処刑されてるからな。


 実際にあれが悪魔かはわからないが、おそらく間違いないだろう。



 今度は取りつかれている男をよく見る。

 意識はあるようだが、明らかに体調が悪そうだ。ついでに言うと機嫌も悪そうだ。

 ノイローゼっぽい。


 あんな人、一人分の魔力に憑りつかれて、何かしら影響があるのだろう。

 夜も眠れてないのかもしれない。


「(まさか本当に悪魔なんていたのね。それでどうするの?)」


「(何故か大会に出るみたいだから俺が処理するよ。どのみちあれほどの魔力があったら、何処かで負けるということはない)」


 あれだけ純粋な魔力を一人分抱えていて、それを満足に使えるなら、ノイエでも敵わないだろう。


 しかしなんだな。

 自分で言って思ったけど、魔法の大会なんて出るのか、悪魔。なんか俗物っぽいな。


 いや、もしかしたら、優勝賞品の賢者の石が目当てなのかもしれない。

 悪魔を強化するにしても。何らかの方法で取り除くにしても。 


 どちらにしても、俺とこいつで決勝争いになりそうだ。

 普通に考えて、こいつが途中で敗退ということはないだろう。


「――トーヤっ!」


「ん? あ、呼んだ? ごめんちょっと考え事してた」


「トーヤ、聞いてた? 一回戦はトーヤとあいつとっぽいわよ?」


 あいつ? あいつって、悪魔憑き?


「ご主人がんばれー」


「応援してますから!」


「…………なんで?」


「さあ? よそ者同士だからじゃない?」


 だからさ、そういうとこ迂闊なのよね。俺。

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