獅子身中の変態
観客たちは、誰も逃げようとしない。
美女ゴーレムが不気味に組み合わさり、2階建ての民家の屋根を超す巨人のゴーレムと化した存在。その圧に、誰も恐怖を感じていないようだ。
祭りの席ということもあるが、酒と女装の熱で、誰もが少しおかしくなっているような気がする。
冷静な者も、周囲に同調している節があった。
オレとアザナが密かに胞体陣を貼り巡らせていると、1人の男が美女合体ゴーレムの前に手を広げて歩み出た。あまりに自然な動きに、警備はもちろん、オレも反応が遅れた。
「どーぞ、どーぞ。ようこそおいでくださいました。飛び入りも歓迎しております!」
コンテストの司会者だ。どうやら美女で固められたゴーレムを女装と判断したようだ。
どんな女装だよ。
観客もそういってたし、受け入れている。
度量大きすぎんだろ。
『む? うむ、そ、そうか? この舞台の上に立てばいいのだな』
古来種はこれにノッた。たぶん、オレたちに歓迎されていると思っているのだろう。
だが、これはチャンスだ。
「おい、この隙に手分けして準備を固めよう……って、古来種を指さして笑うなアザナ」
笑わしよる。とか言いながらも、各所各観客に防御胞体陣を施している。それは油断させるためなのか、性根が悪いのか判別つかない。
オレもそういうことをするが、相手の冷静さを奪う手段だから違う。…………だいたいは。
「ね、ねえ? あのサード卿? これって、どうしたらいいのかしら?」
優秀な騎士であるドーケイ代官だが、こういった事態には慣れていないようだ。警備主任に指示を出すどころか、オレにどうすべきか訊ねてきた。
「ひとまず警備主任と話をつなげろ。いつでも避難指示できるようにしておけ」
「わ、わかったわ」
代官は近くの警備に声をかけ、警備の主任の場所へと向かう。
見ればフモセもアザナの指示を受け、戦闘用の魔具を取りに下がっていった。あっちはアザナの目配せと一言で動いたので、さすがといったところか。
イシャンは事態を飲み込めていない。降りてこようとする古来種について知らないせいもあるが、ドーケイの反応を見て、余興ではないとたった今、理解した様子だ。
ティエは……スカートの中に隠し持っていた短剣を取り出し、背に隠し持っているが……相手が相手だけにあまり戦力になりそうにない。
装備が整っていれば、ティエもかなりの実力者なのだが……相手が悪いし状況も悪い。
「オレの後ろに控えてろ」
「かしこまりました」
ティエはサポートに回す。状況に応じて、自由に動ける「戦わない戦力」としよう。
タルピーは地味に古来種の背後という、なかなかいいポジションにいる。そのまま踊らせておこう。
さて、こっちが最低限整ったとき――。
『って、なんだここは? コンテスト? ……ミスなのに。男に限る? ふむ、そうか。……そういう風になった。……のか。……眷属たち。あー、まあ。そういう風に作ったな。我々は』
舞台に上がるなり、美女合体ゴーレムの中身である古来種は、この場がなんであるかを正確に悟った。
状況を悟るなり、観客たちを睥睨する。
さすが古来種。外見が異常でも、支配者としての威圧を放って、観客たちを畏縮させた。
賑やかに盛り上がっていた愉快な観客たちが、一斉に酔いが醒めた男たちの集団と化す。
「あ、くそ。もう立ち直ったか」
準備は途中だが仕方ない。
オレはたじろぐティエを下がらせ、臨戦態勢を……。
『思惑通り。と考えるべきか。なぜこうなったと思うべきか……うーん』
「先輩、なんか葛藤があるようですよ」
責任を感じているのか、呆れているのか、見た目が変なせいもあって判別がつかない。
しかし、観客たちを畏縮させたにも関わらず、古来種は動きが鈍い。
この世界に立ち戻り、再びこの地上を支配しようという存在か、それ以外なのかわからない。
少し突いてみるか。
そう思ったオレは、いざというときの対応をアザナと舞台バックにいるタルピーに任せ、一歩前に出た。
美女合体ゴーレム=古来種は、周囲を確認している真っ最中だ。
女装しているさまざまな男たちをみて、どこか落胆している。
『これは。いくらなんでも。変態がすぎるな』
「オマエの格好もなかなかのもんだぞ」
美女合体ゴーレムに頭はあるが、顔に相当するものがない。しかし、視線……注意がこちらに向くのを確認してから、古来種の入るゴーレムボディを指差す。
『【原初の威】を前にして。無礼な態度……。する……者? うわ、なんだこれは?』
堂々をした態度でオレに対峙した美女合体ゴーレム=古来種だったが、オレたちの指摘を受けて、やっと巨体を構成するゴーレムの姿形に気が付いた。
『なんて悪趣味な。ゴーレムだ』
「遠因はオマエラのせいなんだが、そこら辺の感性は、オレたちと同じなんだな。名無しの古来種さん」
煽るように不遜な態度で腰に手を当て、胸をはるようにしてゴーレムの巨体を見上げる。決して大きさなどに圧倒された、という体勢にならないように気をつける。
『名無し。だと? 勘違いしてもらっては困る。我が名はジョンソン・アンド・イアソン・コピー! 古来種を導いた者だぞ!』
名乗りを上げる美女合体ゴーレム=古来種。
その名はジョンソン・アンド・イアソン・コピー。
……ん? コピー?
「……おい、今、コピーって言ったか?」
「いいましたね。でも問題のリーダーのコピーなのでしょうか?」
「まず先兵か実験……いや、ビビってコピーを送ったのか」
『…………』
あっという間に、正体が露見した美女合体ゴーレム=イアソンコピーは、黙り込――――
* * *
『名無し。だと? 勘違いしてもらっては困る。我が名はジョンソン・アンド・イアソン! 古来種を導いた者だぞ!』
名乗りを上げる美女合体ゴーレム=古来種。
その名はジョンソン・アンド・イアソン。
……ん?
「コイツ、言い直しやが……った?」
同じ台詞を言い直した、と思ったが、イアソンの後ろにいたタルピーの踊りが巻き戻っていることに気が付いた。
「先輩。もしかして、あいつ、閉路回路を使えるんですか?」
閉路回路を限定的に扱えるが、その影響から逃れることのできないアザナは、オレの反応を見て事態を察した。
「ああ、そのようだ」
イアソンコピーが単体で閉路回路を使えるとは予想外だったが、こちらにはエキスパートがいる。
「イマリひょん! 対策を頼む……って、なんだその困惑顔」
「いえ、だって。妨害とかできない。ですけど」
「こ、こ、この役立たずがぁ……」
単体での直接戦闘では、タルピーどころかサキュバスのウラムにも劣るイマリひょんがいきなり戦力外だ。
せめて閉路回路の妨害ができるなら使いようもあったのに……ん? なんだ? アザナ。
アザナがオレの肩を突いてきた。
「あの、先輩。なんか、イアソン、停まってません?」
またアザナが古来種イアソンを指差した。嘲笑っていた先ほどとは違い、そっと気付かれないようにと意識した指差しだ。
見れば確かにイアソンコピー=ゴーレムが停止している。
様子をうかがっているのか、仕掛けをしているのか、それともなにか力をためているのか――
『…………いかん、ゴーレムに入れておいた魔力が尽きた』
ハッとイアソンコピーゴーレムが動き出し、周囲を見回した。
急な動きに身構えたオレとアザナだったが、膝から力が抜けてしまった。
「魔力切れすんのかよ!」
本体でもなくコピーで、しかもゴーレムに代入されているとはいえ、こんな間抜けなヤツらにあの時間軸のアザナは負けたのか。ちょっと信じられない。
『ちょっとまて。省エネモードに切り替える』
「あるんだ、省エネモード……」
アザナが眉をひそめた。
攻撃したいが、本当に敵対する古来種なのかわからないので、初手をどうしたらいいかわからない。
こんなに間抜けなら、楽勝なのではないか。
いいのか? オレ、油断するぞ。
油断させる作戦かと、勘繰ってしまうくらいだ。
そんな風に考えていたとき。聞きなれた声が、イアソンコピーゴーレムの中からあがった。
「たすけ、たすけーてーっ!」
ヨーヨーの間抜けだ!
姿は見えないけど確かにヨーヨーの声が、絡み合う美女ゴーレムの隙間から漏れてきている。
「どうした。別に美女でもないのに、なんで中にいる!」
少し不気味とはいえ、美女ゴーレムの塊だ。その中にヨーヨーがいるのは違和感がある。
「ひどっ! いえ、ゴーレムが合体し始めて、巻き込まれてしまったんです」
「それは災難だったな。大丈夫か?」
内部にいるのか。ヨーヨーの姿は見えないが、やはり中にいるようだ。
省エネモードに切り替えている隙に、呪縛から逃れることができたらしい。
泣きだしそうな声で、合体ゴーレムの中から状況を訴える。
「まわりが全部全裸なんて……。全裸に囲まれて、わたし1人服を着ているのは恥ずかしぃ」
「平常運転だから元気だな」
ヨーヨーはヨーヨーだった。変態的なことを言える余裕があるんだから、肉体的にも精神的にもまだまだ大丈夫だろう。
「おお、わかるぞ!」
イシャンが割り込んできた。
「みんなが全裸な中で1人着衣! それは恥ずかしいな。すぐに先日教えた脱衣魔法を使うんだ」
「教えたんか」
変態に話がややこしくなる魔法を教えるな。
などと油断している間に、美女合体ゴーレムが再起動した。
『待たせたな。我が眷属たちよ。我は改めて支配者。としてこの場にて宣言をする。支配されること。これを喜べ、眷属。最初に我が。再来の声言に触れる。その栄誉を喜わたしがザルガラ様を支配するぅううぅぅぅ!』
支配者宣言の口上が始まる前に、聞きなれないゴーレム音声が、誰かの発言にすり替わったような感じがした。
睥睨するかのようなイアソンコピーゴーレムだったが、今はオレを狙っているかのような魔力の流れだ。
「おいおい、ヨーヨーが乗っ取ってないか、アレ?」
「ヨーファイネさんが凄いのか、イアソンさんがへっぽこなのか、ゴーレムがダメダメなのか、コピー弱っ、なのか分からないですねぇ」
いろいろ隠し技まで準備したのに、オレたちのやる気がみるみる下がる。タルピーもオレの影響を受けたのか、舞台バックで踊り始め……あ、これはいつものことか。
「……あっ、倒してもアレはいらないです」
思い出したように、いつもの取り分を要求してくるアザナ。もう勝った気でいる。
「待てよ、アザナ。あのイアソンが、こっちの世界に降りてくるやつらのリーダーでも、もしかしたらコピーは敵対してこないかもしれないぞ。まず話あってみよう」
なんでもぶっ倒せばいい、なんて野蛮だ。少しは話会おう。
ついでに情報も引き出そう。
『あ、ザルガラ様。このおじさん、支配できない相手は殺す気でしたよ。なので私の支配欲で上書きしておきました。というわけで、私のものにぐへへぇなってください! アザナくんごとぉっ』
動きの止まっていたイアソンコピーゴーレムが、ヨーヨーゴーレムとなって変なことを伝えてきた。
「でかしたというべきか、調子に乗るなと言うべきか……」
もう完全に変態に乗っ取られたようだ。
だんだんと美女合体ゴーレムの挙動がキモくなってきた。その後ろで真似をするな、笑わすな、タルピー!
「ひぃっ!」
アザナは合体ゴーレムのくねくねした動きに身を縮めた。どうもステファンを思い出したようだ。
今回もぐだぐだになりそうだ。
「やはり、脱ぐと強くなる。素衣理論は正しかった」
一方で、イシャンは満足そうだった。
全裸で。




