惨劇と恐怖
副題:襲撃の後に
魔法士、緑衣の悪魔の所業に戦慄するの巻。
ちなみに、この世界の魔法使い達は魔法士と呼ばれているとか。
連邦政府側から派遣され、野営をしていた騎士達が何者かによって殺された。
しかも、その騎士達の中には英雄であるヴィーニュに加担する形にて、暴動時に活躍した者達までもが容赦なく殺されていたため、連邦青軍は野営地で起こった惨劇に戦慄した。
しかし、そのヴィーニュ自身は野営地で起きた惨劇に対し、心の中では悲しむどころか怒りが湧くことはなかった。
むしろ、また緑衣の悪魔が現れたことを察したのか、これで彼女への手がかりを手に入れることができると思っていたのか、軍や騎士達に対してこう命じた。
野営地の惨状が何故起こったのかを調査せよ....と。
それにより、軍からは騎士の他に何人かの魔法士も派遣されたのだが
「お、オェェェ.......」
その野営地にて、魔法を用いて惨劇の光景をこの目で見たのが原因で、派遣された魔法士達は言葉を失うのはもちろんのこと、一部の者はその惨さからか吐き気すら覚えていた。
名のある騎士達を殺したのは、緑衣の悪魔と呼ばれる存在だった。
緑衣の悪魔は、王家の生き残りであるフェルディナンを追跡していた騎士達を襲って以降、連邦に属する騎士達の間では本物の死神ではないかと噂されていた。
それはまるで、夜中にお化けが出ることを信じる子供のように。
そして、その噂を証明していくように緑衣の悪魔は野営地に現れ、淡々と静かに騎士達を手にかける形で一夜のうちに全滅させたため、それを魔法越しにした魔法士達が絶句したのは言うまでもない。
「なんてことだ......こんなこと、本当にあり得るのか!?」
「名だたる騎士達が....一瞬で.......」
当然ながら、その光景を魔法の力を用いて見た者達は絶句し、これが現実なのかと疑う者まで居た。
それもそのはずで、何しろ緑衣の悪魔は未知の武器を使っていただけではなく、明らかに騎士ではない戦い方をしていたのもあってか、誰がどう見ても恐ろしい存在なのは分かりきっていたことであった。
何故、緑衣の悪魔が野営地を襲撃した上で騎士達を殺した
何故、革命に参加した英雄である騎士達が誰一人として緑衣の悪魔に敵うことができなかったのか。
そう思えば思うほどに、魔法士達は緑衣の悪魔の恐ろしさと不気味さに震えていた。
「そういえば、野営地には他にも何かあったのか?」
「それが.....あの時と同じように、細長い鉄の塊が発見されまして」
「....何?」
魔法士の一人がその物体を見せながらそう報告したため、魔法士達はその事実に対して目を丸くしていた。
あの時、緑衣の悪魔に襲われた騎士達も謎の鉄の塊に撃ち抜かれたことにより、命を落としていた。
その事実は、この鉄の塊は非常に殺傷力が強いことを意味していたため、魔法士達は改めてこう思い始めていた。
やはり、緑衣の悪魔は化け物なのだと。
「....魔力検知は」
「しましたが、魔力の残滓どころか気配すらも検出されませんでした」
魔法士の一人がそう言ったところ、騒つく魔法士達。
と言うのも、何しろその場に居た魔法士達はこの物体の正体が魔法道具だと思い込んでいたため、そうなるも無理はなかった。
その一方で、魔法の力を利用せずともあそこまで淡々と人を殺し、全滅させるものなのかと思い始めていたのか、魔法士達は例の物体の恐ろしさに震え始めていた。
「....これでは、騎士達は悪魔にとっての格好の的だな」
誰かがそう呟いた時、何気ないその言葉に信憑性が出てきたのか、魔法士達の間では静寂の時間が流れていた。
微かに残る血の匂いに、多くの騎士達の命を奪った証拠として地面に落ちている例の物体。
そして....魔法越しに緑衣を身に纏った女を見たこともあってか、彼らは何とも言えない恐怖を感じつつも、野営地に関する調査を続けていた。
その時、野営地付近を調査していた魔法士は何かを発見したようで、仲間達に向けてこう叫んでいた。
「オイ!!ちょっと来てくれ!!」
その声を聞いた魔法士達はその場所に向かうと、そこにあったのは....誰かが残した焚き火の跡だったため、それを見た魔法士達は最初こそは緑衣の悪魔が野宿した跡だと思っていた。
しかし、その場所を調べたところ....そこから高濃度の魔力が検出されたため、それを感じ取った魔法士はある事実に気がついたのか、驚いた様子を見せていた。
もしかすると、緑衣の悪魔はフェルディナンの逃亡に一枚噛んでいるのではないか?
そのことに気がついた魔法士達は、少しだけ謎が繋がったような感覚になったのか、このことをすぐに同行していた騎士達に報告書を渡す形にて、ヴィーニュに報告していた。
「....やはり、フェルディナンの逃亡に彼女が関わっていたか」
その報告書を首都バルジャンにて受け取っていたヴィーニュは、これで緑衣の悪魔を捕える正当な理由ができてきたと思ったのか、無意識のうちに口角を上げながらそう呟いていた。
緑衣の悪魔を捕えることが出来れば、他の国々は彼女の存在によって恐怖し、戦争という愚かな行為を放棄するに違いない。
彼女こそ、カペーが平和を維持するために必要不可欠な存在なのだと思っていたヴィーニュは、テーブルの上に置かれていた例の物体を手に取ると、それを見つめながら更に口角を上げていた。
彼にとって、野営地の騎士達の惨劇は平和のための礎であり、緑衣の悪魔を捕えるための口実の一つとなった出来事であるためか、その死を心の底から悼むことはなかった。
むしろ、ヴィーニュは彼らの死を悼む心が無かったからか、その犠牲に関することは特に気にすることはなかった。
「あぁ、緑衣の悪魔の武器を再現するのにこうも時間がかかるとは......何とも歯痒いものだな」
緑衣の悪魔の使っていた武器が完成すれば、何もかもが効率化することを踏んだ上で、それが実現するのが待ち遠しいとばかりにそう呟くヴィーニュ。
彼は知らなかったのだが、そもそも彼女の武器は魔法が銃火器の代わりであるこの世界において、再現するのは可能ではあるものの、ドワーフでさえ年単位での時間がかかるほどの代物であった。
そのため、ドワーフ達が分かりやすく苦戦していたのはここだけの話である。
だがしかし、そんなことなど知らないヴィーニュはその物体を箱の中に入れると、その箱ごと執務室のテーブルに飾るように置いていた。
「だが、これもまた平和のために必要な犠牲なのだから、我慢するしかないな」
彼はそう呟くと、その緑衣の悪魔を捕獲するための策略として、とある書類にサインをしていた。
それは、緑衣の悪魔に対抗できるであろう魔法士や騎士達を秘密裏に牢から出し、軍に属する者として扱うという内容が書かれた書類で、ヴィーニュは彼女を捕えるためにあえてそれにサインしたのである。
その中には、革命の際に王家側の魔法士や騎士として捕えられ、処刑を待つだけの処遇に落ち着いていた者も居たが、彼らもまた緑衣の悪魔を捕えるための道具として動員されていた。
それにより、緑衣の悪魔の包囲網を彼は作ろうとしていたのである。
ただ、それが後に自身を追い詰める要因となることを知らないヴィーニュは、緑衣の悪魔が捕えられるその日を夢見ていたのだった。
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