煙草の香りに包まれて
副題:悩み事は煙と共に
真面目なキャラほど、悩みを告白するシーンって良いよね。
というわけで、今回はアンドレ回になります。
その日、ルクスブルグの国境に向けて移動していたタルコフとフェルディナン達は、革命の余波によって盗賊と化した男達に遭遇していた。
盗賊達はフェルディナンとロレーヌのことを知ったその瞬間、憎悪が宿った舌で二人を口汚く罵った後、フェルディナン達を殺害する前提での略奪を試みていた。
最も、その二人の雇った傭兵であるタルコフの存在を知らずに。
その結果、盗賊達は彼女に蹴散らされた上で散り散りになる形で逃げ出したのだが、フェルディナンとロレーヌは複雑な胸中になっていたのか、その顔には盗賊となった民に対する申し訳なさが浮かんでいた。
それは、夕食としてこれでもかと煮込まれたスープパスタを口に入れるまで続いたようで、従者であるアンドレもまた心配そうな顔になっていた。
ただ、二人の心情やアンドレの心配など知らないタルコフは夕食後、離れた場所でタバコで一服していたのだが
「....何だよ」
その隣に皿洗いを終えた彼が徐ろに隣に座っため、タバコを咥えながらそんなことを呟いていた。
あのアンドレにしては珍しく感傷に浸ってるな。
そう思っている彼女を尻目に、アンドレはしばらく黙っていたかと思えば、その視線をタバコを吸ってるタルコフの方へと向けると、そのままこう言った。
「その....何だ、それを貸してもらえないか?」
普段とは違う様子のアンドレに対し、彼の口から出たその言葉の意味を理解したのか、一本のタバコとライターを貸すタルコフ。
それを受け取った彼は、彼女からライターの使い方を教わる形にてタバコを吸っていた。
しかし、アンドレ自身は紙タバコというモノに慣れてなかったのか、アタフタとしつつも何とか吸っていた。
ただ、それを見たタルコフはそこまで慌てなくても良いだろと思いつつ、何かを考えているであろうアンドレの姿を見守っていた。
そう思いながらもタバコを吸いながら遠くを眺めているタルコフは、慣れないながらもタバコを吸っている彼に向けてこう言った。
「....スッとするだろ?」
「何がだ?」
「タバコを吸うと、嫌なことを一時的に忘れられるだろって話」
タルコフがそう言った瞬間、口から煙を吐きながら目を逸らすアンドレ。
それを見た彼女はやっぱりかと思ったのか、やれやれという顔になっていた。
アンドレという男は、カペー王国で今もこうしてフェルディナンとロレーヌに対し、忠誠心を捧げている忠臣とも言うべき男であった。
それはタルコフから見ても分かるほどに厚く、誰にも壊せない強固なモノだったがために、彼女はすぐに察したのである。
今日の出来事をきっかけに、彼の心が今まさに揺らぎ始めていることを。
それは言ってみれば、旅の中で彼女がそれを理解するほどにアンドレとの関係が築かれた証であるため、タルコフは何とも言えない気持ちになりながらも、その隣で彼のどんな言葉が出るのかを待っていた。
「お前、本当は革命云々のことで悔しかったんじゃないのか?」
「....何でそう思った?」
「いやだって、その顔にバッチリ滲み出てるから分かると言うか何と言うか」
彼女がそう言った瞬間、ハッとした顔になるアンドレ。
それを見たタルコフは生真面目なんだよなぁと思いつつ、タバコを吸い続けていた。
しかし、タルコフ相手に隠し通す気は無かったのか、口に咥えていたタバコを手にポツリポツリと語り始めた。
「....私は、フェルディナン様とロレーヌ様がまだ赤子の頃からずっと見守ってきた。だが」
「王家云々はともかく、自分の仕えている主人が貶されるのはキツいってことか」
彼女がそう言った瞬間、その言葉に深く頷くアンドレ。
それを聞いたタルコフはだろうなという顔になると、彼の口から出た言葉に耳を傾けていた。
アンドレ自身は、まだフェルディナン達が幼い頃から王家に仕え、王家のために働いてきた人間であった。
その忠誠心は王太子であるフェルディナンが生まれても変わらず、いつしか彼のことを実の子のように愛していた。
それは彼がロレーヌと婚約し、幼い王子から王位後継者へと変わった後も変わらず、アンドレは王家に仕える者として支え続けた。
....少なくとも、革命によってフェルディナンやロレーヌと共に亡命するまでは。
最初こそ、アンドレはフェルディナンとロレーヌをカペーから逃した上で王家と運命を共にしようとしていた。
だがしかし、ユーグ王から息子達を守って欲しいと直々に命令を与えられたため、彼は国王からの最後の命令としてフェルディナン達と行動していたのである。
「国王陛下は....カペーの未来を案じ、悪化していく状況を何とかしようとしていた。だが、だが....」
アンドレはユーグ王が国内情勢を改善させるため、多くの努力を行ってきたことを知っていた。
だからこそ、その努力を知らずに不況や凶作の影響を彼に押し付け、フェルディナンとロレーヌを苦しめた人々が許せなかったのか、その手に持っていたタバコを握り潰していた。
そして、その顔にはフェルディナン達に忠義を誓っているからこその複雑な感情を浮かべており、今の今まで溜め込んでいた愚痴を並び立てるかのように、タルコフに向けて自らの思いを吐露していた。
彼女はその話を聞き、頷きも同意の言葉もかけなかった。
ただ、アンドレの話を黙って聞いていただけ。
たったそれだけのことなのだが....彼にとって、それはタルコフが自身の話を聞いてくれている証拠だったため、そんな話をしていくうちに安堵していたのか、自らの本音を吐き出すようにこう言った。
「私は....そんな国王陛下やフェルディナン様を悪と断罪し、平然とその思いを踏み躙る人々をどうしても許せないのだ........!!」
いつの間にやら、目に涙を浮かべながらそう声を漏らすアンドレに対し、静かに話を聞き続けるタルコフ。
しかし、彼の心情に対して思うところがあったのか、アンドレに対して励ましの言葉をかけると言うよりか、吸うか?とばかりにスッとタバコを差し出していた。
それを見たアンドレが話を聞いてくれた彼女に感謝しつつ、その二本目のタバコを受け取っていた時、タルコフは顔を彼の方に向けながらこう言った。
「いつの時代も、どこの場所にも、何かが悪くなれば誰かにせいにする奴らは出てくるんだよ」
「....では、それを放っておけと?」
「というよりか、そういう奴を気にしている暇があるのなら、もっと気にすることがあるだろって話」
タルコフがそう言った瞬間、その言葉が腑に落ちるのと同時に納得したのか、彼は夜の色へと染まりつつある空を眺めていた。
今の自分がフェルディナンやロレーヌに対し、一体何が出来るのか?
いや....こんな自分だからこそ、フェルディナン達を支えることが出来るのかもしれない。
そう考え直したアンドレは、ようやく前向きになれたような感覚になったのか....その場から立ち上がると、彼女に向けてこう言った。
「....おまえは本当に強いな」
「別にそこまで強くねぇよ。ただ」
「ただ?」
「......そっち方面の才能しかない、ただのダメな奴なだけだ」
そう言った後、タルコフは自らが吸っていたタバコを吸い終わると、自嘲するような笑みを浮かべていた。
それを見たアンドレは、彼女はそういう女であることを徐々に理解していったのか、フッと微笑みながらフェルディナン達の方へと向かっていった。
一方、フェルディナンとロレーヌは二人仲良く寝ていたため、二人のその姿を見た彼は尚更守らねばという思いが強くなったのか、改めてフェルディナン達への忠誠を誓っていたのだった。
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