結束
ポールカリアに入ってから2人の女性が合流した。男7人の中に女1人だったルービスは少しほっとしたが、ほどなくして2人のよそよそしい態度に戸惑うことになった。
2人はルービスが顔を隠している間は親しげに話しかけてきたり、今までの事を労ってくれてりと優しく接してくれたが、室内に入りルービスが素顔をさらすと、手の平を返したような反応を見せた。
「2人はルービスに嫉妬してるんだよ」
レイはなんとなく一人輪から外れてしまったルービスの横に擦り寄って囁いた。
「1人はケディを狙ってるし、1人はほら、剣の達人のエクシーノを狙ってる。ルービスがあんまり綺麗だから2人が夢中になってると思って嫉妬してるんだよ」
そう言われて見てみると、確かにリーと名乗ったそばかすの女性はケディにベッタリだし、ロドニーと名乗った黒髪の女性はエクシーのそばを離れない。
「恋、か。なるほどね。・・・でも恋している暇なんてないんじゃないの?」
すっかり落ち着いたルービスは、女性が入って華やかになった仲間たちの、少し浮ついた雰囲気を客観的に見つめた。
「恋心も利用できるんだよ」
レイのポツリと吐き出した言葉にルービスはぎょっとした。
「ぼくはしないよ?」
ルービスの表情に驚いて、レイが顔の前でぶんぶんと手を振った。
「あはは・・・大人なんだねえ」
ルービスは少なからず本気でレイの大人びた発言に感心していた。自分はあまり恋愛事情には詳しくない。そういうことに一喜一憂する時期は剣に打ちこみ、国外への夢に心躍らせていたからだ。恋は自分には無縁だ、そう思った途端、突然ディーブの顔が思い浮かんだ。すっかり昔の思い出に浸っていたが、つい最近、半月ほど濃厚な恋を経験していたのだ。最後に別れるときのお互いの告白を思いだし、久しぶりに心臓が潰れそうな動悸を覚える。
「あ、いま好きな人のこと思い出してる?」
突然顔を真っ赤にして身悶えるルービスを見て、レイがからかうように笑った。
「ルービスは恋人いるんだ?」
「わ・・・私は・・・」
すでに結婚している、と言いかけたが、かぶさる様にケディがルービスを呼んだ。
「ルービス、こっちに来てくれ!」
ケディたちはアムの本邸の詳細な見取り図を入手していた。それをもとに作戦会議が開かれた。
一番疑われることなくアムに近づくためには、前回のようにアムの方からルービスに近づいてもらうことだ。
そこで会議の結果、近々行われるポールカリアの祭りに行き、夜に行われる大広場での民衆が集まるダンス大会で人目を惹き、ふたたびアムの注目を集めることになった。うまくいけば、そのまま本邸へ連れて行かれることを期待する。
建築士であったケディは、本邸の建造にも関わっていたため、図面を見るまでもなく概要は頭に入っている。見取り図はあくまで最近の変更箇所を確かめる程度のものだった。ここに至るまで何年もかけて地下から本邸の方まで穴を掘り進めており、すでにもう仕上げの段階まできている。
ルービスが内から、他が外から一斉に攻撃をすることによって、打ち崩そうという作戦だ。
「ルービスは顔を見られているけど、ダンス用の化粧をしていたのよね。化粧は少し変えればまた違った印象にすることができるわ。髪の色も黒く染めれば大分印象は変わるはずよ。前回は真っ赤な露出も多いドレスだったのよね。今回は上品にまとめて印象を変えましょう」
ロドニーがルービスの全身を上から下まで眺めながらプランを話しはじめる。
「化粧とドレスの調達は任せて」
「ルービスは丸腰で本邸に入ることになる。安全を確保する方法をなにか考えなければ。そして、一斉攻撃のタイミングをなんらかの方法で外に取らなければならない。地下にいる我々にそれを伝える方法も必要だ」
エクシーノがあごに手をやりながら顔を曇らせた。それにケディが続く。
「どの部屋にルービスが連れて行かれるかはわからないが、配管を使って合図を使うことが可能だ。我々が掘り進めた出口の脇を配管が通っている。先にその配管を露出させておいて、合図を送り合うことが一番安全だろう。あまり頻回にすることはできないが、モールスを使おう」
「ルービスが身動きできなかったときのための制限時間を考えなければならないな」
「2時間だ」
ケディはルービスを見据えた。
「2時間ルービスからの合図がなければ、本邸の爆破攻撃に切り替えよう」
「2時間は早すぎる」
今度はルービスが力強く見返す。
「もっと私を信用して欲しい。うまく動くために情報をできるだけ取りたい。5時間もらいたい」
「5時間? 正気か? アムが本邸へ連れて行ったルービスをそのまま放置するとは思えない。すぐに行動に移すつもりでかからないと、引き返せなくなるぞ」
「私もあなたたちを守りたい」
ルービスは仲間を見回した。
「できるだけ危険の要因を減らしたい。許してほしい」
「あんたは丸腰なんだぞ?」
「剣がなくても大丈夫だ。私は負けない」
はったりであった。敵の巣の中に入って剣も無くどこまで自分が抵抗できるかはわからなかった。
「多少の犠牲を怖がっていては、大きな改革は望めない。この集団はそんな怖がり屋なの?」
自分に向けた言葉でもあった。はったりでもなんでも、今はこう言う他はないような気がした。
ケディが笑い出した。
「ルービスにそんなことを言われるなんて、参ったな。・・・よし、みんな! 新参者がここまで言っているんだ! 覚悟はあるな!」
オウッと力強い声が上がる。みんな顔を上気させて興奮している。
「盛り上がっているところ悪いが、リーダーは怖がり屋だ。祭りまであと5日、最後までより安全なプランを作るためあがくつもりだ。情報班、頼むぞ」
レイと元魚屋のレジアン、そしてリーとロドニーが力強く頷いた。
すっかり輪の中心になり皆と談笑するルービスを眺め、ケディは安堵した。ここに来る行程の中でも、ルービスの人柄を知るうちに、仲間は徐々に心を開いていっていた。そこに来てあの言葉だ。もう自分が心配することはないだろう。自分が結束を強固にしようと考えていたことが恥かしく思えるほど、ルービスは自ら仲間たちを惹きつけてしまった。




