第6話
石田散薬の評判は、静かにだが確実に広がっていった。
最初は道場の門人。次にその家族。
やがて行商人が持ち出し、別の村へ。
「効く薬がある」
その一言は、何よりも強い。
「行くぞ」
朝、歳三は荷を背負っていた。
薬の包みがいくつも入っている。
沖田がそれを見て、顔をしかめる。
「歳さんが売るんですか?」
「当たり前だ」
即答。
「売りながら、見る」
「何をです?」
「全部だ」
短い言葉だが、その意味は広い。
「土地、道、人、噂、力のある奴」
「使えるかどうか」
沖田が小さく息を吐く。
「やっぱり、そう来ますよね」
歳三は振り返る。
「お前もだ」
「え?」
「行商、やれ」
歳三の言葉に沖田は明らかに嫌そうな顔をする。
「いやいやいや僕、そういうの向いてませんって」
「向いてる」
「なんでです?」
「顔だ」
即答だった。
「えっ?」
「人当たりがいい。警戒されねぇ」
沖田はしばらく黙り込む。
やがて――
「えっと‥師範代の仕事は?」
「合間でやれ」
「無茶言いますね」
「できる」
歳三の言葉に言い切られると逃げ道はない。
沖田は、諦めたように笑った。
「ハァ‥分かりましたよ」
それから数日後沖田は渋々、行商に出た。
当然最初はぎこちない。
値段交渉も下手。
だが――
「これ、本当に効くのかい?」
「ええ、僕が保証しますよ」
柔らかい笑顔で人の目を見て話す。
それだけで、相手の警戒が解ける。
「‥‥じゃあ、ひとつもらおうか」
売れた。たった一つだが、それで十分だった。
数をこなすうちに、変わっていく。
「その怪我、痛むでしょう?」
先に声をかけ、相手の状態を見る。
そして必要な量を勧める。
「無理にとは言いませんが……」
押しすぎない。引くところで引く。
「……うまいな」
常連になった行商人が、感心したように言う。
沖田は、少し照れたように笑う。
「慣れですよ」
だがその目は、もう“商売人”だった。
一方――近藤は道場に残った。
「構えが甘い!」
声が響く。木刀がぶつかる音。
門人たちは、確実に強くなっていた。
ただの農民ではない。
「戦える者」へと変わっていく。
(いずれ、使う)
歳三の言葉を、近藤は理解していた。
「今は鍛えろ」
近藤はそれだけに集中する。
夜、道場で三人が再び顔を揃える。
「どうだ」
近藤が問う。
土方は、短く答える。
「広がってる」
「道も、噂も」
沖田が笑う。
「僕もそこそこやれてますよ」
「最初はどうなるかと思いましたけど」
「顔がいいからな」
歳三が言う。
「まだ言いますかそれ」
笑いが漏れる。
だが空気は軽くない。
「人も見つけた」
土方が続ける。
「使えそうなのが何人かいる」
近藤の目が細くなる。
「引き込めるか?」
「金と力、両方見せりゃ動くかもしれねぇが、今は無理だな」
歳三の言葉に沖田も納得し
「仕方ないですね、今の僕たちには何の力もありませんから」
「そうだな、今はじっくりと力を蓄えるしかないか」
近藤も今は雌伏の時であると分かっているので、それ以上何も言わなかった。




