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志高く剣を取る ~ロロはかっこいい冒険者になると誓った~  作者: 藤乃病


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75.始祖の魔獣討伐戦へ

 虎狼ホンソウの国、虎の都。ここには今、過去を遡ってみても最大規模の戦力が集結しつつある。虎狼ホンソウの最大戦力とも噂される翼の民、実力派として名高い絢爛劫火、その他にも三等星や四等星が大勢。それに加えて山河カンショウの国よりザガ十一次元鳳凰やミザロ、慈楼などの二等星を含む冒険者が大挙してやって来ている。

 彼らは都の広場に集まって来ているのだが、事情を知らない者が見ればまるで戦争でも起こったのかと疑いかねないほどの数がそこにいる。彼らは皆、周囲の実力を測るように互いに距離を取って観察しているようだった。

 そしてその冒険者の集団の中にロロ、瑞葉、ハクハクハクの三人もいる。

「凄い数だな」

 物怖じすることも無く周囲の人々を見渡すのがロロだ。共に山河カンショウの国より来た冒険者の中にも、ショウリュウの都から道中の楼山の都で合流した者もおりこれまでにない大勢での遠征だった。それに加えて今はここ虎狼ホンソウの冒険者まで混じっている。もはや知っている者の方が少ないぐらいだが、だからこそロロにとっては興味が尽きないのだろう。

「頼むから大人しくしててよ」

 横で胃が痛そうにしてしゃがみ込んでいるのが瑞葉だ。彼女は道中も初めて会った相手に話しかけるロロを見ながら失礼な事をしでかさないだろうかと不安になっていたのだ。更に元々人見知りの気質を持つ彼女にとってこの状況はあまり心地良い物ではない。

 そして二人のすぐ傍で一言も発さずにじっと立ち尽くしているのがハクハクハクである。彼女もまた人見知りな方であるしとりあえずやる事も無いのでぼーっとしているようだ。

 その近くでとある冒険者が知り合いでも見つけたのか彼女の横を通り抜けようとして、

「とっ、悪い」

 軽くぶつかる。

「あ、だ、大丈夫、です」

「……そうかい」

 彼はそのまま通り過ぎていく。見覚えは無かったので虎狼ホンソウの冒険者であろう。

 とまあそのようにすぐ人にぶつかってしまう程に大勢が集まる広場であるのだがこの場には真の実力者はいない。牛鬼が虎狼ホンソウの知り合いを見かけて話をしているが或いは彼がこの場においては最も強い実力者かもしれない。

 今、二等星以上の者は場所を変えて話し合いをしているのだ。その内容は勿論。

「始祖の魔獣の討伐補助、って言われてもねぇ……。本当に私たちに出来る事なんてあるのかな?」

 この場にこれほど大勢の冒険者が集まった理由。始祖の魔獣についてだ。




 始祖の魔獣、それは圧倒的な力を持つ魔物であり、この世に始めに生まれた魔物でもあるとされている。その内の五体までは昔に討伐された記録があるのだが、残る一体の三つ首の狼王ドゥアロだけは未だに生きていると噂されていた。

 その目撃情報があったのが数か月前。その時点では確実な情報では無かったが翼の民、ザガ十一次元鳳凰、ミザロによる調査の結果、確かにその存在が確認されたのである。

 虎狼ホンソウの僻地に、始祖の魔獣がいる。その事実は三大国に激震を与え、結果山河カンショウの国と虎狼ホンソウの国の合同で大規模な討伐隊が編成されることになった。

 虎の都に集まった冒険者はその討伐隊の一部だ。

「三つ首の狼王ドゥアロ、奴への攻撃は我々虎狼軍及び山河軍が執り行う。冒険者諸君には周辺の安全確保を行ってもらう事になるだろう」

 とある会議室でその言葉を述べたのは虎狼ホンソウの国における軍隊の総指揮官だ。その右隣には虎狼軍の副隊長、そして左隣にはショウリュウの都よりこちらへ赴いた自警団の団長である琳が座っている。

 彼らはいずれも余程の有事でなければ自ら動く事などまず無い人物達。自然、この場に集っている冒険者たちも気を引き締めて行く。

「ここに来たばかりで報告書に目を通していない者もいるだろう。まずは配布されている資料を見てくれ」

 ここにいる者の手元に配られた資料、それは翼の民やザガ十一次元鳳凰などが調べて来た三つ首の狼王ドゥアロの詳細だ。そしてそこに書かれている事を見ればなぜこれほどの人数を動員し事に当たろうとしているのかはすぐにわかる。

「聞いてはいたが、実際にこう写真で見せられると最強にして最高の冒険者たる我輩であっても少々驚かずにはいられぬなぁ……」

 そう呟いたのは楼山の都より来た二等星、慈楼だ。彼は普段から自信満々で尊大な態度を取っているものだが、流石に資料の写真を見てはそうもいかないらしい。

 それはそうだ、誰が見たことがあると言うのだろう。まるで山が動いているかのような姿を。

「この写真、小さく写っておるのが村なのだろう?」

「そうだ。彼らの報告によれば村はその後に潰されて消えたそうだ」

 写真は複数枚に渡って撮られている。それは時間経過と共に動く山のような巨体を写し出す。その足元と言うべきか裾野と言うべきかは悩ましいがすぐ傍には幾つかの家々、つまりは村があるのが見えるはずだ。しかしそれらは写真の最後の一枚において丸々踏み潰されてしまっている。

 確かにほんの三十人ほどしか住民のいない、家も倉庫なども入れて十軒ほどしかない小さな村だ。しかしそれが丸ごと潰されてしまうのだ。その大きさは正に山と言うに相応しいだろう。

「しかしこれが本当に三つ首の狼王なのか? これだけの人数を集める理由は分かる化け物だが、それらしい風には見えんぞ」

 ある種当然の疑問を抱いたのは虎狼ホンソウの冒険者集団、絢爛劫火の団長である。三つ首の狼王という名は当然ながらその外見から付けられた異名だ。最後に目撃されたのは魔王大戦よりも遥かに昔である為にあまり確かな資料などが残っているわけでは無いが、まさか山のような巨大な魔物を以て三つ首の狼王などと名付ける事はしないだろう。

 それにそもそも翼の民などの調査が始まったのは三つ首の巨大な魔物の目撃情報が始まりだったはずである。彼らはなぜこの化け物をそうと断定したのだろうか?

「無論、そうと断定しただけの根拠はある。資料をめくってくれ」

 皆が資料をめくり、そして困惑の表情を浮かべた。

「これは?」

 そこに写っているのは三つ首の巨大な狼。大きさは先程の山のような化け物に比べれば遥かに小さいが、それでも巨体を誇る魔物であるトウボクサイなどよりも大きなものだ。

「どう表現するかは難しい所だが、我々はそれを落とし子と呼ぶことにした」

「落とし子……」

「あの山のような巨体から落ちた身体の一部が変異したものだ」

 ざわめきが走る。それはそうだろう。身体の一部が魔物に変異する、そのような事があっていいはずが無いのだから。

「つまりあれは魔物を生み出す魔物と?」

「少し違う。調査隊が持ち帰った死体を調べたところ、あれは魔物であって魔物では無い」

 皆が固唾を飲んで次の言葉を待つ。総指揮官は頭を抱えながらも事実を述べる。

「あれは肉体の持つ再生力が本来の形を模して身体を治そうとした結果、三つ首の狼となったものだと考えられる」

「……なる、ほど?」

「つまりこう言う事だ。三つ首の狼王ドゥアロ、その肉体は凄まじい再生力を備えている。それこそ、落ちた肉片が元の肉体の形へと戻ろうとするほどに、だ」

 その結論を聞いて猶、皆の反応は薄い。と言っても何も無反応でいたいわけではない。純粋に脳が理解を拒んでいると言うべきだろう。自然治癒力が高い魔物はいる、例えば全身を傷だらけにしたところで止めを刺し切れなければ三日後にはまるでそんなこと無かったかのように暴れ回るぐらいなら。人間の中にも魔法によって自身の治癒力を高められる者はいる。擦り傷を一時間程度で治し、裂傷や骨折も数日で治せる者は確かにいる。

 しかし零れ落ちた身体の一部など死んでいるようなものだ、それが魔物の形をとって動き出すなどあまりに恐ろしく、もはや生物としての枠組みすら超えているようにさえ感じられる。

 その事実が歴戦の冒険者たちを沈黙へと追いやったのである。

 とはいえいつまでもそうしていては話も進まない。一人また一人と覚悟を決めて実際にどう相対して行くかを考え始める。

「俺達がやる周辺の安全確保ってのはつまりそいつらの相手も含まれるって事だな?」

「そうなる。落とし子の強さに関しては、実際に戦闘を行った翼の民に任せよう」

「はっ」

 翼の民のまとめ役であるブルヘッドが立ち上がる。

「十数体の落とし子と戦闘を行いましたが特殊な魔法を扱う個体はいませんでした。しかしその脅威度は個体の大きさによって大きく変わります」

「大きさで?」

「先程総指揮官が申し上げた通り再生力が凄まじく高く、普通の魔物であれば致命傷の傷もたちまち再生することがあります。そして個体の大きさが大きければ大きい程致命傷を与えるのも難しくなる」

 例えば一般的な長さの剣で両断出来る程度の大きさであれば倒すのもそう難しくは無いだろう。しかし家のような巨体を持っていた場合、剣で切り付けたところで両断は出来ず裂けたその部分が持ち前の再生力で回復してしまうと言う訳だ。

「しかし逆に言えばそれ以外に特殊な能力はありません。巨体による質量攻撃、三つ首による波状攻撃は脅威とは言えますが。しかし殺し切るだけの攻撃力さえあれば倒すのは難しくないでしょう」

「戦闘を行った中で一番でかかった個体は?」

「我々はザガ十一次元鳳凰の皆さま及びミザロさんとも協力し本体への攻撃を仕掛けました」

 その場の皆が息を呑む。何せこの場の誰も彼らの実力を疑いなどしていない。強大な魔物と呼ばれるツルバネやヒャッキャクサソリなどをも軽く屠る実力者集団。二等星以上の者も複数在籍しており、彼らが依頼を失敗するなど考えたことも無いだろう。

 しかしこうして三つ首の狼王ドゥアロの討伐隊が編成されるという事は本体の討伐に失敗したという事だ。その経緯が話されるのを固唾を飲んで待つ。

「遠方からの大魔法を開戦の合図とし山を更地にするつもりで挑みましたが、結果を言えばどの程度の効果があったのかも不明領と言えましょう」

 周辺への被害を考えずに本気で敵を倒す事にだけ集中した彼らの攻撃力は想像を絶するというものだ。例えばザガ十一次元鳳凰の竜神は周囲の地形を操る事に長けている。今回彼女は地面から巨大で鋭利な石柱を生やしドゥアロの肉体を貫こうとした。それは一軒家程の巨体を誇るトリデノオヤドという魔物すら貫き一撃の内に屠る事すら可能なものだ。

 しかし。

「爆破、裂傷、炎に巨大な石柱による質量攻撃、様々な攻撃を試したもののほぼ無反応です。そしてあまりに近くまで行くと本体の三つ首が攻撃を仕掛けてきます。かなりの速度で近接戦闘が得意な二等星でようやく回避が可能な程ですね。威力もザガ十一次元鳳凰の竜神さんが身に纏っていた石鎧が砕かれていましたから相当なものです」

 竜神は近接戦闘を行う際に地面から石を身に纏い竜を模した巨大な鎧とすることがある。今回は敵も巨大である為に相応に巨大なそれを身に纏い腕の辺りから伸びる石剣で攻撃を仕掛けていたのだが、それは三つ首の攻撃を防ぐ為に砕かれてしまった。

 言うまでも無いが、彼女が身に纏うそれは魔力でより強固にされただの石や岩の硬度を遥かに超えるものだ。この場に集まっている者でもそれを砕くにはかなり労する事になるだろう。

「まあそれでも攻撃を加える事は出来ましたし本体の一部を切り取ることも出来ましたが、結果から言えばそれは新たな敵を増やす結果になっただけでした。小さなものは腰ぐらいの高さから、最大のものは今我々がいる建物ぐらいであります」

 彼らのいる建物は虎の都における警察兼軍事を担う組織の所有する建物だ。五階建てで一階ごとに講堂もあるなどかなり大きな建物となっており、それと比較される程の大きさの魔物など脅威でしかない。それですら本体から分離した落とし子に過ぎないのだが。

「これだけ切り取っても本体は無反応という認識でいいのか?」

「その通りです。一応血は流れていましたが、すぐに傷は塞がり大した反応はありませんでした。まああの巨体で大暴れされずに済んだのは良かったですがね」

「それで一旦撤退したと」

「我々の火力が足りない、と言うよりは落とし子が処理し切れなかったと言うべきでしょうね」

「落とし子の処理?」

「本体に比べて落とし子は動き回るのが好きなようでね。一軒家の大きさを持つ魔物が方々に散らばって逃げ回るものですから手を焼きました」

 三つ首の狼王ドゥアロはどちらかと言えばその場に留まって大きく動く事は無い。彼らは戦闘を挑む前に一昼夜を観察に費やしたがその間に動いた距離は自分の身体一個分程度とかなり大人しいものだ。戦闘中も近付く者への迎撃に徹しており、遠くへ逃げる者を追いかけることまではしなかった。

 しかし落とし子は違う。積極的に戦闘を挑んで来る個体もいれば、即座に逃亡を選ぶ個体もいた。そして巨大な落とし子を取り逃がし町や村へ辿り着いてしまえばその被害は恐ろしいものになるだろう。結果彼らはそちらの対応に追われ本体への攻撃を取りやめる事となる。

 何せ仮に本体を殺し切る事が出来たとして、どれほどの落とし子が生まれるかはわかったものではないのだから。

「他に何か質問は?」

 誰からも手が挙がらないのを確認しブルヘッドは席に着く。それを見届けた総指揮官は咳ばらいを一つして、

「ではここからは具体的な作戦について話して行こう」

 より詳細な作戦の伝達が行われる事となる。




 会議が行われている間、ロロ達は広場でひたすら待ち続ける事となる。その間の話題はもっぱら始祖の魔獣に関しての事だ。

「しかしまさか始祖の魔獣がお伽噺じゃ無かったとは驚きだな」

「全くだ。昔はお袋によく脅されたもんだがなぁ。遅くまで出歩いてると三つ首の狼に食われるぞってな」

 近くにいた虎狼ホンソウの冒険者たちがそんなことを言っている。他の者達も始祖の魔獣に対して抱くのは似たような感想だ。一応歴史としては存在していたという事になっているし、だとすれば一体だけ討伐が確認されていないのも分かっていた。だからと言ってもう何十年も目撃情報が無い魔物が生きているなど誰が思うのか。

 しかしながらここまで来てもロロは周囲の反応にいまいちぴんと来ていない。

「始祖の魔獣って強いのか?」

 そんな問いが出てくる程度には理解できていないのだ。

「ロロ、そんな当たり前の事聞かないでよ……。記録に残ってるだけでも凄いのばっかりだよ」

 瑞葉はミザロから始祖の魔獣討伐の依頼を聞いてからそれに関する本を何冊か読み込んでいる。そしてその恐ろしいまでの強さと被害についてもはっきりと認識しているのだ。

「例えば、一番はっきりと資料が残ってるのが孤独の竜主アドラスってやつだけど。空を飛んで火を吐く、本当にお伽噺の竜みたいな魔物ね」

「それで?」

「こいつは国を滅ぼしたらしいよ」

 孤独の竜主アドラス、それは歴史の中でまるで何十年かに一度の大災害の如く現れる魔物だ。空を舞い、炎を吐き、人々に災禍をもたらすそれは人間たちの度重なる討伐作戦を前にしても一切怯むことなく逆に壊滅に追いやったと言う。

 そしてしばらくは姿を消したと思えば、数年或いは数十年の後に傷を癒し再び現れる。

 人類とアドラスの争いは長きに渡ったが終止符を打たれたのも事実である。話ではその当時は現在のような三大国の体制ではなく五つの巨大国家があったようだが、その内の一つが総力を挙げてアドラスを討ち、結果として大きく国力を落として他国へと吸収される事となる。

 言い換えれば孤独の竜主アドラスは一国を滅ぼすほどの力を持っていたとも言えるわけだ。少なくとも国としての体制を維持できなくなる程に強大である、と。

「だから、同じ始祖の魔獣だって言う狼王も同じぐらい……、なんでしょうね」

 瑞葉は言いながら気分が落ち込むのを感じる。何せあまりに荒唐無稽な話だ。始祖の魔獣の強さも、この規模の討伐隊が編成されることも、そして自分がその一員としてこの場にいる事も。今からでも帰りたいと思ってしまうのも無理はない。

「ハクは大丈夫?」

 隣にいるハクハクハクはこくこくと頷くばかり、周囲の人の多さに委縮して声を上げるのも難しいようだ。瑞葉がこの場から逃げ出さずにいるのはそんな風になりながらもこの場から逃げようとはしない彼女の姿を目にしているからだろう。自分が先に逃げ出すわけにはいかないと妙な責任感のようなものを覚えているのかもしれない。

「ま、俺達は俺達に出来る事をやるだけだろ? そんな気負うなよ」

 ロロは相変わらずと言うか、始祖の魔獣の恐ろしさを聞いたところで動じる様子は無い。恐怖心とか無いんだろうかと瑞葉はつい思ってしまうが、そんなのは今更というものだ。ロロがその程度で動じるわけが無いじゃないか。

 ではもう一人はどうだろうか?

「安川さんはどうです? 思ったより落ち着いてますけど」

 そう言ってすぐ傍にいる安川に声を掛ける。彼は当初、ミザロにこの討伐隊に連れて行かれそうになった時拒否するような姿勢を見せていたのだが周囲の推薦などもあり断り切れずについて来た口だ。虎の都に来るまでの道中も実に嫌そうにしていたのだが、ここに来て急に落ち着きを見せている。不思議なものだと瑞葉は疑問に思っていた。

「そうだな。まあ、そもそも俺達みたいなのが始祖の魔獣様の前まで行くことになると思うか?」

「……どういう事ですか?」

「始祖の魔獣なんて化け物を相手取るのが四等星なはずないだろ? そうするとしたら一等星や二等星の化け物じみた連中に決まってる。なら俺達がすることは何だ?」

「……何でしょう」

「周辺の雑魚の相手だ。たぶん、三つ首の狼王ドゥアロ様は手下を大勢引き連れてるんだろ。だから俺達はそいつらを引き付ける役だろうさ」

 要は始祖の魔獣などと言う人知を超えた化け物を相手にするのは人間離れした連中がやるのだから、自分たちはいつも通りの仕事をするだけ。そう言いたいのだろう。無論、瑞葉とてその可能性は考えていた。となるとここに来るまでに安川がその可能性に全く気付かなかったという事があるだろうか? 仮にそうだったとしてここに来て急にその事に思い至り落ち着くなんてことがあるだろうか?

「……安川さん、聞いたんですか?」

「……何のことやら」

 安川は音に関する魔法を扱う。その中には遠方の話を聞き取る事を可能にするものもある。要するに、彼は今この場に居ながらにして軍の関係者や二等星以上の冒険者などが集まる会議を盗み聞いている、そう思われるのは当然だろう。

 瑞葉がじっとしばらく睨んでいたが、やがて安川は溜息と共に降参と言いたげに両手を挙げる。

「まあ、半分はそうだ」

「半分?」

「会議が行われてる部屋の音は聞こえん。たぶん防音が相当しっかりしてるんだろうな。ただ外にいる連中の話し声が聞こえる。そこにザガのお仲間やらがいるから中で話してる内容がある程度わかるってだけだ」

 ザガ十一次元鳳凰の面々は三つ首の狼王ドゥアロの調査に当たった関係で事前にこの作戦の内容を知っている。故に会議室には入らず軍の関係者などと情報交換をしていたのだが、安川にはその会話が一部漏れ聞こえているのだ。そしてそこで自分たちの役割がドゥアロの落とし子への対応であることを知った。

 尤も、落とし子という言葉の詳細までは分からずこの時点で彼は恐らく率いている魔物の群れと推測していたようだが。後に詳細を聞けばやっぱり来るんじゃなかったと思う事は明白である。




 何はともあれ冒険者たちはそれぞれに準備を整えている。これから始まる大きな戦いの為に。ではそのお相手の方はどうだろうか?

 虎狼ホンソウの僻地。山のように巨大なそれは身動ぎ一つすることなくただじっと佇んでいる。まるで何かを堪えるように自ら目を閉じ耳を塞ぎ、外界から隔絶されようとしているかのように。

 それだけが自身を狂える魔獣へと変貌させぬただ一つの方法であると知っているかのように。

 がりがり、と音が鳴る。それは苦痛から逃れようとする自傷行為だ。自らの手足をその爪でかきむしる。物理的な痛みは心の内より鳴り響く何者かの声を僅かな間であれ掻き消してくれる。しかしその代償にまだそれは気付いていない。

 欠け落ちた血肉が地面に落ち、それは徐々に形を変えて行く。徐々に、確実に、増えて行く落とし子。それらが一斉に遠吠えを始める。声が響く、どこまでも、どこまでも。その遠吠えはこれから始まる戦いを予感しているかのようであった。


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