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『大凶少年と邪悪な招き猫の絶対死なない大開運ロードムービー』  作者: 今日も今日とて黒猫さん


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第2話:大凶少年のステータスは、邪悪な猫の手によって招かれる

王都を出発して数日。


アルトと、彼のリュックの特等席に収まった『黒の招き猫』は、最初の交易都市であるレムの街に到着していた。


活気あふれる中央通りを歩きながら、アルトは背中に向かって嬉しそうに話しかける。


「すごい活気だね、黒猫様! 旅の軍資金を稼ぐためにも、まずはここで冒険者登録をしようと思うんだ。僕、頑張るよ!」


リュックの隙間から顔を出している漆黒の陶器──その内部で、妖精王ケット・シーの魂は激しい怒りに震えていた。


『気安く話しかけるな大凶モヤシめ! 我は貴様を呪い殺してその肉体を奪う機会を虎視眈々と狙っているのだ! 誰が貴様の「黒猫様」だ!』


どれだけ脳内で怒号を飛ばそうとも、外見はただの愛らしい黒の招き猫。

通りすがる旅人の少女たちが「見て、あのリュックの招き猫かわいい!」と指を差してくる。


『見るな愚民ども! 呪うぞ! 呪って末代までカタカタ言わせてやろうか!』


本人のプライドはズタズタだったが、自力では「カタカタ……」とすり足で動くのが限界の置物の体。アルトに運んでもらうしかないのが、最高に屈辱的であった。


(だが、好都合だ……! 冒険者ギルドといえば、登録の際に必ず魔力や才能を測定する『魔晶石』を使うはず……!)


ケット・シーは邪悪な笑みを浮かべた。

あの測定器の仕組みは知り尽くしている。アルトが石に手をかざす瞬間、自身の強大な呪いの魔力を送り込んでやればいい。そうすれば測定結果は【魔力値ゼロ・全属性不適性・おまけに特級の呪われ体質】という、前代未聞の『大無能ゴミステータス』を叩き出すはずだ。


(クハハ! ギルド中から無能と罵られ、冒険者の夢を絶たれて絶望しろ! 心がバキバキに折れた瞬間、今度こそその肉体を乗っ取ってくれるわ!)


そんな猫の王の暗黒の企みなど露知らず、アルトはギルドの重厚な扉を押し開けた。


──ギィィ、と扉が開く。

中は昼間から酒をあおる荒くれ冒険者たちで賑わっていた。

全身包帯まみれで、なぜか黒の招き猫の置物を大事そうに抱えた15歳の少年が入ってきたのを見て、酒場が一瞬静まり返り、次いで下卑た笑い声が響いた。


「おいおい、なんだあいつ? ミイラ男の仮装には早えぞ」

「ケガ人じゃねえか。ギルドじゃなくて教会へ行きな、モヤシっ子」

「いや待て、大事そうに猫の置物なんか抱えちゃってよぉ。ママにお留守番でも頼まれたか?」


ゲラゲラと下品に笑う男たちの視線が、アルトとリュックの招き猫に集まる。

アルトは生まれつきの不運体質のせいで、この手のからかいには慣れていたが、やはり少し身を縮めて歩を早めた。


『フン、よく言った愚民ども。もっと言え。このガキの心を木っ端微塵にしてやるのだ』


リュックの中でケット・シーだけが、荒くれ者たちのヤジを応援していた。

アルトは俯きがちにカウンターへと向かい、受付嬢の前に立つ。


「あ、あの……冒険者登録を、お願いします」


受付嬢は、包帯まみれの少年と、その背中でカタカタと微かに震える黒い猫の置物を交互に見て、困惑を隠せない引きつった笑みを浮かべた。


「こんにちは。……ええと、登録ですね? では、こちらの『魔晶石』に両手を置いて、魔力を込めてください。あなたのステータスが空中に投影されます」

差し出されたのは、拳大の青く輝く高価な水晶石。


『さあ、来たぞ! 絶望のカウントダウンだ!』


リュックの中でケット・シーが勝ち誇る。アルトは緊張で唾を飲み込み、両手を測定石へと伸ばした。


「……っ、お願いします!」


アルトの手が石に触れた、その瞬間。


『死ねぇい! 呪われし我が魔力よ、このガキを無能の奈落へ突き落とせーーー!!』


ケット・シーは体内の邪悪な暗黒エネルギーを一気に解放し、アルトの身体を通じて測定石へ送り込んだ!

と同時に、激しい魔力の反動で、置物の左手が「クイッ」と動いた(手招きした)。


──【黒の招き猫:大開運システム起動】

パチチチチッ!!!と黒の招き猫の表面から青白い火花が散る。

ケット・シーが放った「マイナス50」の凶悪な呪いの魔力が、招き猫の幸運反転エンジンを通過した結果、なんと「プラス500」の【純度100%の神聖な超魔力】へと強制変換されてしまったのだ!


ゴォォォォォォ!!!


「うわわっ!?!?」


アルトの手から、目を開けていられないほどの黄金の暴風が巻き起こる。

神聖な光の濁流が測定石へと流れ込み、石がビキビキと悲鳴を上げ始めた。


『な、何事だぁぁぁ!? なぜ我が呪いが、こんな神々しい光になって……!?』


パニックになるケット・シーを置き去りに、ギルドの天井へ向かって、規格外のステータス画面が巨大な光の文字で投影される。


【名前:アルト】

【魔力値:測定不能(SSS)】

【適性属性:全属性(神級)】

【加護:至高の神獣(黒猫)の寵愛】


「な、ななな……ッ!!」


受付嬢が椅子から転げ落ち、書類をぶちまけた。

酒場の荒くれ者たちも、全員が口を開けたまま硬直している。歴史上の英雄すら凌駕する、神話の時代のチートステータスがそこにあった。


しかし、招き猫エンジンから出力されたエネルギーは、ギルドの測定石が耐えられる限界を遥かに超えていた。


ビキッ、バリバリバリッ──


「あ、あれ!? 石が真っ赤になって……うわあああ!」


『ちょ、待て、これは不味い、衝撃に備え──』


パァァァァァン!!!!!

轟音と共に、ギルドの家宝である測定石が粉々に大爆発した。


激しい爆風がギルド中を吹き荒れ、アルトと周囲の冒険者たちは全員、顔面がすすで真っ黒になる。

静寂が、ギルドを支配した。

アルトは真っ黒になった顔で、ガタガタと震えながら涙目を浮かべる。


「ご、ごめんなさい……! 壊すつもりじゃなかったんです! 弁償します、だから怒らないで……!」


アルトが頭を抱えて縮こまった、その時。

奥の執務室の扉が勢いよく開き、威厳のある老人が飛び出してきた。この街のギルド長である。

ギルド長は粉々になった石の破片と、空中に残る光の文字の残滓を見て、全身を激しく震わせた。そして、猛然たるスピードでアルトに駆け寄り、その両手をガシッと握りしめたのだ。


「素晴らしい……! 素晴らしいぞ、少年!! 測定器を魔力過多で爆破するなど、建国以来の快挙だ! 君のような生ける伝説を、我がギルドは両手を挙げて歓迎する!!」


「え……? 怒られない、の……?」


呆然とするアルトに、受付嬢や周囲の荒くれ者たちも、一斉に手のひらを返して大歓声を上げた。


「おい見たかよ、魔力値SSSだってよ!」

「測定器を爆破するなんて、とんでもねえ化け物ルーキーが入ってきたぜ……!」

「さっきはおままごとだなんて言って悪かった! 兄貴、いや、大旦那と呼ばせてくだせえ!」


一瞬にしてギルドの神として崇拝され始めたアルト。

わけが分からずパニックになるアルトだったが、ハッと気がついた。


(……あ。石に触る直前、背中で黒猫様がカタカタって激しく動いた。それに、左手が上に向かって動いてた……!)


アルトの脳裏に、再び完璧な「勘違い」の電流が走る。


(そうか! 僕の不運体質のせいで、本来なら『魔力ゼロ』になってギルドを追い出されるところだったんだ。それを察した黒猫様が、ご自身の偉大な神の力を僕の身体に流して、僕を守ってくれたんだ……!)


「黒猫様……!」


アルトはリュックから黒の招き猫を取り出すと、煤だらけの顔で、再び涙を流しながらギュッと抱きしめた。


「やっぱりあなたは、僕を救ってくれる最高の神様だ! 測定器が爆発したのも、僕の代わりに黒猫様が怒ってくれたんだね……っ!」


抱きしめられた陶器の中で、ケット・シーは白目を剥いていた。


『違う……我はお前を無能にして社会的に抹殺しようとしただけだ……! なぜ国家転覆レベルのチート野郎を我が手で爆誕させている……! あと締め付けるな、まだ爆発の熱で陶器が熱いんだよ割れるわ!!』


「さあ神獣様を信奉する若き天才よ!」


ギルド長が、最高ランクの冒険者にしか発行されない『金色のギルドプレート』を恭しく差し出す。


「登録料は免除、さらに測定器の弁償など不要! 今日から君は、我がギルドが誇る特別待遇のゴールドクラス冒険者だ!」


「あ、ありがとうございます!」


アルトは満面の笑みでゴールドカードを受け取り、招き猫を高く掲げた。


「やったよ黒猫様! これでいっぱい依頼を受けて、あなたを元の姿に戻す手がかりを探せるよ!」


『もう嫌だこの大凶モヤシ……! 我の邪悪なプライドが粉々の石と一緒に爆散したわ……!!』


ギルド中からの惜しみない拍手と歓声の中、世界一邪悪な猫の王は、あまりの噛み合わなさに虚無の塊となり、カタカタと小さく震えることしかできないのだった。

(なぜだ……なぜ我が呪いが全てプラスに変換される……!)


――黒猫様の絶叫が響く中、アルトの珍道中は続きます。

皆様、評価やブクマでの応援、本当にありがとうございます!

その応援が、猫様の置物を割らない程度に励みになります。

引き続き、聖人として祭り上げられるアルトを見守ってやってください!

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