効果覿面、効果無敵
「古来種対策の魔法をいくつか用意してあったのに、ヨーヨーのせいで出番がなくなったなぁ~。あーあ」
「はぁ……。ボクも新魔法を実験してみたかったのに。がっかりですよ、ヨーファイネさん」
「ザルガラさま~、踊ってていい?」
ヨーヨーが美女合体ゴーレムを乗っ取ったというなら、手加減が必要となる。
残念だが、全力など論外だ。
オレとアザナは残念だ、と胞体陣のいくつかを消して、いつくかを書き換える。
ああ、タルピー。オマエは許可なく、いつも踊ってるだろ。今もずっと踊ってるし。
『お、お二人とも、古来種様を、射的の的か何かと思ってませんか? 【ともあれ、ザルガラ様とアザナくんは支配されるべきである】』
ヨーヨーがドン引きしながら、不意に魔法を撃ってきた。
「なにさらっと、精神支配魔法を放ってきてるんだよっ!」
『やだ、この二人。古来種様の作った胞体陣と直結させた魔法を、羽虫を払うがの如くペチって……』
「ボクと先輩を狙ってる分、出力も精度も低いですよ、ヨーファイネさん」
ヨーヨーから放たれた魔法は、古来種の仕掛けた遺伝する人類支配の魔法や、魔力プールを介さない即興性の強い物であった。
イアソンコピーが放てば、もしくはヨーファイネが狙いを絞れば結果は違ったかもしれないが、とりあえず脅威ではない。
通常の防御胞体陣で弾くことができた。
「ぐははー、なんぞ余興か?」
「コンテスト参加者の寸劇か!」
「今年の祭りは気合い入ってるなぁ」
「新領主の趣味か」
オレたちと美女合体ゴーレムのじゃれ合い……いや戦いを、酒の入った街の者たちは余興と思ったらしい。
警備が逃げるように促したが、ただの席移動と思い込み、酒やつまみを集めて観戦に入っている。
これ、どこからどこまでも、オレの趣味じゃないぞ。
そんな中、フモセがその手に小さなケースを持って、楽屋裏から駆けてやってきた。
そして和やかな雰囲気に、驚いている様子だ。
「え? これ、どうしたんですか、アザナ様?」
悪いな、もう半分解決した雰囲気で。
「フモセ! とりあえず魔具を!」
アザナはまだ気を抜いていないのか、フモセに持ってこさせた魔具を寄越すようにと指示をした。
「は、はい! アザナ様! 新しい魔具ですよ!」
ケースからメガネを取り出し――。
え? メガネ?
え? 投げるの、フモセ?
え? 跳んで顔面で直キャッチ装着するの、アザナ?
メガネそのものが珍しいし、魔具となるとさらに珍しい。
いったい、どんな魔具なのか?
アザナの持っているもの、もしくは作ったものならば、相当な力を秘めた魔具だろう。
――なんか問題もあるかもしれないが。
「可愛さ100倍! だと思いませんか、先輩!」
空中でメガネとドッキングするアザナに、一瞬、ドキッングしてしまう変貌ぶり。
私服と相まって、未知のアザナがそこにいた。
「ああ、まあ……まあ、うん。まあまあだな」
言葉を濁しているうちに、まあまあなまあまあ褒めてるようなまあまあという、なあなあな意見を絞り出す。
「はっきり言ってください!」
ぷんすか、と言いながらアザナがメガネを強調して進撃してくる!
オ、オレだけを殺す魔具かよ!
「と、とにかく可愛さが100倍とか魔具なんていらねぇんだよ」
アザナの頭を掴み、柔らかい髪質に驚きながら進撃を止めてソッポを向かせる。
「なに言ってるんですか。ARメガネです」
「えーあーるメガネ?」
「裸の人物が、服を着ているようになる見える魔具です。これで裸の美女合体ゴーレムを見ても、服を着ているように見えるんです。もう不気味なアレをみなくてすみます」
「ああ、オマエは苦手だもんな、アレ」
アザナは造詣が人間一歩手前の美女ゴーレムを、不気味だと言っていた。合体して妙な動きこそしてないが、それでも趣味の悪い芸術作品だ。
「……先輩は女の人の裸が見られて、嬉しいんですよね?」
メガネの向こうで、アザナの眼がオレを侮蔑するような色を浮かべる……。
「はぁ? ……ハアァッ? 別にゴーレムの裸とか興味ねぇし! いつも姫様のとか見てるし! ……あ、痛っ!」
アザナから衝撃を伴うローキックが飛んできた。普通なら足が吹っ飛ぶアレである。
蹴りを最後に進撃をやめたアザナが、不機嫌そうにイシャンの方を向いた。
「ふんっ! これでイシャン先輩が、不意に視界内に入って来ても平気ですよ!」
「なんと! 今までにないくらい、こちらを見てくれているというのに、アザナくんの視界では私は服を着ているというのか! ああ、なんと恥ずかしいっ!」
視線を受けて、恥ずかしいとか言いながら嬉しそうなイシャン。
「無駄ですよ! どんなポーズを取ろうと、今のイシャン先輩は鎧の騎士にしか見えません!」
メガネシャキーンシャキーンとかいいながら、イシャンへ熱視線を向けるアザナ。
「うわぁ、なんだこれ」
アザナがイシャンを注視しているのは気に入らない。それはともかく、傍目には全裸の男に興味津々としか思えない光景だ。
『ザルガラ様。一旦、休憩いれます?』
「そういう気遣い、いらねぇから」
騒動を横からかっさらったヨーヨーが放置されて、なんだか気をつかってきた。
『いえ、それがこちらも都合が……。古来種から術式いくつかパクったんですけど、ちょっと複雑なんで整理する時間ください』
「オマエが休憩したいんかよ」
相手がコピー情報体であっても、古来種は古来種。その御業はヨーヨーにとって、荷が勝ち過ぎているようだ。
『あ……ヤバ』
胞体をあれこれ弄っていたヨーヨーが、なにか怖いことをいう。
なにを弄った?
美女合体ゴーレムの巨体がよろめき、直後、纏う雰囲気が不穏になる。
『……やってくれたな、支配される側の分際で』
声色が変わった。
これは……イアソンコピーか?
「的が帰ってきましたね」
「おいおい、一応中にヨーヨーがいるんだから手加減しろよ」
アザナが再び胞体に魔力を注ぎ込む。それがかなりの量だった。
イアソンコピーが自分を取り戻した瞬間、オレたちに向けて敵意ある魔法を放ってきた。
魔力弾とは違う、魔法の振動波だ。
まるでこちらの胞体を解体するかのような衝撃波である。
歪む胞体陣。
魔力弾が相手を気絶させ、無力化させる魔法だが、この魔法は武装解除させる魔法だ。
オレとアザナは歪む前に、衝撃を逃がすため胞体を4次元的に変形させてエネルギーを逃がす。
だが、後ろにいたイシャンは、もろに衝撃波を受けて、防御胞体陣を破壊された。
「す、すまないな! ザルガラ君! アザナ君! 防御も丸裸にされたならば、古来種様につくほかない! 偉大な時代を再びみようではないか!」
イシャンの眼の色が、文字通り赤く変わる。
衝撃波を受け流した防御胞体陣の痕跡を見るに、支配と思想の流し込みの魔法が組み込まれていたようだ。頭の中へ直接、イアソンコピーの思想を叩きこまれたわけである。
「あのコピー! 全裸を味方につけやがった!」
「全裸を味方につけてなにをするつもりなんでしょうか?」
オレとアザナの反応と、イシャンの裏切りを見て、観客たちがざわめく。
「全裸を味方に?」
「全裸が好きなのか、古来種様は?」
「そういえばあのゴーレムも全部全裸だし」
「やはり我々も、全裸で出迎えるべきなのだろうか?」
「古来種様の前では全裸で」
「全裸で歓迎!」
観客たちが悪ノリしている。頼むから服を脱がなよぉ~。
「もう、それならそうといってくれればいいのにぃ」
警備兵の再配置を終え、戻って来たドーケイ代官が、恥ずかしいけど仕方ないわねぇという態度で、肩から服を脱ごうとしている。
「つけてよかった、ARメガネ」
「おい、オマエの付き人にもかけてあげろよ」
確かに先見の明というか、この場ではオレも欲しい魔具だ。
どんなもんですか、ふんすっ、と胸を張るアザナだが、その後ろで真っ赤になって手の隙間から見ているフモセがいるぞ。そっちが最優先じゃないんですかねぇ?
『待て待て、お前ら待て、そうじゃないから! ええい、脱ぐな!』
「そうはいうがな、この状況つくったのはオマエだぞ」
「古来種ってみんな、こういうのが好きなんですねぇ……。やだなぁ」
慌てて否定する古来種イアソンコピーだったが、フォローするつもりはない。
アザナもオレの意図に乗り、メガネ越しに軽蔑する眼をイアソンコピーへと向ける。
オマエの評価は変態に固定させてもらうぞ、イアソンコピー。
『ええい! もうよい! 才能ある肉体。それがこの中にある。とわかった今! 寄せ集めなければ。役に立たない。そんなゴーレムなどいらん!』
服を脱いでいく男たちに囲まれ、イアソンコピーがついにしびれを切らした。
でも支配魔法のせいで、そうなってるんだぞ。解除しろよ。
「先輩! このままじゃ、ヨーファイネさんが……」
「え? べっつにいいんじゃね?」
顔を掻きながらヨーヨーを見捨てる。
「……まあ、そうかもしれませんが」
消極的に見捨てるアザナ。
「そ、そういうわけには。あれでもカタラン伯のご息女ですし」
指の隙間からいろいろ見ているフモセが、常識的な意見をしてくる。あれでもって言葉はあんまり常識的ではないが、ヨーヨーが非常識だから仕方ない。
「いいんじゃね? ヨーヨーもこれでハレて、古来種の支配から解放される」
古来種に乗っ取られた者を、無理矢理解放すると、以降は古来種支配の影響が弱くなる。アリアンマリがそうであったように、だ。
アリアンマリはアザナ側の人間だし、オレ側の人材も欲しいところだ。
ティエがこういう時、支配の影響を受けて役に立たないしな。…………あんまりヨーヨーは欲しくないが、しかたない。
『この娘の身体! 貰ったぞっ!』
組み合わさった美女ゴーレムたちが解きほぐされ、中から見慣れたヨーヨーが這い出してきた。
『って、なんでコイツも。脱いでおる!』
出てきたヨーヨー=イアソンコピーは、光り輝いてこそいるが全裸だった。
脱いだことで、魔力が上がったからこそ、一時的にゴーレム操縦を奪えたのだ。内部で起こっていたことを理解せず、ヨーヨーの身体をうばったのか、コイツは。
「とりあえず【極彩色の織姫】」
とりあえずヨーヨーに服を着せる。
「そんな、とりあえずビールみたいな」
「みんな、とりあえず全裸すぎんだよ」
軽い気持ちで服を脱ぎ過ぎだ、まったくこの国の奴ら。
『効かんっ!』
せっかく、服を着せようと思ったのに、ヨーヨー=イアソンコピーは魔法を弾いた。
つまりまだ全裸だ。
その光景を見て、アザナが訝しがる。
「ええ……せっかく服を着れるのに。もしかしてこの古来種……」
「ああ、イアソンコピーも実は裸族か」
「やはり古来種様はわかっておられる!」
イシャンも絶賛全裸のイアソンコピーは困惑した。
『そ、そうではない! 魔法に。何かを仕込んで。いただろう! だから拒絶したのだ!』
「いや、別に」
弁明するがオレはとぼけた。
実際は、魔法が防御陣を抜けやすくするため、裏口のような仕掛けをしていたが、知らない振りをした。
観客たちも、やはりそうかと納得していた。
『ええい! 煩わしい! 【貴様に覿面、我は無敵】』
ヨーヨー=イアソンコピーを中心にし、巨大な胞体陣が広がっていく。濃厚な魔力に満たされたその120胞体は、精密な魔法陣がびっしりを刻まれている。
一目見て、強力な魔法とわかる。誰でもわかる。
世界の色が裏返った。
次の瞬間、オレとアザナは何もない世界に浮いていた。
ティエとフモセがいない。いや、観客たちも警備もドーケイもいない。
『ここは我らの支配。それから抜け出したものを。懲らしめる空間だ』
「ここは?」
アザナであっても、一瞬どこであるかわからない。
オレも自分の立ち位置を見失った。見失った瞬間、場所が変わったように感じたくらいだ。
「たぶん、限定的だが4次元空間だな。【門】を潜った時の感覚が続いている」
右手の『懐かしい』感覚が戻っている。
つまりここは高次元空間ということか。
「余裕はここまでらしいぞ、アザナ」
右手が開いたり閉じたりして見せると、アザナも察したのか顔を引き締める。
こくりと肯くその反応は、何か勘違いしているような様子もない。
「アイツにとって都合のいい世界。地の利を得るため、力技で引き込むだけでも強敵だ」
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