饗宴、狂乱、また饗宴 ☆(あとがきに4コマあり)
「お祭り? この状況でか?」
暴走ゴーレムの調査を一休みし、マナーハウスへ戻ると代官が街の名士を連れて挨拶にきた。
この名士の執り仕切るお祭りが、明日に控えているそうだ。
暴走ゴーレムの問題があるので、オレに確認にきたわけである。
「まあいいんじゃねぇの。準備は終わってるんだろ?」
「はい、みな、楽しみにしております」
名士は相当な歳で、目元が伸びた眉毛で隠れている。口元もヒゲがふさふさで口を開かないと見えない。
好々爺……という見た目に対し、どこか鋭さのある老人だ。
魔法と貴族というアドバンテージがなければ、この爺さんに圧倒されそうだ。
「そもそもオレには禁止も中止もする権限ないし、暴走ゴーレムは一か所に集めてるから危険でもない。元から危険なわけでもなかったし……。ゴーレムを使うお祭りじゃないんだろ?」
「ええ、準備では使うこともありますが、もう終わっておりますので。祭りの最中に使うような大掛かりなイベントではありません」
「そういうことなのよ。警備とかは今まで以上に手をかけるからぁ、いいでしょ?」
名士の説明に対し、ドーケイがフォローを入れる。
オレも思うところがあり、話を聞いて一考してから答える。
「そういうことなら、いいんじゃない? オレも一度帰らないといけないし」
理由を見つけて、無条件に寛容であることを隠す。
ペランドーたちを呼んだ孤児院でのパーティがある。もうこれ以上、領地でまごまごしていられない。飛行許可貰って、急いで帰るとしても時間がない。
こっちはパーティやるけど、そっちはお祭りやめたほうがいいんじゃね、とも言いにくいし、そういう理由もない。
だが、寛容さを安易に出す必要もない。
「まあ、よかったわぁ。じゃあ、ご領主さまもぉ、良かったら参加してくださいね」
「気が向いたらなぁ」
名士ではなく代官の方が喜んでいるようだが、コイツ、そんなに楽しみだったのか。
なんて軽い気持ちで開催同意して、お祭りに参加することになったら――。
大参事が起きるなんて――。
* * *
「さあ、お集まりのみなさんお待ちかね! これより、第3回サード領ミスコンテスト(男性に限る)を行います!!」
街の広場に建てられたステージで司会者が、居並ぶ女装男性たちを並べて高らかに宣言した。
「大参事だよ!!」
オレは会場の有様を見て叫んだ。
「おい、なんだよ、これ!」
続けて隣りに立つドーケイを問い詰める。
「だから、第3かい……」
「大惨事だよ! こんなの!」
褐炭鉱で働く男たちのミスコンテストだぞ!
大参事しかありえない!
おっさんの女装、どうみてもおっさん、惜しい感じの女装、ネタ女装、美女、どうみてもおっさん、ネタ女装、美女、美少女、おっさんの女装、美女……あれ?
……え?
わりとレベルたけぇのがいるな。
ステージで紹介される参加者に、少し圧倒されてしまった。
「毎年恒例の大切な伝統なの。大目に見て楽しんでいって」
言葉を失っていたら、ドーケイ代官が屈託ないことを言いだした。
「第3回って伝統もなにもねぇよ! あと思いっきりオマエの任期と被ってんぞ! オイコラ、視線を逸らすなッ! ……ガン見してくるなッ!」
怒鳴りつけたらそっぽを向いたくせに、熱い視線を向けてくんな!
などとドーケイとやりあっていたら、アザナとフモセがやってきた……。
「あれ? アザナ。オマエは参加しねぇの? ていうか普通の格好だな」
「フモセが私服を持ってきてくれたので……あ、参加して欲しかったですか?」
アザナは意図を掴んだ! そんな表情を見せたあと、明るい表情でオレに尋ねてくる。
いや、それは――。
「参加資格はこの領地の人だけなんですよ。というわけで、ザルガラ先輩には参加資格があります」
「出ねぇよ」
もやっとしてたら、アザナがいたずら心満載な笑顔で、こっちに参加を促してきたのでイラっとした。
「ではサード卿。お着換えはこちらに」
出ないって言ったのに、フモセが着替えを手に迫って来た。
いつもはない圧がある。
「なんでオマエが持ってきてるの?」
「お手伝いしましょうか?」
「なんでオマエが手伝うの?」
フモセがなんか強い。ひ、退かない、媚びない、強い。
女の物の服を持って迫ってくる。
「お、おい、待てよ! 100歩譲って着替えるの手伝うって、オマエはアザナのお付きだろ? ティエがやるならわかるが……」
「え? わたくしがするのですか? というか着られるのですか?」
「いや、違うけどさ」
黙って控えていたティエも、まさかの展開に驚いている。
「賞品とか副賞が凄いんです。でましょうよ、ザルガラ先輩」
フモセを押しのけると、アザナが代わりに迫って来た。
「出ないよ。出ないから賞品も聞かない」
「副賞は女装一年分ですよ」
聞かないっていったのに言ってくるアザナ。
「それどういう一年分って基準だよ!」
あまりにあんまりな副賞に思わず突っこむオレ。
「1年間、ずっと女装しててもいい権利です」
「罰ゲームじゃねぇか。ますます出たくなくなったぞ」
「ザルガラ先輩が優勝できるわけないじゃないですか」
「よーし、そこまでいうなら……って出ると思ったのか? 出ねぇし、そういう負けず嫌いじゃねぇよオレは」
ノせようとしてきたのだろうが、そうはいかないぞ、アザナ。
「ちなみに優勝したから、アタシ、ずっと女装してるのよ」
なんかドーケイ代官が暴露してきた。
「優勝したのかよ! ていうか前からじゃねぇのかよ!」
「じつは着任直後、女装をやめろといわれたから、これを開催してこの副賞にしたの」
「中央官に報告するわ」
もう丸投げするわ。
「優勝した権利だから文句は言わせないわ。中央の許可も得ているの。わりと興行成績いいのよ、このミスコンテスト(男に限る)は」
代官が無い胸……いや、筋肉だけはある胸を張っていう。
それと同時に、ミスコンテスト(男に限る)の舞台上で、自己アピールする参加者がいた。
『代官の女装をやめさせるためには、我々が女装して優勝しないといけないので、レベルがあがりました』
興奮で顔が紅潮しているレベル高い女装参加者がそういうが、もう望んでやってるという気がする。
だって、最初の1回目だけだろ、代官が優勝したのは?
もう権利とか関係なく、女装してるじゃん。
自己アピールで沸き上がる観客見ても、悪ノリで楽しんでいるが、もう受け入れているようだ。
そら、美女ゴーレムも作ろうとするわ。あれ、切実に欲しかったんじゃなくて、半分は冗談だったのかもしれない。
「目的と手段が入れ替わって……ないな。なんだ、えっと目的は女装させないために、自分が女装してるから……あってんのか」
「いけません! 先輩!」
「え? なんだ?」
何かに気が付いたアザナが、フモセから着替えを奪って叫ぶ。
「悪代官の陰謀を阻むため、ザルガラ先輩が優勝しなくちゃっ! さあ、早く着替えるんです!」
「やめろっ! その理屈はおかしいだろ!」
「アタシ、今回は参加してないわよ」
「ほら、理由ねぇだろ! って、悪代官は否定しねぇのかよ!」
アザナが飛びついてきたので、弾き飛ばすがすぐに戻ってくる。手ごわい、うざい!
このまま勝負がつかないと思われたとき、オレに助けが現れた。
「待つんだ! アザナくん!」
全裸だ。
イシャンだ。
たぶん味方じゃないヤツだ。
全裸がオレを助けにきてくれたのか?
「ザルガラくんは、全裸になるから女装などしない!」
頭の中全裸か、コイツ!
やっぱり味方じゃなかった。
オレを引きずりこみに来たのか!?
「うっせ、オマエは服着ろ! 【極彩色の織姫】!」
罰だ、女の物を着せてやる!
この魔法の使用頻度高すぎて、効率化甚だしい。
「なんだ、先輩も興味あるんじゃないですか」
女物を着せられ悶えるイシャンを見て、アザナがそういう解釈をした。
本気を出して、女装させてやる。そんな目が浮かんだとき、新たな助けが現れた。
イマリーだ。
観客たちを押しのけて、貴賓席に駆け上ってくる。
「ザルガラ様! 大変なこと。が起きました。ので報告にきました!」
「よくやった、イマリひょん! で、なにがあった?」
大変なことが起きたのに、よくやったもないもないが、アザナが空気を読んで引き下がった。よくやった。
「リマクーインが暴走ゴーレムを合体させて、もっとすごい暴走がおきました!」
「なんでだよ! そういうことが起きないように、監視させてたはずだぞ!」
「しっかりしてました!」
イマリーは必死に反論する。
「考えてみて。リマクーインっていう。ドワーフがナニやってるかなんて。傍から見ててもわからない!」
「言われてみればそうである」
たしかにイマリーは監視に長けている。だが、錬金術やゴーレム制作に詳しいわけではない。
傍から見ていても、理解すらできなかっただろう。
リマクーインの監視はオレかアザナがやるべきだった。
「で、その暴走したゴーレムはどうした!」
「こっちに迫ってきています!」
ピリリッ、とオレとアザナに緊張が走る。
ドーケイ代官もふざけた態度を改めて、警備に事態を伝える。
直後、裸体の美女ゴーレムたちが、絡み合って人の形を無し、巨大化したゴーレムが広場に続く道の先に現れた。
弱った石畳を踏み抜いた音が響き、会場の観客たちも事態に気が付いた。
美女合体巨大ゴーレムの姿は不気味だが、目を凝らすと官能的でもある。
合わさって一種の怖さがあった。
ミスコンテスト(男に限る)会場が騒然とする。
無理もない。
あんな不気味なゴーレムが現れたら――
「すごい女装がきたな」
「まさか美女ゴーレムを纏って女装と言い張るとは」
「これがホントの女性を装備。女装ですな!」
「がはははっ」
あんまり騒ぎになってなかった。
強いなコイツら。
だが、あの合体ゴーレムの目的が分からない以上、なんとかしないと……。
アザナと相談しようとしたとき、美女合体ゴーレムが声を上げた。
『ふはははっ! なにか。楽しいことをしているな! ん? 楽しい……?』
しゃべるのか!
意志のありそうな声色にもびっくりだ。
優位性を確信したような声だったが、会場の様子を見降ろして声色が変わる。
『なにをやっているんだ? 我が眷属ども?』
美女ゴーレムの腕を指としている巨大ゴーレムが、会場で女装している人々を指差して、心底不思議そうに尋ねてきた。
緊張感もなにもない声色だ。
『我が眷属ども』とか言っているから、中身は古来種か?
「ミスコンテスト(男に限る)をやってる」
それはともかく、正直に答える以外の手は何ももなかった。




