蟠り
ルービスは馬にまたがって朝日を浴びていた。
朝早く宿を出たものの、ケディ達の宿がわからない。ルービスは早くから店を開いていた馬屋の亭主と世間話をして、馬の世話をし、ケディ達が現れるまでぶらぶらと待つことにしていた。
「ルービス、馬が欲しいのか?」
ケディの声がしてルービスは笑顔で振り向いた。みんなそろっている。すでに支度も整っているようだ。
「馬に乗っていれば目立つと思って」
ルービスは馬から飛び降りた。
「すぐに出発できる?」
「いや、無理だな」
ケディは男たちと顔を見合わせた。ルービスの笑顔が消える。みんな、怒っているようだ。
「・・・Dのことだね」
「いや、あんたのことだ。ルービス。・・・チュチタ出身なんだな?」
ルービスは出身を偽っていたことを思い出す。
「そう・・・そうなんだ。ごめん。嘘をついて」
「それはチュチタ国の紋章だ」
ケディはルービスの短剣を指した。
「オレ達だってばかじゃない、皆話していたよ、憶測ながらもな」
「いいかげん物事を知らなすぎるのがおかしいし」
レイも続ける。ルービスはいたたまれなくなって下を向いた。
「でもチュチタの女性が外に出られるなんて聞いたことがなかったから」
「でも王族なら」
ルービスは驚いて顔を上げる。みんな怒ったような顔をしてルービスを見ている。
「違うよ、王族なんて。そんなわけないじゃない」
「ルービス、あんたオレ達の事なんだと思っている?」
ケディが一歩、二歩と歩み寄ってくる。みんなの射るような視線にたじろぐ。この刺すような視線には見覚えがあった。初めてみんなと出会った時の視線だ。
「なにって、友だちでしょ」
ルービスはケディに気圧され身を小さくした。
「仲間だ、と思っていたが」
「同じことじゃないの?」
「同じことかもしれないがな、ルービス、オレ達の事を信頼できないのか?」
「信頼してるよ」
「なら教えてくれよ、一体何者なんだ」
「え? どういう意味?」
ルービスは眉をひそめた。
「夫というのはあの王子の事なんだろう?」
「・・・」
ルービスは微かに頷いた。ケディの表情は一向に優れない。
「・・・本当の目的はなんなんだ?」
「本当の目的って?」
「もう隠さないでくれよ!」
レジアンが声を荒げた。ルービスには訳が分からない。ただおろおろするだけだ。
「私は塔を目指している」
「チュチタの使者としてか? 同盟を結びに行くのか?」
「チュチタは関係ない。父親を捜しているって言ったじゃない」
エクシーノが前に進み出てきた。アムの件があってからお互いに距離を置いていたため、これほど近くに来るのは久しぶりだ。
エクシーノを見ると、アムの死に際を思い出してしまう。ルービスは思わずあとずさった。
「一緒に塔を目指すんだ、もしかしたら命を張ってな。少しは事情を話してくれたっていいだろう、オレ達はあんたの家来でもなんでもないんだ」
「家来って・・・みんな、もしかして私をお姫様かなにかだと思ってるの?」
ルービスは体を震わせた。
「もしかしてもなにも、お姫様なんだろう。ただの女がチュチタから出て旅をする? おいおい、いくらオレ達でもそんなことが可能か不可能かぐらいわかる」
ルービスは何も言えず男たちを見回した。どう言えばわかってもらえるのものか、途方にくれてしまう。もっと早くに話しておくべきだったのだと今になって後悔する。
「今まで話さなくてごめん」
ルービスはまずは詫びた。
「ど、どこから話せばいいのか・・・」
ルービスはしどろもどろに話し始めた。父親の事、パズバの事、そこで審査していたのが王子であったこと、そのために城に赴き味方を得たこと、ディーブとの約束、そして国外脱出。
みんなルービスの話に腰を折ることなく熱心に聞いていた。そして話し終えるとケディは頭の後ろで腕を組んで大あくびをした。
「なんだ、お姫様じゃないのか」
「信じてくれる?」
「あんたにゃあ、これだけの話創れないだろ」
ケディは歯を剥きだしにしてにやりと笑った。
「失礼な奴」
ルービスは仏頂面になりながらもホッとした。
「オレは、どこまでもついていってやるぜ。お前らはどうだ?」
ルービスがおそるおそるみんなを見回すと、全員がルービスに親指を突き出して見せた。
「守ってやるぜ、オレ達で」
「かすり傷一つ付けずに王子の元に送り届けてやんないとな!」
ルービスはキョトンとした。
「私・・・チュチタには戻らないよ」
「エエエエェエ??」
皆一斉に驚いて飛び退く。
「チュチタには戻れない。言ったでしょう、Dとの約束もそういう意味なんだ」
「どういう意味だよ? 結婚したんだろう?」
「だから結婚は・・・私たちの心の絆というか・・・」
ルービスは言いながら真っ赤になる。ケディ達はその真っ赤の意味がよくわからない。
「おおっぴらには結婚しないってのか? 父親と再会したあとも? ずっと?」
「もう2度とチュチタには戻らない。父と会えたら・・・マラハラ国にでも住もうかな」
寂しげな表情をするルービスを見てみな一様に消沈する。
「・・・一緒にカツタフォルネに来ればいいよ」
レイが真剣な表情で提案した。
皆も頷く。
「そうだよ、親父さんと一緒にカツタフォルネで暮らせばいい。そりゃあ、マラハラに比べたら文化は劣るがいい国だぜ。いや、いい国にしていこう」
「みんな・・・いいやつだね!」
ルービスは一人ずつ抱擁して回った。エクシーノの前で一瞬躊躇する。エクシーノも視線を外す。ルービスは一呼吸おいて抱きついた。エクシーノは嬉しそうな、ほっとしたような顔をしてルービスを抱きしめ返した。
「おい、エクシーノ、長いぞ」
周りから野次が飛んで2人はようやく離れた。エクシーノは照れ笑いをしている。




