王の在り方
副題:王太子の悩みと答え
フェルディナン、自分自身に着いて少しだけ悩むの巻。
若者はいっぱい悩んでこそ、物語は盛り上がると思ってますを
カペーの王太子であったフェルディナンは、革命軍の指導者であったヴィーニュ・ソーテルヌが権力を握って以降、自分自身の在り方について悩んでいた。
かつては王位継承者だったとはいえ、今は処刑された国王の息子として追われ、王国ではなく連邦となったこの国の悪として扱われる。
当たり前だが、そのようなことにフェルディナンの心が耐え切れるはずもなく、平静を保ちつつも心の中では涙を流していた。
王と呼ばれる立ち位置の者は、国はもちろん民も守らなければならない。
しかし、その民から悪として糾弾された上で追われる身となった自分を、ルクスブルグに行っても受け入れられるのだろうか?
一度そう考えてしまったからか、苦々しい思いが彼の脳裏に張り付いたようで、心なしかその感情が表情に漏れ出ていたこともあってか、婚約者であるロレーヌは心配そうな顔になっていた。
「フェルディナン、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ....大丈夫だ」
そのこともあってか、そう尋ねる彼女に向けて無理に笑顔を作りながら答えるフェルディナン。
それを見たロレーヌは無理をしているのだと悟ったのは良いものの、どう声をかけたら良いのかが分からなかったのか、二人の間で無言の時間が流れていた。
そんな二人を見たアンドレもまた、彼のことを気にしていたのだが....当のフェルディナンはどこか暗さを感じる様子で前衛を担当していたタルコフに対し、こう声をかけていた。
「タルコフ....少し良いか?」
「あぁ、何だ?」
「その.....君の故郷では、民が王を断罪するということはあるのか?」
フェルディナンの口からそんな言葉が飛び出した瞬間、思わず動きを止めるタルコフ。
彼女自身は、自らに向けて放たれた言葉の意味を理解していないわけではなかった。
むしろ、フェルディナンのその言葉を理解していたからこそ、どう答えて良いのかを考えていたのである。
そして、今後のことを考えた上で不安な様子を見せていた彼に対し、タルコフは自らの意見を述べるようにこう答えた。
「....その民の意思で悪として断罪されるどころか、国を治める王が決まると言ったら?」
彼女がそう言った瞬間、目を見開くフェルディナン。
と言うのも、彼が生きるこの時代では王は血筋で決まることが多かったため、民が王を選ぶということは無かった。
そのため、フェルディナンは軽く衝撃を受けていた。
それもあってか、彼は震えた声でこう尋ねていた。
「....そんなこと、あり得るのか?」
「あぁ、あるにはあるぞ」
信じられないとばかりの反応をしている彼に対し、タルコフはその言葉に耳を傾けつつもそう言うと、フェルディナンはまるで頭を何かで激しく叩き壊されたような感覚になっていた。
彼女の口から出た言葉は、王とは血統以外の要因で選ばれるという可能性を示していた反面、それがこの時代においては異端であることを彼はすぐに理解していた。
しかし、それをさも当然のことだと語るタルコフの顔を見たからか、彼女が嘘を言っていないのだと感じたフェルディナンはしばらく言葉を失っていた。
「そう....なのか」
しかし、人々はその選択をしたのかと気になってきたのか、顔に滲み出ていた暗さは少しだけ消えていた。
そのため、それを見たロレーヌはフェルディナンの話を聞いてくれたタルコフに感謝していた。
ちょうどその時、重い空気を変えるようにアンドレが作っていた料理が出来上がったため、タルコフとフェルディナン達は食事を始めていた。
この日の食事は野菜屑と塩漬け肉、それからほんの僅かの塩とキャラウェイで仕上げたスープに、白パンに慣れている人間からすれば硬いパン。
それらを安いワインで流し込む形で食べ始めたタルコフは、レーションよりかはこっちの方が美味いなと思いつつ、栄養補給とばかりに胃の中に流し込んでいった。
「.....美味いな」
「えぇ、本当に美味しいですね」
そんな彼女を尻目に、フェルディナンとロレーヌは旅という名の逃亡生活をしているからか、その食事に文句一つ言うことなく食べていた。
そして、その言葉を聞いたアンドレもまた嬉しそうにしており、それを見たタルコフは素直な奴だなと思っていた。
彼女がそう思っていた時、スープを食べていたフェルディナンはタルコフに対し、さっきの質問に続きをするようにこう言った。
「タルコフ、君の国ではどうやって民が王を決めているのだ?」
フェルディナンがそう尋ねた瞬間、視線を彼の方へと向けるタルコフ。
彼女のその顔にはそれを俺に聞くのか?という表情が映っていて、それは面倒というよりかは予想外と言わんばかりの顔だったとか。
タルコフ自身は政治に関しては詳しくは無かったものの、それでも話をしたのは自分だしなと思ったのか、フェルディナンに向けてこう言った。
「どうって....何人かの候補を決めた後、その候補の中から選ぶんだよ」
「何人かの候補の中から....王を選ぶ........?」
タルコフがそう言った瞬間、興味深いと言わんばかりの様子になるフェルディナン。
なお、それを見たロレーヌもアンドレは彼が元気になったと思ったのか、ホッと一安心していた。
ただ、もし仮に民の中から選ばれた王が罪を犯した時はどうなるのか?
そのことが気になったのか、今度はその顔に複雑な表情を浮かべていたのか、フェルディナンは悶々と王について考えつつ、スープを口に運んでいた。
その様子を見たタルコフは真面目だなぁと思いながらも、こう話を続けていた。
「あぁ、そうでなきゃ王を選ぶための材料は分からないし、何より誰の政策が国や自分達の暮らしを良くするのかを見極めなきゃいけないからな」
「......それはつまり、民が暗君を選ぶことがあるとでも言うのか?」
「まぁ、そういうこともあるらしいけどな」
タルコフの口から出た言葉に対し、何かを考え始めるフェルディナン。
そういえば、彼女が故郷について語るのはこれが初めてだったな。
そう思うのと同時に、次第にその話に理解できる節が出てきたのか、彼は薄いにもほどがあるワインを飲むとこうも思った。
今のカペーはヴィーニュという英雄が王に近い立ち位置だが、彼もまたある意味で民から選ばれた王なのかもしれない....と。
そう考えてるフェルディナンを尻目に、タルコフは自身が食べていたスープを飲み干した後、彼に向けてこう言った。
「ただまぁ、王様なんて時代が変われば名前も立場も変わるのは当たり前だろ?」
王の在り方は時代によって変わるもの。
そんなタルコフの言葉を聞いたフェルディナンは、まるで目から鱗でも落ちるかのような感覚になった後、彼女を傭兵として雇ってよかったなと思い始めていた。
その様子を見守っていたアンドレは、やれやれという具合で呆れていたものの、それでも彼が元気になったのを見たからか、内心嬉しそうにしていた。
「....そうだな、確かに王の在り方は時代と共に変わっていくものなのかもしれないな」
そう呟いた後、婚約者であるロレーヌの手を握るフェルディナン。
それはルクスブルグでどう扱われるかを気にしていた一人の王太子というよりかは、ルクスブルグで何が出来るのかを模索する決意をした一人の青年の姿であったため、ロレーヌは彼の決意に寄り添うように手を握り返していた。
そして、そのままスープを食べ終わったフェルディナンとロレーヌは、いつかルクスブルグに到着する日に備えて眠りに着いていた。
「....俺、余計なことでも言ったのか?」
「いや、むしろその逆だな」
一方その頃、タルコフとアンドレは見張りという名目で二人の眠っているテントの外にて、夜空を長らめながらそんな会話をしていたのだった。
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