83.漣、立つ
ショウリュウの都、近隣の山奥。そこに多くの冒険者が集い魔物との戦いを繰り広げている。数頭のムツアシグマを前に剣や盾を掲げ気を引き、隙を見せた個体には遠方より魔法が放たれその身を裂く。魔物達は既に冒険者たちに包囲されている事に気が付いたが、時既に遅し。今更逃げる事も敵わず時間と共に傷は増え、やがて力尽き倒れる。
「これで、最後だ!」
ロロが剣を高く掲げ最後の一頭に向けそれを振り下ろす。背を向けていたムツアシグマは後方からの一撃に何もすることは出来ず、深々とその身を切り裂かれ多量の出血と共に力尽き倒れた。周囲の冒険者たちはそれを見届け、しかし警戒を解くことなく周囲の様子を観察している。倒れている魔物達が動く気配は無い、そして少し離れた位置から魔法で周辺の気配を探っていた者達が次々と姿を現すにつれて、徐々に緊張を解いていく。
「あ~、やっと終わりかぁ」
誰よりも早くその場に腰を下ろしたのは虎イガーの虎太郎だった。彼はムツアシグマを前に一歩も引くことなく注意を惹き続けていたのでその疲労は相当なものだろう。
「もう足がぱんぱんだ。一歩も動きたくねぇよ」
「普段なら文句言ってないでしゃきっとしろとでも言う所だけど……、まあ今日ぐらいは少し休みな」
虎イガーの紅一点、スーリューも今日ばかりは彼の行動に文句を言わず彼女も近くの切り株に腰を下ろす。
「隣失礼、我輩も少し休ませていただきます」
そう言って彼女の隣に座るのはイザクラ考古学団の一員、十六夜丸だ。それまであまり接点のない二人ではあったがこのような戦いを経て感じ入るものもあったのだろう、幾らか言葉を交わしていた。
そんな二人の様子を少し離れたところで見つめているのはハクハクハクだ。彼女は先程まで樹上で周囲に他に魔物がいないか魔法で探っていたのだが、何も居なさそうなのを見て降りて来たところである。彼女が今持っている杖はイザクラの都に行った際に十六夜丸に見繕ってもらったもので、そのお礼を言おうかと思っていたのだがその機会を逃し続けて今に至る。
そして今もスーリューと二人話している所に割る込むのもと遠慮していたのだが。
「ハクちゃん、何見てるの?」
彼女の後ろからサキサキサが声をかける。
「あ、えと」
「あの二人がどうかした? あ、わかった! 話に混ざりたいんでしょ? じゃあこんなところにいないで行こ行こ」
そしてそのままハクハクハクの背を押して二人の元へ向かい出した。
「あ、や、あ」
ハクハクハクは何か言いたそうだったが、しかしサキサキサの行動を止める事など出来ずそのまま二人の元へ合流してしまう。まあ、悪い事にはならないだろう。
「……ハクも大変だねぇ」
そんな彼女の様子を見ていた瑞葉はぼんやりとどこか他人事のようにそう呟いた。しかしそんな彼女の後ろにもじっと見つめる瞳がある。
「あなた、また魔法制御の技術が上がってない?」
「わっ!?」
突然かけられた声に彼女が振り向くとそこには魔法師を自称する冒険者、ソラが立っていた。瑞葉は思わず翼獣の町で彼女と諍いを起こし一戦交えた事を思い出す。
「才能があるってのは良いわねぇ……」
「いや、そんなこと、は……?」
じっと見つめられ狼狽えながら後ずさる彼女の姿を見てほっと安堵の溜息を漏らすのは安川だ。
「悪いがそのまま俺の身代わりになってくれ」
彼は自身の扱う音の魔法について話を聞かせてくれとソラに付き纏われる日々を送っていた。故にこの場でもそれを警戒していたのだが、幸いにも自分の代わりに彼女の興味を惹いてくれる存在がいる事で心穏やかに過ごせているようだ。ほっと一息をつきながら虎イガーの呉忍、雅人と共に周囲の警戒を続けている。
これほど多くの冒険者がここに集まっているのは魔物の討伐の為である。そしてそれは都周辺の治安悪化が原因であり、更に元を辿っていけば戦争が続いている事が要因となるのだろう。
戦争開始からおおよそ二か月。未だ終わりは見えない。議会や新聞は連日戦況を伝えてはいるが戦場に立っているわけではない一市民には実際にその様子が見えるわけもなく、ただただ漠然とした不安に駆られるばかりだ。
そんな中でロロ達は少しでも市民の不安を取り除くべく都周辺の安全だけでも守ろうと最近増加傾向にあった魔物の数を一気に減らすべく、山奥まで魔物の討伐へ来たわけである。今やそれも終わり都へと帰って行くのだが。
一行が宿に辿り着けばそこには相変わらずあまり寝れていないのだろう、目の下に隈を作った崎藤が出迎えた。
「やあ、お帰り。無事だったみたいだね」
「まあな!」
「山の様子はどうだったかな?」
「魔物は結構増えてたな。奥の方に行くとムツアシグマが群れでいたよ」
「あ~、そうなんだね。まだ二か月しか経ってないのに……」
崎藤は周辺の魔物の増加に胸を痛める一人だ。元々冒険者の拠点という仕事柄、魔物の情報などよく集まって来るものだ。普段ならば自分が人を遣って調べるのに加え市民や多くの行商人や観光客などから次々と入って来る些細な情報など多岐に渡る情報源を持っている。しかし今は外へ出る市民は減り、行商人の数も最低限に、観光客など世界情勢を知りもしないような者しかやって来ない。結果としてぼんやりと増加している事は把握しつつもどこでどのような魔物が増えているのかまでは分からずじまい。今回の依頼も具体的にどのような魔物がいるかは詳細不明のままロロ達に任せることになってしまったのだった。
「すまないねぇ……、僕に力があればもう少し調べる事も出来たんだろうけど」
崎藤自身はろくに戦う力など持たない一般人だ。そんな彼が抱くのは実際に戦いに赴く冒険者たちへの尊敬とその力を持たない自身の劣等感と無力感。
「おいおい気にするなよ。普段は魔物の情報を貰って助かってるんだからよ。こういう時はお互い様ってやつだろ?」
「全くだね。どうしても気になるってんなら……、ま、今日の食事は奢ってもらおうじゃないか」
「ははは、そう言ってもらえると助かるよ……。ヤヤさーん」
彼が食堂の方へ声を掛けると豪勢な食事が次々と食卓に並んでいく。
「準備してたんですか?」
「これぐらいしか出来ないからねぇ」
「旨そうだな」
「早く食べようぜ!」
ロロを筆頭にお腹が空いて待ち切れないという様子の者が次々と食卓へ向かう。安川はその様子を呆れた顔で見つつも自身も空腹であることは誤魔化せずひとまず歩き出す、のだが。
「安川君」
不意に、崎藤が小声で彼を呼び止める。
「どうした?」
立ち止まり彼も小声でその声に応じた。他の者に聞かれたくはない話と察したのだろう。崎藤はどこか不安気な表情で食卓へ向かった一行を見つめており、安川は受付の台にもたれかかりながら次の言葉を待つ。
「……彼らの様子は、どうだった?」
「……どう、ってのは?」
「戦争が始まってから依頼を受けてくれる人もだいぶ減っていてね。三等星以上の人たちも大部分が前線に向かってるし、残った人たちにはより多くの依頼が回ってる。君達だって連日魔物の討伐にかかりきりだ」
「つまりあいつらも嫌気が差して来ているんじゃないかと、こんなことやってられるかと逃げ出すんじゃないかと?」
「逃げ出すって表現は、どうかと思うけど……。まあ、そう言う事だね」
拠点に通う冒険者の数は減っている。今でも通う者達の中には連日の魔物の討伐に果ての無い疲労を覚え、更には時折現れる強力な魔物に恐怖を植え付けられる。怪我を負ってしばらく休みを取る者やいつ終わるか分からない魔物との戦いに嫌気が差している者も少なくない。
「いらん心配だな」
が、安川ははっきりとそう言った。
「連中が……、まあ十六夜丸とソラは知らんが、ロロ達と虎イガーの連中はそこそこ付き合って長い。人となりもよく知ってる。あいつらはこういう時こそ精力的に活動するタイプだろ」
実際、今回の討伐も彼らが発端となり人を集めて実現したものだ。こういう状況だからこそ人々を守るために立ち上がる者もいる。ただそれだけの話である。
「そうか……、彼らは強いね」
「そうだな」
二人がそんな会話をしているとは露知らず、他の皆は用意されたご馳走に舌鼓を打つ。少なくとも彼らが無事な限り都の平穏が魔物によって侵されることは無いのかもしれない、そんな事を思ってしまうような光景がそこにはあった。
「僕も、覚悟を決める時かな……」
安川はその言葉を、聞かなかったふりをした。
時間がただただ経過していく。
戦争が始まって三か月ほど、人々が悪い意味で戦争に慣れ始める頃合いだった。直接的な被害の無いショウリュウの都では紙面に並ぶ文字をどこか遠くの出来事のように感じられ、それに伴い徐々に外を出歩く人々が増え始める。
「楼山の方との商売を再開しようと思いまして」
とある商人はそう言って農場から野菜を幾らか買取り都を発った。楼山の都はショウリュウの都よりも更に北方、ここが被害に遭っていないのなら楼山も当然そうなのだろう。物流を再開するならまずはそこから始めるのが良いと多くの者が思うのは当然だ。実際、同じような動きを見せる商人は続々と現れ始めていた。
中にはより大きな利益を求めてイザクラや九華仙の都へ向かう者もいる。戦争の前線に近い位置の方が行きたがる者は少なく、それ故に高い値段をつけやすい。彼らは利益に目ざとく、それを求めて行動する時は多少の危険を顧みないものだ。
そして危険を冒すという事は相応の代償を支払う事になる者も当然いるだろう。
ショウリュウの都のとある冒険者の一団が南方への道に魔物の討伐へ向かっていた時の事だ。
「今日も多いな……」
「まあまあ、稼ぎ時って事だろ」
「そうそう、食べられる魔物だったら持って帰って換金しましょ」
彼らはこの機に多くの仕事をこなして金銭の蓄えを作ろうとしているようだ。崎藤は魔物討伐奨励の為に普段よりも報酬を増やしており、この機に稼げるだけ稼いで戦争が明ければ豪遊するつもりなのだろう。彼らの目的はこれといって褒められるものでは無いかもしれないが、動機はどうあれこのような時でも魔物を討伐するその心意気は良いものである。
そんな彼らが道を歩いていると目を惹く者がその先に見えた。
「ん? なんか向こうに魔物が集ってるな……」
「おい、あれ見ろ!」
一人が奥に見える馬車を見つける。それは既に破壊され中にあった商品が周囲に散乱していた。
「人は、いるか?」
馬車に乗っていた人は少なくとも地面に倒れているようには見えない。馬車が破壊される前に逃げ出したのか、或いは。
「ひとまず、魔物討伐か?」
「あの数はまずいんじゃないか?」
そこにいる魔物は決して強い相手では無かったが流石に数が違い過ぎる。彼らでも勝てなくは無いだろうが大怪我を負う危険は少なくない。悩みつつも彼らが出した答えはひとまず辺りの様子を探る事だ。まずは人命救助を第一に考えた結果と言えよう。そして幸いにもその考えは正解だったようで、近くの林に生えていた巨大な木のうろに商人と彼が雇った御者を発見する。
「無事か?」
「あ、ああ……。まさかあんな数の群れに出くわすとはな……」
「悪いが馬車は諦めてもらうわ。商品もほとんど食われちゃったみたいだし」
「構わんよ。命あっての物種だろう?」
こうして商人達は命からがら都へと戻って行く。しかし彼らは運が良い。どうにもならない状況になる前に偶然にも冒険者に発見され命あるままに帰る事が出来たのだから。ここ最近、商人や一部の冒険者の中にはこの機に稼いでやろうと他の都へ向かいそのまま音信不通となる事例が出始めている。そしてその中のさらに一部は後に冒険者などによって無残な死体が発見される事もあった。
都で商店を営む者の証言によれば。
「確かに最近は戦争が始まった時よりは入荷も増えたよ。高いけどな。ただまあ、懇意にしている商人が言うには、水路はまだしも陸路での移動はかなり危険だってよ。ほら、九華仙は陸路が主流だろ? 近いからな。でもそっちで行こうとしたら結構な数の魔物に襲われて途中で引き返したんだと。まあ丸盆の町までは行ってそこで色々と仕入れてたぜ。商魂たくましいこった」
彼らの言うように町と町の間を繋ぐ街道には普段よりも多くの獣や魔物が出現している。一部の冒険者や軍などはそれを可能な限り抑制しようと努めてはいるが、凍湖シンシンからの侵略を止める事の方が優先されており人手が足りない。細かい所までは手が回らないのが実情だ。
しかしそれが人々に理解されるかと言えば、残念ながら民衆には不満が溜まって来ているのが誰にだったわかるだろう。
「実際よぉ、戦争っつっても最初に町を奪われてからは膠着状態なんだろ? 新聞見る限りじゃ大きな戦いになって無くて睨み合いが続いてるって聞くぜ? だったらもう少し国内に人手を戻して欲しいもんだけどな」
長引く膠着状態は国内にそんな意見を生み出してもいる。無論、その意見が主流というわけでは無いが、この状態が長引けば徐々にその空気が強まって行くのは明らかだ。
山河カンショウの国としては彼らの不満に対して取れる手が大きく二つある。一つは一気に攻め込んで凍湖シンシンに継戦不可能なほどの打撃を与えて戦争を終わらせること。もう一つは戦線を維持しつつも戦力の一部を国内に戻して魔物の討伐へ力を裂く事だ。
一つ目の手は非常に単純な結果を生むだろう、ただしそれが良い結果になるか悪い結果になるかはまだ分からない。得られるのは勝利か敗北という非常に単純な結果だ。凍湖シンシンを滅ぼす勢いで攻め続け勝てば戦争の勝者としてその国力を奪い民衆へ還元することも可能だ。しかしそれが適わなかった時、山河カンショウの国が国として存続できるかは分からない。
更に言えば虎狼ホンソウとの関係もある。三大国の実力にはそう大きな差が無いと言われている。故に凍湖シンシンを攻め滅ぼすのに力を尽くすというのは、逆に言えば虎狼ホンソウに対して大きな弱みを見せる事になるだろう。やるならば二か国で足並みを揃えて攻め入りたいところだが、そこまでの連携が取れているかと言うと首を横に振らざるを得ない。
では二つ目の手はどうだろうか。ひとまず戦争は継続されることになるが、国内の治安は回復するだろう。しかし前線に集中していた戦力は当然に減る事になる。それがどの程度の問題となるか、だ。
凍湖シンシンは当然ながら他の二大国の強大さを承知している。それにも関わらず二か国に同時に戦争を仕掛けたというのは彼らにある種の不気味さを感じさせていた。奇襲だけで全てが決まるなどと言う浅はかな考えを持っていたのだろうか? それならいい、そうであれば時間と共に二か国の連合軍で圧力を強めるだけで勝利を得られるだろう。しかし、そうでないならば?
彼らが前線に戦力を集中させたのはこの機に戦争を始めた事の裏に何か大きな理由があるのではないかと疑っての事だ。つまり、二つの大国を相手にしても勝利を得られると確信する何かがあったのではないと。結局この戦争が膠着状態に陥っているのはその事が理由なのだ。凍湖シンシンが戦争を仕掛けたのは何らかの勝機を見出したからなのだとすれば、それを理解せずに仕掛けるのは得策とは言えない。山河カンショウも虎狼ホンソウもそう考えて自らその危険を請け負おうとはしないのだ。
結果、前線から離れた町で広がるのは単に自分たちの生活が苦しくなり始めた不満と厭戦の意向。ぽつぽつと何らかの火種が燻り始めている。
「……何か、最近はみんな暗いよね」
「ちょっと、荒れた感じの人も、多い、ね」
「嫌な空気だよなぁ」
依頼を終えて街中を歩くロロ達はそんなことを呟く。目的もなくぶらぶら歩き美味しそうな物があればちょっとつまみ、気になる物があれば手に取ってみる、いつもそんな事をして来た彼らであったが最近は難しい。
「おぉ、客か。最近は少なくてのぉ、商売あがったりでなぁ」
そう言いながらお餅を焼いてくれた老店主も以前は威勢よく店の前で売り込みをしていたのを覚えている。
「何だお前らか、また盗人かと思ったぜ」
小物を売っている店の職人は常に店内に目を光らせて誰かが物を盗って行かないか常に警戒しているようだった。疲弊したその様子は恐らく戦争が始まってからの数か月で盗人が大きく増えた事を表しているのだろう。
その他の場所でも三人は溜息が増えた人の姿に心を痛め、喧嘩する人々の仲裁に入り、友を亡くし広場の椅子に一人座る青年の話を聞いた。依頼を終えた打ち上げで街中を歩いていたはずが気が付けば人々の悩みを少しでも軽くすべく奔走しているような気分だ。
「なんか、疲れた……」
ようやく宿へと戻って来た時、瑞葉は今までにない疲れを感じていた。魔物の討伐とは違う、人々の不安、怒り、悲しみなどの感情を解きほぐすのは中々難しい事だ。少なくとも年若い彼らにはそれに対してどうすべきかなんて回答は持ち合わせていなかった。
「聞いたよ。街の人たちの話を聞いて回ってたんだって?」
そんな彼らを出迎えた崎藤は開口一番そう言った。
「まあ聞いて回ったというか、結果的にそうなっただけですけど」
どこからその話を聞いたのかと三人は思ったが、しかしここは今は少ないと言ってもそれなりの数の冒険者がやって来る。たまたま三人の事を見かけた冒険者が居てもおかしくは無いだろう。
「そうやって話を聞いてくれる人がいるのはありがたい事だよ。今はみんな不満を抱えて生活してるからね。僕の方でも何か出来たらいいんだけど、中々そうもいかない」
今、この拠点には多くの依頼が送られて来ている。その多くを占めるのが商人からの護衛依頼と街中での多くの困り事の解決依頼だ。しかし人手がそう多くあるわけでも無い今、その全ての解決は難しい。崎藤はそれらに優先順位を付けて冒険者に依頼の割り当てを行い、更には後回しになる依頼に関しては依頼者への説明も行っているようだ。そしてその度に不満をぶつけられるなどしているのだが、彼がそれを誰かに語る事は無い。
「まあ今日は僕の奢りだ。好きな物をお食べよ」
「最近結構奢ってもらってますけど……」
「ははは。まあこんなご時世じゃお金の使い道も難しくてね」
崎藤はそんなことを言っているが、今は寧ろ金銭の出費は大きくなりつつあるはずだ。徐々に食料品は値上げが始まっており今はまだ影響は軽微であるが、戦争が続けば他の町からの輸入品はどんどん減り、ショウリュウの都で賄っていた食料も兵糧として前線へ持っていかれるかもしれない。そうなった時の食料品の値上げ幅は想像を絶する事になって行くだろう。或いは、一周回って金銭と交換を拒む者すら現れるのかもしれない。
尤も、現段階ではあくまでも最悪な想像に過ぎないが。
「早い所戦争が終わってくれると良いんだけどな」
ロロが呟く。瑞葉もハクハクハクも崎藤も、その言葉にただ苦笑いを浮かべるのみだ。
戦争は終わらない。少なくとも凍湖シンシンの国が退くつもりが無いのだから。彼らの思惑とは何なのか、なぜ今戦争を始めたのか、なぜそうしなければならなかったのか、誰もがぼんやりと考えているそれの答えが出る事はない。
それを知る者はこの世に凍湖シンシンの王だけなのだから。




