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志高く剣を取る ~ロロはかっこいい冒険者になると誓った~  作者: 藤乃病


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78.消耗戦

 虎狼ホンソウの国、辺境。三つ首の狼王ドゥアロは死を迎え始祖の魔獣は居なくなった。しかしここにはまだそれが残した落とし子が山のようにいる。散らばった肉片が姿を変えて三つ首の狼へと変貌しているのだ。

 地面は砕かれ大きく陥没している。そこから這い出るように、巨大な、見上げる程の大きさの落とし子が姿を現す。それも、無数に。いつの間にか砕かれた岩片よりも多く現れたそれはまるで地獄と見まごうような光景ではあったがそれを見て彼女は一人呟く

「随分小さくなったな」

 彼女の名は竜神。山河カンショウの国、ショウリュウの都、そこにある志吹の宿の所属する二等星の冒険者だ。強気な発言ではあるがそこにあるのははっきり言えば無謀な戦いである。いくら彼女と言えど目の前の巨大な大群を相手に勝利の糸口は見えない。物量と質量の前に押し潰されるだけだろう。ましてや今の彼女は傷だらけ、先の衝撃波を防ぎ切る事は出来ず全身打ち身の痕や出血があり万全とは程遠い。

 しかし彼女は決して弱音など吐きはしない。

 なぜならば。

「はっはー!」

 突如、巨大な爆発音が鳴り響く。それは巨大な落とし子の一体を大きく吹き飛ばし崩れ落ちさせた。

「やっと起きたか、あの馬鹿」

 それを誰がやったのかは考えずともわかる。何せよーく知った声が聞こえて来たのだから。故に彼女は魔力を練り上げ、渾身の力を込めて地面を踏み抜く。

 ドオォッ。

 轟音と共に落とし子の一体を巨大な石柱が貫く。それが竜神がやったのだと多くの者は気付くだろう。それは勿論、先の爆発の主も。

「竜神! やっぱ生きてたか!」

「……うるさいやつ」

 彼女は弱音を吐きはしない。それは単純な理由だ。自分程度が生き残ったのだ、ならば自分よりも強い者は必ず生き残っている。例えば自分の所属するチームのリーダー。過去に最も一等星に近いとまで言われたにも関わらず今は宿の看板娘を自称する女。

 それに。

「とりあえず一等星の奴がさっさと出張って来て欲しいもんだ」

 明確に自分より格上の評価を受けている者。

 一等星、それは冒険者の中でも最高の実績を持つ者の証。そこに上がる為には単独で様々な問題を解決できることが求められる。それは時に個人の範疇を超える水準で。

 巨大な魔物の群れを一掃し、広範に渡り活動する盗賊団を滅ぼし、時には開拓の道標を作るべく一人辺境に赴く事もあれば、軍にすら重用されその力を発揮する。

 そんな存在がここにはいる。

 一人の男が落とし子を貫き現れた石柱に飛び乗る。

「我が名はギガヘッド!!!」

 そして男は叫んだ。戦場中に響き渡るその声に誰もが思わずその方角を見ただろう。

「虎狼ホンソウの国は虎の都、翼の民に所属する一等星だ! 地に倒れ希望を失いつつある者よ、今はまだその時では無い! まだ我らがいる! まだ我らは倒れていない!」

 彼の言葉に人を動かす力があるかと問われれば反応に困るものだ。彼は決して口が達者な方ではない。しかし彼こそは虎狼ホンソウの最大戦力とも謳われる翼の民が誇る最強の人物。

「行くぞ!」

 彼は雄叫びと共に手を開き天に向けて掲げる。

 ギガヘッドの扱う魔法は身体拡張と呼ばれている。詳細な原理などは今の所誰も理解できていないが、魔力を自らの身体の一部のように扱うものだ。それを聞いただけでは竜神が行っているような地形に魔力を通す事でそれを操るのと大差ないかのように思われることも多いのだが、実際には少し違う。正に字義通りで身体の一部、魔力そのものが手足のような質量を持つのだ。

 天に向けられたその掌からは魔力によって形作られた巨大な腕が伸びている。

「はあああぁああ!」

 そしてそれが正面に向けて振り下ろされると前方にいた一体の落とし子を引き裂いた。ばらばらになり崩れ落ちる肉塊を多くの者が目にしたことだろう。

「立ち上がれ人間よ! 始祖の魔獣をこの場で打ち倒すぞ!」

 彼の声に瓦礫に身を隠していた一部の冒険者たちが姿を現す。それは元々持っていた正義感か義務感のようなものもあるだろうが先頭に立つ彼の実力を目の当たりにして希望を僅かに掴み取ったからでもあるだろう。

 こうしてギガヘッドや竜神たちを先頭に最前線での戦いが始まる。




 ハクハクハクが再び目を覚ます。既に最前線では戦いが始まっておりその戦いの音が地響きと共に聞こえてくるのが分かる。

「わ、たし、も……」

 ぼろぼろの身体ではろくに力を入れることも出来ない、それでも彼女は手を地面に付きゆっくりと身体を持ち上げる。まるで使命でも帯びているかのように戦いの場へと向かおうと立ち上がるのだ。

「……あっ、れ?」

 眩暈、ぐるぐると回る視界、壁に手を付いてその表面が崩れ地面に落ちる音。身体はが動く事を拒絶するように気分が悪くなるのを彼女ははっきりと感じている。一歩足を踏み出せばそのまま地面に向けて倒れ込んでしまうかもしれない。そんな予感がはっきりとしているのだが、

「行かない、と」

 それでも彼女は前へ出る。この戦いに遅れるわけにはいかないと、自分もこの戦いでならなければならないと。

 英雄に。

「まだ、間に合う、まだ……」

 たとえ転んでも再び立ち上がり彼女は進む。音が聞こえるのが前か後ろなのかもわからないのに彼女は進む。

 ガラッ。

 その音はすぐ近くから聞こえた。ハクハクハクは思わず魔力を練り攻撃の準備をした、したのだが。音のした方へと視線を向けて気付く。

「……人?」

 そこには瓦礫の下で呻き声を上げている数人の冒険者がいた。それを見て少し冷静になった彼女は持ち前の力で彼らの上にある瓦礫をどかして行く。

「助かったぜ嬢ちゃん」

 長身の男がハクハクハクに無理をしたような笑みを向ける。瓦礫の下にいたのは三人、と既に息絶えた者が一人。人を助ける事が出来た喜びと共に救えなかった無念が彼女の中に渦巻いていた。

「あのもの凄い衝撃波で瓦礫に巻き込まれちまってな、他の連中とも逸れちまったし。嬢ちゃんは他の、出来れば二等星とかの誰か見たか?」

「み、見てなくて、私も、さっき起きたばかりで……」

「そうか、まあ仕方ねえな」

 そう言うと長身の彼はさっきから戦闘音が響いている方を見つめる。

「あっちに行けば誰かはいるんだろうが……、足手纏いだろうな」

 ハクハクハクが助けた三人はいずれも四等星で幾らか怪我もしている。前線に出て戦うには力不足感が否めないと言う所だろう。実際、今の最前線は一等星二等星が命懸けで戦っている恐ろしい戦場であり、彼らが行ったところで役には立てないだろう。

「よし、高台に向かおう。俺の方向感覚がおかしくなってなけりゃあっちに小高い丘があったはずだ。そこで状況を見てから次にどうするか決めよう」

 長身の男はどうやら三人の中では隊長格なようで他の二人はその指示に従い歩き出した彼の後を追う。ハクハクハクはここで分かれて一人前線へ向かおうと思っていたのだが。

「ほら、嬢ちゃんも行くぞ。とりあえずまずは誰か見つけてからだ」

 そう言われて少し考え、後ろ髪を引かれつつも彼らの後を付いて行く事にしたのだった。

 ただ、少し彼女には不安があった。この三人組は長身の男と子供のような背の男、それに間ぐらいの背丈の女の三人組なのだが。

「……ちっ」

 その内、ハクハクハクと大して身長の変わらない小柄な男が先程から睨み付けて来るのが見えていたのである。ましてや今は舌打ちまで。こんな状況でなければ間違いなく同行するのを断っていたのだが、彼女自身様々な不安がある。どう動くのが正しいかを考えるには現状を知らねばならず、そうでなければ何も為せずに無駄死にすることだってあるだろう。それは彼女の望むところでは無かった。

 一行は小高い丘へと歩を進める。




 戦場にいる落とし子の数は段々と増えている。それもそのはず、狼王が自ら引き起こした衝撃波はその身体を大きく吹き飛ばし無数の肉塊へと変貌させた。それは戦場中に散らばり続々と落とし子へと姿を変えて蘇っているのだから。

 そしてそれは戦場を離れようとする者達の元へもやって来る。

「前方右から落とし子、三体来ます」

「私が行きましょう。周囲の警戒をお願いします」

 瓦礫の隙間を縫って戦場からの離脱を試みているのがミザロ率いる六人。三等星の空天赤坂が用いる感知系の魔法により可能な限り交戦を回避しつつ先を急ぐ。その中には未だどこか納得いかない表情の瑞葉も混ざっていた。

「終わりました、復活する前に先へ行きましょう」

 剣に返り血を付けたミザロが戻って来るとすぐさまそう言って空天赤坂と共に先導し始める。曲がり角の向こうにはばらばらの肉片となった落とし子がいて傷口を再生させつつあったが動き出すのはまだ先だろう。ここに来るまでに何度か見て来たのだからそれぐらいは瑞葉にも分かっていた。

 最速で戦場を抜ける事を試みる彼女らは既に何度かの交戦を行っているが、それらは全てミザロによって処理された。ただしそれは止めを刺し切る戦闘ではなくあくまで一時しのぎ、自分たちが通り抜ける時間を確保する為のものだ。

「あれ、放っておいていいのか?」

 賽の目に斬られてなお蠢く肉塊を見て誰かが思わずそう口をつく。しかしミザロの答えは端的で冷淡、

「今はそのような事をしている暇はありません」

 ただそれだけだ。

 道すがらミザロは自分たちがこの戦場を抜け出す理由を一行に説明している。

「我々の作戦は既に失敗した状態です。先の衝撃波によって大部分の冒険者は生死不明、軍もおそらくは半壊状態でしょう。故に我々は救援の要請を出さねばなりません。私は元々巨大な魔物と戦うのはあまり得意ではありませんからその役目には私が適材とも言えるでしょう」

 要するに失敗した以上は善後策が必要になるという事だ。新たに軍を派遣するにせよ、狼王の襲来に向けて守りを固めるにせよそれを誰かが報告しなければならない。そして万が一の際にその役目を果たすのが彼女の役割であると。

 故にミザロはまだ動ける状態の数人だけを助け戦場を離脱しようとしている。それは瑞葉にも理解できた。他の者も同様だろう。

 しかし。

「あっ……」

 走っていると視界に映る、瓦礫の下で倒れている人の影。それが生きているのかそれとも既に死んでいるのかは一瞬の事で判断がつかない。しかしもしも、もしもあれが生きているのだとすれば。

 瑞葉は見えてしまったその影を振り切るように唇を噛みながら前を向く。今やっている事が必要な事だ、それは理解できる、彼女はそのぐらい理解は出来ている。だがそれでも内から湧き出る感情の全てを抑える事など到底不可能だ。

 自分の目から流れる涙がどんな感情を素にしているかなどもはや彼女にはわかりそうも無かったが。




 最前線、人界最高峰の化け物と魔物の中の化け物との戦いは続いている。続いてはいるのだが。その戦況はあまり良くは無い。

 いつの間にかこの討伐に参加した二等星以上の者はミザロ以外集まっている。他の者からすれば一人一人が人間離れした凄まじい力を持っている。どうしようもないと思えるほどに巨大な落とし子が次々と切り裂かれ、貫かれ、砕かれる。

 しかし。

「……全然減った気がしねえぞ」

 高所から降りて来たザガが思わずそう呟いた。彼はたった今巨大な落とし子の一体を倒すべくその頭部を爆破し吹き飛ばして来たところだ。そしてその際、視界に広がるあまりにも多過ぎる落とし子の群れを見た。全員が死力を尽くして攻撃を仕掛けているにも関わらず、まるで戦いの終わりが見えない。

「黙って戦え」

 すぐ傍にいた竜神はただそう言った。それは単純に終わりの見えない戦いだなどと考えて心が折れそうになるのを恐れたからかもしれない。しかしだからと言って戦いを放棄など出来るはずも無い。

「竜神さん、あっちのでかいの任せていいか!?」

 落とし子は今にもこちらに向かって来る。彼女は自身の役割を果たさねばならない。もし出来なければ、死ぬだけだ。

「分かった、後処理は頼む」

 彼女の強みは丙族にも引けを取らない圧倒的な魔力量とそこから繰り出される大規模な地形の変動により攻撃。今もまた、地面の一部を巨大な石柱へと変貌させる。

 轟音と共にせり上がって来た石柱は迫り来る落とし子の腹部を貫いた。

「……まずい」

 それを見て後方の落とし子が腹部を貫かれた落とし子に向けて突進を仕掛ける。既に竜神の石柱による攻撃は何度見せたかわからない。そしてそれを見せられ続けた落とし子は既に対策を考えていた。正面の一体を犠牲にして後方からそれを押し込む。結局は大質量により押し潰すのが最も強力な攻撃であるとそれらは理解しているのだ。

 竜神は徐々に迫って来る落とし子の身体をどうすべきか一瞬悩み、直後、その動きが止まっているのに気が付く。

「無事か!?」

 上空に見えるはギガヘッドの姿。彼こそはこの戦場に燦然と輝く一等星、彼の扱う身体拡張の魔法は魔力を質量を持った肉体の延長として扱う、それは応用範囲が広く今は遠方から魔力を飛ばし落とし子の巨体をも受け止めていた。この場合真に驚くべきはその巨体を受け止め切れるだけの出力であるが。

「こっちは大丈夫だ、次は気を付ける」

「分かった。こっちは頼むぞ!」

 ギガヘッドはその汎用性に富んだその能力を活かし戦場を飛び回っては味方の援護を続ける。ただしそれだっていつまで続くかはわからないだろう。

「ザガ、ツバサ、魔力はどのぐらい残ってる?」

 竜神は傍にいた二人に問う。

「五割ぐらいは残ってるな」

「こちらも同じぐらいで」

 五割、それは竜神にとっては朗報である。彼女は自分自身が既に平時の二割程度しか魔力が残っていない事を理解している。狼王の生み出した衝撃波を防ぐ為に出した岩壁にかなりの魔力を消費したのである。あれは衝撃波を防ぎきる事は出来なかったがもしも彼女がそれを出していなければ三等星以下の者が生き残る事は無かったかもしれない。必要経費と割り切ってはいるがあとどのぐらい戦えるかと彼女は勘定を始める。

 魔力はその特性上それを生み出す魔臓に過剰な負荷をかける前提であれば無理が効くが、だからと言って戦闘を続行するのが可能な程度という意味ではやはり限界がある。そしてそれを超えるのであれば待つのは魔力の暴走、自爆のみ。

 自身の魔力量からそんなことが頭を過っていたがそんな最終手段に頼るのはもう少し先だ。尤も、彼女はそんなことをするぐらいならばとっととこの場から逃げ出すのであろうが。

「竜神さんもうあまり魔力が?」

 竜神の考えを察したツバサは心配そうな表情を見せる。実際、この戦いにおいては竜神のような大規模な攻撃が出来る者の存在が要となるだろう。なにせミザロ程の実力者であっても普通の剣で斬り付けるような表面を撫でる攻撃では大した痛手を与えられないのだから。

「お前に心配される程じゃない、いいからそこの後片付けして来い」

 そう言われるとツバサもそれ以上は何も言えず言われた通り目の前に迫りつつある落とし子の群れの処理へ向かう。

 一見すると彼らは無謀な戦いに臨んでおりいずれ来たる限界をどれだけ遅らせられるか、そんな戦いをしているかのようだった。大規模な攻撃は相応に魔力の消費も激しくいつまでもそれを放つことが出来るわけではない。今もなお気丈に振舞い皆の士気を上げようと声を上げる一等星のギガヘッドでさえそれは例外では無いだろう。

 しかし彼らには未だ勝算がある。

 竜神は空を見上げる。迫り来る落とし子とは逆の方角を。

「やっと来たか!」

 そしてそれに気付き彼女はその場を飛び退く。巻き込まれてはたまらないだろう。

 空模様が変わって行く、太陽の光の下で巨大な竜巻が形成されて行く。それに気付いた者から正面の道を開けるべく横へと逃げて行く。

「風よ! 螺旋を描き!」

「「「「「風よ! 螺旋を描き!」」」」」」

 声と共に竜巻はその姿を変えて行く。それは正に巨大な槍だ。

「撃ち抜け!」

「「「「「撃ち抜け!!!」」」」」

 巨大な槍は冒険者たちが空けた道を真っ直ぐに突き進む。地平線を目指し愚直に、真っ直ぐに、幾つもの落とし子を貫いて行く。

「着弾確認! 正面の落とし子が沈黙!」

 その発射位置では大勢の軍人が集まっている。とは言ってもそれは元いた千人からは大きく減って全体の五割ほど。しかしそれでも落とし子相手ならば十分な火力が出せるという証明が今為されたのである。指揮を執る琳はほっとすると同時に次を見据える。

「どうせ奴らはすぐに復活する。我々は巨大な落とし子を集中して攻撃する。次々行くぞ!」

「「「「「応!!!」」」」」

 声と共に再び彼らの魔力が立ち上る。

 後方に軍の巨大な砲塔が出来上がった今、戦況は大きく変わる、前線をどうにか保たせている間に巨大な落とし子を次々と軍の魔法が貫いて行く。どうしようもないと思われた巨大な落とし子の群れが次々と小さな肉塊へと変貌していくのだ。それらはまだ再生して幾つもの落とし子へと変貌していくのだが前線の冒険者たちや前線維持の為に駆け付けた軍人たちが相手をして殲滅していく。戦場はより苛烈に鮮血へと染まって行く。




 このまま行けばと誰かが思う。多くの犠牲者を出したもののこのまま行けば戦いを勝利で終えることが出来るかもしれないと。

 しかし人がそのような願望を抱く時、それは大抵の場合は大きな落とし穴に気付いていない時だ。そして今回の場合はある意味で字義通りに、彼らはそれに気付いていない。

 かと言って責めるのもお門違いというものだ。巨大な、山のような、雲を衝くようなそんな形容詞を使い過ぎて感覚が麻痺してしまうのも仕方ない事なのだから。

 三つ首の狼王ドゥアロはあまりにも巨大だった、そしてそれが自滅のような形で滅びた結果生まれ出でた落とし子達もそれはもう巨大なものである。そのせいで彼らは忘れていたのだ。

 ドゥアロはどこにいたのかという事を。




 少し時間を遡り、ロロは一人歩く中で空間内に反響するギガヘッドの声を聞いていた。

「誰だっけ、この声?」

 ギガヘッドとは面識が無い為その声の主が誰かは分からなかったが、すぐに彼は理解する。

「まあ向こうに戦ってる人がいるんだな」

 そうと決まればロロが向かう先は即座に決まった。何が出来るかはわからないが自分も戦うのだ。その為にここまで来たのだから。

「とは言ってもなぁ……」

 しかし彼がいるのは天高い瓦礫の隙間から僅かな光のみが差し込む暗闇の中。未だ彼は自分がどういった状況に置かれているのかを理解し切れていない。

「ちょっと歩いてみたけど外っぽい所に繋がる道が無いんだよなぁ」

 狼王の一撃から目を覚まし、それから既に十分ほどは経っただろうか。その間にロロはとりあえずこの暗闇から抜け出そうと壁伝いに歩き回っていたのだがさっぱり外へは辿り着けない。周囲には落とし子の気配もなく見つけたのは既に息絶えた冒険者ぐらいのものだ。

「いっそあの光が差し込んでくるところまで行ってみるか?」

 光が差し込む場所は跳んでみても届かない高所にある。吹き飛ばされた時に瓦礫が上手い事かみ合ってあの高所を保っているのだろうと彼は予想する。となれば。

「……それであれが崩れて来たらまずいよなぁ」

 竜神のような魔法が使えれば大して悩むことも無くあれを吹き飛ばして穴を空けるのだろうが、ロロにはそのような魔法は使えない。身体強化ぐらいしかまともに使えない彼では吹き飛ばすのは無理があるし、無理に突破を試みて崩落が始まれば降って来た瓦礫を受け止め切れるかは怪しいものだ。

「手詰まりか?」

 一人このような場所に閉じ込められたロロはいつになく冷静だった。そもそも彼は別に物事を考えるのが出来ないわけではない。単に誰かが傍にいる時はそれをすぐに投げ出して頼る癖がついているだけだ。それは幼い頃からいつも瑞葉と共にいた為に自分で考えるよりもその方が早いし正しいと思っているからでもある。

 しかしそうでない時、このような頼るべき相手がいない時は冷静に、落ち着いて、一人考える。そしてふと気付く。

「……さっきの声、高い位置から聞こえた気がするな」

 それはギガヘッドが自身の存在をより目立たせる為に竜神の出した石柱に乗っていたのもあるのだが、そうと知らないが故に彼は正しい答えを導き出して行く。

「もしかしてここって地下なのか?」

 愕然とするロロはしかし考えてみれば納得する答えだと唸る。冷静に考えてみればあれほど高い位置で瓦礫がいつまでも上手くかみ合って固定されているという事はあり得ないだろう。地下に落ちたのでなければこれほど大きな空間がいつまでも維持されているはずが無い。

 しかしだからこそ。

「何か変だな」

 自身が地下にいる事に気付いたからこそ、そう呟く。地下にいる、それは良い。おそらくはあの衝撃で地面が崩落したのだろう。上方から戦いの音が聞こえるのだからそれ自体は間違いのない事だし。

 ズズズゥン。

 しかしそれとは別に下方から音が聞こえる。まるで何かが動いているような、這いずっているような音が。

「……もう一個穴があってそこに何かが落ちてる、とかか?」

 自分が地下に落ちているのだ、他にも同じようになっている所もあるだろう。その考えは悪くない。実際、近しい状況が今の答えだ。

 ドォン。

 これまでよりもはっきりと聞こえた音、破砕音。

「何だ!?」

 ロロは剣を抜きながら警戒と共にその音の方へ向かう。そしてそこで見たのは。

「落とし子!?」

 家ほどの大きさの落とし子が一頭、岩壁を砕き咆哮を上げる。本来、ロロの手にはそれ程の大きさの落とし子は手に余る、誰かと協力したり二等星三等星に任せるのが正しいのだろうがここには彼一人しかいない。彼の良さは思いきりの良さであり、悪い所は無鉄砲な所であろう。

 即座に覚悟を決めた彼は物陰から飛び出す。

 突如現れた敵に対して落とし子の反応は鈍かった。それは岩壁を破った直後で少々の疲れがあったのもそうだろうし、まさかこんな場所に敵がいるとは思っていなかったと言うのもあるだろう。三つ首がのんきに周囲を見渡しているそこに現れた異物は容易にその足元へと近付くと。

 ザンッ。

 巨体を支える左の前脚を切り裂いた。両断、とまではいかなかったがその機能を失わせるには十分な深手。痛みに雄叫びを上げる落とし子からロロは距離を取る。直後、ロロのいた場所にその三つ首が襲い掛かっていた。

「もう一本行きたかったけどな」

 足を二本斬り付ければ機動力は大幅に失われる。そうなればロロにも勝機があったのだろうが一本だけではまだ動けなくもない。それに落とし子は本体由来の再生力がある。完全には切り離せなかった足は時間と共にどうなるか。

「……血があんま流れてないな」

 切り付けた瞬間は血飛沫が上がっていた。しかしその血も既に止まりつつある。放っておけばあの足は完治しそのままロロを追って来ることだろう。危険とわかっていても今の内に勝負を決めなければならない、ロロはそう確信し前に出る。

 三つ首がそれぞれにロロを見据える。その動きを見極め返り討ちにしようと六つの瞳で彼の動きを見ている。落とし子は剣による一撃を敢えて喰らうだろう、そして肉に深々と食い込んだ剣を振り切るその一瞬、大きな隙が出来る。そこを一撃で仕留めるのみ。

 戦いは一瞬で終わる、両者がそう直感したその時。

「ん?」

 まるで頭上で何かが弾けたかのように落とし子の動きが揺らいだ。放心したように視線も定かでなく視界にロロを捉えていない。何が起こったのかはわからなかったが、それが自分にとっての好機であるとロロは瞬時に理解した。

 剣を手に跳ぶ。狙うは首、これまでの小型の落とし子との戦いの中で首を減らせば動きが鈍る事は理解していた。高く跳び上がりまるで吸い込まれるようにその刃が落とし子の首の一つを。

 切り裂く。

「ヴォオオオオオオオオオ!!!!」

 首の一つを落とされた落とし子の怒りは想像に難くない、咆哮と共に先に斬られていた前脚をロロに無造作に叩き付ける。その威力たるや本来であれば受け身を上手く取ったとて骨の数本折れていたのだろうが、未だ繋がり切っていない前脚では威力も半減だ。

 しかし容易に吹き飛ばされ岩盤に叩き付けられたロロはそのまま地面に倒れ伏す。無論、だからと言って戦いは終わっていない。怒り狂う魔獣は振り抜いた拍子に千切れた前脚を無視してロロを喰らわんと這いずり進み、そんな魔獣を返り討ちにしようとロロも剣を支えに立ち上がる。

「中々、上手く行かないなぁ」

 ロロがそう呟いたのは二等星三等星の皆が目の前にいる程度の大きさの落とし子を容易に倒していたのを思い返しての事だ。自分はまだまだそこまでの強さを持っていない。それでも立ち向かうのは。

 彼が冒険者だからなのだろうか?

 しかし一見無謀に思えたその試みは今回は成功する。

 ガラッ。

 陽光が差し込む。それを遮っていた瓦礫の一部が切り取られ落下する。そしてその穴から一人の三等星が、牛鬼がやって来る。彼の魔法は空中に足場を作り出し、一直線に落とし子へ向けて駆け抜けた。ロロへと注意を向けていたそれは接近に気が付くことなく、刀が抜かれ首が切られるまで何の対処をすることも出来なかった。

「えっ!?」

 そして牛鬼の接近に気付いていなかったのはロロも同じだ。彼は首が落とされ残った首が悲鳴にも似た雄叫びを上げた時にようやくその事に気付いたが、即座にこれを好機とみなし首ではなく残っていた右前脚に狙いを定める。

 血飛沫が上がる。

 肉と骨を断ち切られ両の前脚が使えなくなった落とし子はその場に崩れ落ちる。まだ後ろ脚と首の一つは残っているが決定的に機動力が落ちた今、ロロと牛鬼の二人を相手にすることは不可能だ。再生が出来なくなるまで切り刻むのには少々時間がかかるがもはやこの戦いの勝者は決定づけられた。

 血の匂いが蔓延するその場所はあまり空気の良い場所では無かったがひとまず戦いを終えてロロが地面に腰を下ろす。

「助かったよ牛鬼さん」

「うむ、無事で何よりだ」

 牛鬼も少し安心したような表情を浮かべて刀を納める。それもそうだろう、彼はここに来るまでに幾つもの冒険者や軍人の死体を見かけていた。こうして知り合いが生きていて助ける事が出来たのはこの場で珍しい嬉しい知らせだ。

「上はどうなってるんだ? 気付いたらこんな場所でさ」

「まだ戦いは続いておる。どうやら前線を二等星以上の者が支えているようだ。軍の魔法も放たれておったからな、戦況が良くなっていると良いのだが」

「じゃあそっちに行かないとだな」

 そう言うとロロは剣を支えに立ち上がろうとするのだが牛鬼は思わず頭を抱える。

「お主は隠れていた方が良いだろう。傷も浅くはあるまい」

「大丈夫だって。もう動けるからさ」

 そう言って腕をぶんぶんと振り回すロロを呆れたように見つめる牛鬼。

「……ならば後方の救助を手伝ってくれ。その方が危険も少ない」

「救助?」

「今は安川と」

「早く戻れ!」

「噂をすれば、だが……?」

 牛鬼は安川と共に後方で生き埋めになっている者の救助に当たっていた。安川は魔法で周囲の音を拾える、それで生き残っているが外に出られない者達の場所を探し牛鬼が救助することを繰り返していたのだ。

 しかし今その安川が上に空いた穴から血相を変えて叫んでいる。

「向こうに落とし子が大量にいるぞ!」

 指差されたのは先に倒した落とし子が突き破った岩壁。向こうに広がる暗闇の中に彼らは見た、蠢く無数の落とし子を。

「逃げるぞ!」

 牛鬼は即座に撤退を始める。未だ動きの鈍いロロを抱えると見えない足場へ次々と飛び乗ってそのまま自分がやって来た穴へ向かう。そして二人が穴を通り抜けるのとほぼ同時に、岩盤が砕ける音が響いた。彼らは自分たちの足元に数え切れないほどの落とし子が流れ込んで行くのを目にする。

「……地下にあんなにいたのか」

 思わず漏れた牛鬼の呟き。実際その数は凄まじくまるで巨大な濁流にのみ込まれたかのように先程まで彼らがいた場所を落とし子の群れが塗り替えている。もしもあの場にいたなら牛鬼でさえどうしようもなくただその波に飲み込まれ為す術も無かったことだろう。

 しかしどうにか難を逃れたのは確かだ、彼らはその場で一息つくと、足元の揺れに少々肝を冷やしながらも状況を整理し始める。

「えっと、二人は他の冒険者の救助をしてるのか?」

 口火を切ったのはロロだ。その問いに対して牛鬼と安川は頷く。

「正直な所、この刀では巨大な落とし子相手には致命傷は与え難い。それならば前線に赴くよりも救助に力を入れてこちらの戦力を建て直す手伝いをした方が良いと思ってな。幸いにも安川とも合流もできたこ」

「俺も似たようなもんだな。そもそも俺の魔法は殺傷力低めだ。さっきみたいに隙を作るのは出来るが、こうやって人を探したりするのが本分だろ」

 牛鬼の刀はあくまでも単なる刀だ。その刃よりも巨大な手足を持つ落とし子を相手するには少々殺傷力が物足りない。安川の魔法は音の魔法であるからあくまでも純粋な攻撃とは少し違うものだ。先にロロと落とし子が戦っている時に急に落とし子の動きが鈍った時があったが、それは彼が爆音を落とし子の耳にだけお届けしたからである。このような戦闘補助ならば大いに役立つがそれはその隙に攻撃を仕掛ける相方あってのもの。乱戦状態の現在は前線に出る選択肢は取らない方が無難だろう。

「なるほどなぁ。あ、俺は」

「聞いてた、さっきまで寝てたんだろ?」

「あ、そっか。安川さんなら普通に聞こえるよな」

「お前はこれからどうする? こっちも人手が足りないからな。手伝ってくれれば助かるが」

「もちろん手伝うぜ。急いでみんなを助けて落とし子を倒しに行こうぜ!」

 やる気満々と言って様子のロロにほっとする二人。今は普通に動けているようだが先の戦闘でロロが喰らった傷は軽くないはずだ。このまま前線に出せば若い命を簡単に散らす結果になるのは容易に想像がつくところである。彼には救助の後にこの場を離れる者達を集めて共に町へ戻ってもらう、それが最善だと考えている。

 そんなことを二人が考えているとは知らずロロは穴から先程までいた地下を、無数の落とし子が今も駆け回る地下を見つめている。

「しかし地下にもあんなに落とし子がいるんだな」

「ああ、おそらくだが、狼王は地下にその身を置いていたのだろう。先の衝撃で自身の身体も砕け地下にいた本体も、ということだ」

 牛鬼のこの予想は正しい。

 ただ一つ問題があるとすればそのもう一歩先まで踏み込まなければ現状を正確に理解できているとは言えない所だだろう。地中にその身体を埋めていた狼王は滅びその肉体は無数の落とし子となった。それらが地中を動き回っているその意味を。




 最前線で戦う者達は地面から伝わる振動を目の前にいる無数の落とし子が崩れ落ちて行く振動と思い込んでいた。後方で瓦礫の山を彷徨う者達もこちらにまで振動が伝わって来る凄まじい規模の戦いなのだと感じ自分たちに出来る事を探している。ロロ達は真下にいる落とし子の存在には気付いていたがその目的までは気付いていなかった。

 違和感を覚えたのは後方の軍の部隊と一部の冒険者たち。

 小高い丘で周囲の様子を確認しているハクハクハクと彼女が助けた三人の冒険者たち。

「何でこんな場所まで振動が来てるんだ?」

 背の高い隊長格の男が思わずそう呟く。その丘から見れば一目瞭然だ、戦いの場は想像よりも遠く離れている。無論、落とし子の中にはまるで山のようと形容するに相応しい巨体のものも存在し、それが崩れ落ちて行く振動は凄まじい物である。しかし、それがまるで真下からの揺れであるかのように感じるはずが無い。

「おかしいぜ、離れた方がいいんじゃないか?」

「ううむ、しかしどっちへ行くべきだ?」

「あっちに軍がいるよ。合流するのはどう?」

 魔法を放つ準備をしている軍の姿が彼らの目にははっきりと映っていた。その周りには数名の冒険者が集まっているのが見える。きっと彼らと同じように前線に出る程の実力が無い者達なのだろう。

「よし、じゃああそこに向かおう」

 彼らは再び歩き始める。

 ハクハクハクは地面をじっと見つめて考えていた。まるで地中深くで何かが蠢くようなこの揺れは何なのだろうかと、疑問に思いその答えを探る。しかし、

「お~い、嬢ちゃん。早く行くぞ」

 その声に思考を遮られついぞその答えに辿り着くことは無い。たとえようもない悪寒を感じていたことも、もう口に出されることは無いだろう。




 三つ首の狼王ドゥアロは自らの手によって滅びた、それは間違いない。しかしその直前、自らの首を切り落とした存在について忘れる事は無い。そもそもが自ら滅びるとわかっていても攻撃を仕掛けたのは首を切り落とされた怒り故、だ。

 そうであればその狼王から生み出された落とし子がその怒りを継いでいないとなぜ思うのだろうか?

 天をも貫く強大な魔法を覚えている、それを操った人の群れを覚えている、彼らに対する怒りを、何百年と連れ添った首の一つを落とされたその恨みをはっきりと覚えている。

 怒りと共に落とし子は進む。地中を掘り進み地盤を破壊し彼らの復讐相手の元へ。




 地上の戦況は冒険者と軍の有利へと傾き始めていた。軍の魔法の威力は凄まじく巨体を誇る落とし子は次々とその身体を打ち抜かれその身を大きく削られて行く。その身を幾つもの破片へと分けて無数の落とし子となり蘇るも数だけでは前線で猛威を奮う二等星や一等星の冒険者たち相手には太刀打ちできない。石柱がその身体を貫き、粉微塵に爆破され、見えない手に圧殺される。

 無論、彼らとて無傷では無かったが少なくとも当初予想されたようなどうにもならない状況は脱したと言えるのだろう。

「だいぶ減ったか?」

 そう呟いた竜神の目の前にトウボクサイ並みの大きさの落とし子が迫る。彼女は拳に力を込めて迎撃をしようとしたが、その直前でツバサが横やりを入れて落とし子を両断する。血の雨と共にその肉が地面に落ちて行く中で彼は剣を納めた。

「竜神さん大丈夫? そろそろ魔力がきついんじゃ」

「つっても大技はもう必要ないからな。後ろがまだいる」

 彼女は後方に上がっている竜巻を見やり鼻を鳴らす。目の前に広がる魔物の群れからは既に雲を衝くような巨体は消え去っている。軍の魔法によりそれらは粗方潰されて肉塊となりそしてまた新たな落とし子となっていく。遠方からの狙撃ではここからは本格的に冒険者を巻き添えにしかねない。

「ここからは全員で気張って殲滅の時間だ」

「出来ますかねぇ。結構みんな限界が近いですよ」

 前線で落とし子との戦いを続ける彼ら二等星の面々もこれほどに大規模な魔法を繰り出し続けるのは未知の体験だ。魔力が底を尽きつつある者も少なくは無い。とはいえ出し惜しみなどすれば余計な被害が増えて行くだけだ。結局彼らは全力で目の前の敵を殲滅する事しか出来ない。

「どうせここにいるならやる事は一つだろ」

「分かりましたよ」

 彼らがそう言ったのを合図とするように後方から巨大な風の槍が飛び込んでくる。その威力は圧倒的でさしもの彼らでさえ巻き込まれてはただでは済まないとわかるものだ。それはまだ残っていた数少ない巨大な落とし子の元へと吸い込まれるように向かって行きその身体を貫いた。

 肉塊が地面へと落ちて行く。冒険者たちはあれもまたすぐに三つ首を生やして再生するのだろうと、新たな魔物の襲来に備える。が、その心配は必要ない。

 それよりも恐ろしいものが現れる。

「何だこの揺れ?」

 地響き、それは巨大な落とし子が地面に落ちた時に当たり前に起きる事だ。この戦いは常にどこからかその音が響いていたものだが、それすら比較にならない地響きが今ここで起こっている。視界がぶれて立っているのすら困難な、まるで地面が波打ち揺れているような。

「……波打ってるように見える」

 否、本当に地面が波を打っているのだ。

 そんな前触れと共に地面を砕き現れる。巨大な、巨大な、雲を衝く前脚が。

「は?」

「な!?」

 誰もが驚きの声と共に見上げただろう、その前脚を。それはまるで狼王の再来、故に彼らは次に起こることをすぐに理解した。

「衝撃に備えろ!」

 地面に叩き付けられ、巻き起こる衝撃波。砕ける地面、落とし子の肉塊、岩塊が宙を舞い、人々はどこまでも広がって行く地割れに飲み込まれるようにして消えて行く。


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