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第4話

夜、道場の奥の小さな灯りの下。


三人は、囲むように座っていた。


粗末な膳に見えるが、並んでいるのは炊きたての飯と野菜、干し魚。


「……悪くねぇな」


歳三が呟く。


沖田が笑う。


「村の人たちが持ってきてくれるんですよ」


「助けてもらったお礼、だそうで」


「礼か」


歳三は箸を止める。


「近藤さんらしいな」


向かいで、近藤が苦笑する。


「俺は何もしていないさ」


「最初に動いたのは総司だ」


「いやいや」


沖田が肩をすくめる。


「斬ったのは半分くらいですよ」


「残りは近藤さんです」


「半分で十分だろうが……」


呆れたように言う歳三。


だが、そのやり取りにどこか懐かしさが滲む。


しばらく、静かに食事が続く。


やがて――


「……で」


歳三が口を開く。


空気が少しだけ締まる。


「どこまで分かってる」


近藤が箸を置いた。


「時代は……おそらく天文か、弘治の頃だ」


「北条の勢力圏だな」


歳三は小さく頷く。


「戦は近いな」


「ええ」


沖田が続ける。


「行商人からも話は聞いてます」


「今は落ち着いてるようですが、いつまた火がつくか分からない状態です」


沈黙。三人とも同じことを考えている。


「……足軽から、やるか?」


近藤が静かに言う。


「やめとけ」


即答だった。土方は迷いなく言い切る。


「時間の無駄だ」


二人が視線を向ける。


「この時代の連中に混じっても、上に行くまでに何年かかる」


「その間に、潰されるのがオチだ」


冷静な判断。そして


「俺たちには、もっと早ぇやり方がある」


沖田が、少しだけ笑う。


「出ましたね。歳さんの合理主義」


「当たり前だ」


土方は懐から、小さな包みを取り出した。


布に包まれた、ある物。


「……それは?」


近藤が覗き込む。


土方は、静かに言った。


「石田散薬だ」


空気が、わずかに変わる。


沖田の目が細くなる。


「……ああ、あれですか。歳さんの“商売道具”」


「ただの薬じゃねぇ」


歳三は続ける。


「傷にも、腹にも効く」


「戦が近ぇ今、この手のもんはいくらでも売れる」


近藤が腕を組む。


「それで、材料は?」


「揃う」


即答。


「この辺りでも手に入るもんで代用できる」


「足りねぇ分は集めて作る。作り方は覚えている」


歳三の目は、すでに先を見据えている。


「まずは金だ」


低く言う。


「金がなきゃ、何もできねぇ」


「人も集まらねぇ」


沖田が頷く。


「確かに……道場だけじゃ限界がありますね」


「今は食えても、それだけです」


近藤は、ゆっくりと息を吐いた。


そして笑う。


「いいな」


その一言。


「戦う前に、土台を作るか」


「それが一番だ」


歳三が返す。


「その間に、情報も集める」


「戦の流れ、人の動き、使えそうな奴、全部だ」


沖田が口元を上げる。


「じゃあ――」


盃を持ち上げる。


「商売繁盛、ってことで」


近藤も盃を取り、歳三も静かにそれに倣う。


三つの盃が、軽く触れた。


小さな音。だが、それは確かに、始まりの音だった。



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