新天地
「時間があれば手合わせを願いたいものだ」
オクタリヌは機嫌が良かった。
「武道のセンスもいいのだろう」
ルービスはオクタリヌとレイとともに豪華な馬車に乗り込んでいた。ただし、ルービスには手足に錠がついている。
「みんなはどうしたの? みんなは無事なの?」
この質問にはレイがバツの悪そうな顔をする。オクタリヌは少し顔を曇らせた。
「みんなというのはケディたちのことか?」
「そうよ、どこにいるの?」
ルービスは不自由な体を懸命に動かした。今にも馬車から落ちそうなルービスを片手で制してオクタリヌは答えた。
「無事に決まっている。一緒にカツタフォルネに向かっている。ケディ達の故郷だ。懐かしいだろう?」
「本当に無事なの?」
「もちろんだ。大切なルービスの仲間じゃないか。ルービスの仲間は私の仲間だ」
ルービスは信じていいものか悩んだ。なぜかレイを引き連れたオクタリヌがルービスの元に戻ってから、オクタリヌは上機嫌だ。まるでレイとも恋人のような振る舞いをしている。自分の素性、ケディ達の素性も知れてしまったようだが、自分の思っていた事態にはなっていない。
ただ、ケディやエクシーノ、レジアンの姿を見ていない。ルービスは心配で仕方がない。
「しかし、私も気が付くべきだった。・・・この美貌、お前こそがルービスだ。間違いない」
オクタリヌの言いようにルービスはずっと思っていた疑問をぶつけた。
「私を知っているの?」
「もちろんだ。ずっと会いたいと思っていた」
意外な答えが返ってきた。オクタリヌは本当に愛情のこもった温度のある瞳でルービスを見つめる。
「でも・・・どうして? なぜ知っているの? 私は国から出たことがなかったのに」
「ルービスこそ、どうして国から出て・・・あ・・・、まさか父親に会いに?」
オクタリヌの口から「父親」とい言葉を聞き、ルービスは食い入るようにオクタリヌを見つめた。
驚きでしばらく言葉が出てこなかった。
「・・・私の父を知っているの?」
ようやく質問した。オクタリヌの瞳がやや陰った。
「・・・知っているわよ。よく知ってる。・・・サーブ王国にいるわ」
「やっぱりサーブ王国に?」
ルービスは心がはち切れるくらいに喜びで苦しくなった。手足が自由ならオクタリヌに抱きつきたい。
「・・・謝らなければな。今は彼から離れてしまっている」
オクタリヌは喜びで満ち溢れるルービスから目を反らした。
「私の父親が、私の話をしていたの?」
そんなオクタリヌの様子に全く気付くことなくルービスは嬉々として質問を続けた。
「・・・そう。チュチタに自分の子どもを身ごもった妻を残してきていると」
「私の名前も? 私の名前は父親がつけたの?」
「ルービス」
オクタリヌはルービスを黙らせるためか、低くゆっくりとした口調で言った。ルービスは口を閉ざした。オクタリヌの美しい顔が憂いを湛えている。
「ルービスという名前はお前の父親そのものだ」
オクタリヌは愛おしそうにルービスを見た。
「われらの国のお前の父親の愛した花の名前だ」
「…われらの国?」
ルービスは耳を疑った。
「そう。われらの国の花の名前だ。お前の父親はそれを愛し、自分の印として自分の右腕にその花を刻んだ」
「われらの国って?」
ルービスの2度の質問にオクタリヌはゾッとするような美しい笑顔で答えた。
「・・・お前はおかしいと思ったことはないか? この島の人間と自分の違いに」
「・・・違い?」
「我々の美しさは異常だと思わないか? 我々のように美しく、強く、しかししなやかな人間がこの島にいるか?」
「・・・どういうこと?」
「武道における生まれながらに持ち合わせたセンスの違いを、肉体の、筋肉の働きの違いを感じたことはなかったか? お前はチュチタの国の男にも負けない武術を身に着けていただろう。そうだろう? おかしいとは思わなかったか?」
ルービスにはオクタリヌの言葉の意味が上手く頭に入ってこなかった。まったく考えもしなかった、しかし言われてみれば思い当たる指摘に混乱する。
「我々はこの島の人間ではない」
オクタリヌは続けた。
「我々の父は、新天地を求め遠い大陸からこの島にやってきた」
ルービスの混乱は頂点に達した。
「そして、ようやく今それを成し遂げようとしているのだ。我々が、この島を支配するこの時がやっと来たのだ」




