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高窓1つの薄暗い牢の中だというのに、その女が現れた途端、光が灯ったように明るくなった。
以前、ルービスにも感じた輝きがこの女にもあった。
「わたくしは、皆様の身の回りの世話をまかせられましたシバと申します」
美しく艶やかな黒髪をまとめ、白い肌と細い首がひときわ美しく見えた。下を俯いていても輝いて見える大きな瞳に、赤い唇。挨拶をしながら頭を下げた時に窺える胸元は豊満だ。
突然兵士と共にやってきたこの女の美しさにエクシーノ、レジアン、レイは呼吸も忘れ魅入っていた。
顔を上げたシバは優しい微笑みを湛えていた。満開の薔薇を思わせる気品のある華やかな笑顔だ。
「あなた方は、カツタフォルネでアムの暴挙から国を救った剣士とのこと。このたびの扱い、オクタリヌ様も後悔なさっておいでです。ぜひわが軍に入隊なされ、我々にお力添えをしていただきたく参りました。・・・先にお仲間の2人も待っております」
シバの言葉に3人は顔を見合わせた。シバの隣にいた兵士がシバに剣を2本渡す。
3人は明らかに顔色を変えた。それはケディとルービスの剣だった。
「ただ、あなた方がわたくしたちの思う人物であることに間違いがないことを確かめさせていただきたく思います。この剣の持ち主はお分かりですね? 一応あなた方の所持品からお2人にも同じ確認をさせていただいておりますが、念のため重ねて確認させていただきたいのです」
シバは再び深く頭を下げた。
「その剣は・・・」
レイが口を開くと、エクシーノがすばやくレイを制した。
「お待ちください! この剣の持ち主はいまどうしているのです? なぜここにこないのですか? お互いが確認すれば、それが一番のはずだ」
シバは涙を湛えた顔を上げた。あまりの美しさに言葉がつまってしまう。
「申し訳ありません。おっしゃるとおりです・・・。オクタリヌさまが皆様を迎えるために御馳走を用意されて・・・その前に身を清めたいと先に入浴されております」
「御馳走・・・」
レイは生唾を飲み込んだ。ここのところ実のないスープばかりでろくなものを与えられていない。聞いただけで腹の虫が騒ぎ出す。
「お仲間に確認を、ということでしたら出直します。わたくしが信用されないのも仕方ありませんね」
シバは悲しそうに立ち上がると、兵士がシバの肩を押さえるように再び座らせる。
「そんなに簡単に引き下がってはお前の評価がさがるぞ。良いのか、オクタリヌ様は仕事ができぬものは許さぬ」
兵士は小さな声でシバに忠告したが、もちろん3人にもしっかりと内容が聞こえた。
3人もカツタフォルネでオクタリヌの残忍さは聞き及んでいる。この美しい女がどのように処罰されるのか不安になる。
「ど・・・どうか確認を済ませ、わたくしと一緒に参ってはくださりませぬか・・・」
怯えたような震える声を出し、シバは3人を見上げた。
「その剣はケディのものだ」
エクシーノが答えた。レジアンとレイはぎょっとしてエクシーノを見る。
「私の名はエクシーノ。あなたの立場を考えここまでは話そう。もう一人の剣の持ち主と、この2人の素性についてはケディと会ってからにしてもらいたい。これが私の条件だ」
「ありがとうございます、エクシーノ様」
シバはふわりと立ち上がるとエクシーノに飛び込むように抱きつき、頬に口づけをした。軽やかな足の運びにエクシーノもまったく反応できずにシバにされるままになる。
シバの甘い香りが隣にいるレジアンにも届いた。レイもシバを見つめ唾を飲み込んだ。
「私は汚いです、あなたが汚れてしまう」
エクシーノは顔を赤くさせ、そっとシバの腕を支え体を離した。
「エクシーノ様、お優しい方ですね」
シバはエクシーノの胸元に手をおき、エクシーノに寄り添ったままレジアンとレイを見た。
「お2人は答えてはくださらないのですね」
レジアンとレイは大きく心が揺れた。ケディの名前を出し、エクシーノが仲間だと分かれば自分たちも名前が分からなくとも仲間であることはわかりきったことだ。ここで自分の名前を出さないことがなんになるというのだ。それに、自分たちは歓迎されているらしい。
(エクシーノ「様」!? 様だなんてつけられて、エクシーノのやつ、鼻の下伸ばしやがって)
レジアンはシバのような美しい女性を目の前にしてはにかんで頬を赤らめるエクシーノを純粋に羨ましく感じていた。そうされるのは、自分でもいいはずだった。
「エクシーノとケディの名前を出した以上、僕たちの名前を隠す意味はないでしょう」
レイがやや前のめりで口にした。どうやらレジアンと同じ気持ちのようだ。
「感謝いたします」
シバはまたふわりとレイの元に舞うように移動した。シバの後を追うように甘い香りが付いてくる。レイの頬にやわらかいシバの唇が触れた。香りも笑顔も薔薇の花のようだとレイは空腹も、いままでの辛い環境も忘れうっとりと目の前のシバを堪能する。
「私はレジアン、彼はレイだ」
たまらずレジアンがシバに告げた。シバはレジアンに振り向き、その手を取り口づけをした。
(なぜオレには手に口づけなんだ!)
レジアンはシバが自分の頬に口づけをしてこないことにショックを受けた。
(オレが最後だったからか? 遅かったからか?)
「レジアン様、もう一つの剣の持ち主は?」
シバが微笑みを浮かべながら尋ねた。
「それは・・・」
「だめだ! それはせめて無事を確認してからにしよう」
エクシーノがレジアンを制した。レジアンはエクシーノに対しイラつきながらも思いとどまり、シバの美しい手を見つめていた。まだ手は繋がれている。
シバがもう一つの手も重ねてきた。あ、と思いシバを見る。シバは懇願するような表情でレジアンを見つめている。なんでもしたいと思わせる表情だ。
「教えてくださらないの?」
「・・・その・・・そうしたいのは山々なのですが・・・やはり・・・」
レジアンがしどろもどろで答えていると、シバはレジアンの手を放り投げるようにして離した。その動作に3人がハッとする。
「お2人はわたくしを信用なさらないのですね」
シバは2人から遠ざかるようにレイの横に寄り添った。エクシーノとレジアンが何かを言いかけた時、兵士が持っていた棒を地面に叩きつけ、全員の注意を向けた。
「もう時間だ。オクタリヌ様がお待ちだ。付いてきなさい」
兵士が3人を促し歩き出す。エクシーノ、レジアン、レイとシバという順で歩き出した。
シバはレイの腕に自分の腕をからめ、体を摺り寄せた。胸がレイの腕に当たる。レイは軽く腕を外そうとしたが、シバが微笑むと、たどたどしく微笑み返しそのまま密着させたままにした。
「わたくし、あなたのそばにずっといたいわ。一目見た時からそう思っていましたの」
耳元でシバが囁く。ゾクゾクする。
「あなた付きになりたいわ」
シバの熱を帯びたような視線がレイの頭を痺れさせた。こんな風に女性に言い寄られるのも初めての経験であるし、なにしろ、絶世の美女だ。
「そのためにはオクタリヌ様を喜ばせなければ・・・教えてくださるでしょ?」
レイの顔に自分の顔を摺り寄せながら、シバは尚も懇願した。
「あ・・・そうだね・・・。彼女はルービスだよ」
レイは催眠術にでもかかったようにルービスの名前を口にした。
シバは立ち止まり、レイを見つめた。
「ルービス? イルメニでは・・な・・く・・・・」
シバの顔色が徐々に変わっていく。目を見開き、重要な何かを発見したような驚きと興奮を湛えた表情に変わる。
「ルービス、ですって?」
後ろの2人が立ち止まったことに気づき、先頭を歩いていた兵士が立ち止まって振り返り、エクシーノとレジアンも同じように遅れた2人を振り返った。
「あの娘がルービス・・・フフフッ」
シバは可笑しそうに笑い、シバの表情の変化に驚いて立ちつくしているレイに気づき、そのままレイを抱きしめると今度は口づけをした。されたレイも仰天しているが、エクシーノとレジアンも言葉を失って見つめた。
「おたわむれを、その位に・・・」
兵士がシバに向かって言った。
シバはようやくレイから唇を離し、妖艶な微笑みを浮かべレイをさらに自分のものにした。
「ご苦労であった、オクタリヌは満足している」
シバはレイの頬をやわらかくさすった。
「かわいい顔をしているな、お前を一目で気に入ったのは本当だ。いい子にしているのなら、そばに置いてやろう」
シバ、つまりオクタリヌは自分の望んだ情報を手に入れ、満足そうに笑った。




