第3話
道場の空気が張り詰める。
立ち尽くす男――近藤勇。
若いが、その眼差しは変わらない。
「……歳、三」
もう一度、確かめるように名を呼ぶ。
歳三は、ゆっくりと歩み寄った。
足音がやけに大きく響く。
数歩の距離で互い止まり、互いに言葉が出ない。
周りから見れば僅かの時間ではあるが、2人にとっては長い時間が、そのままそこにあった。
やがて――近藤が、深く息を吐いた。
「……すまなかった」
唐突に、頭を下げる。
「お前を、置いていった」
静かな声。そしてその奥には、重い後悔が滲んでいる。
「何もできず……先に、終わった」
拳が、震えていた。
歳三は、しばらく何も言わなかった。
ただ、その姿を見ていた。
「……やめろ」
低く言う。
「らしくねぇ」
近藤が顔を上げる。
その目を、まっすぐに歳三を見据えたまま。
「謝るのは、俺の方だ」
一瞬の沈黙。
「新選組を……守れなかった」
歳三のその一言は、重かった。
歳三が言葉にした瞬間に空気が沈む。
「最後まで、抗ったが……」
拳を握る。
「全部、失った」
静かに言い切る。言い訳はない。
ただ、それだけが事実だった。
沖田が、息を呑む。
近藤はゆっくりと、首を振った。
「違う」
はっきりと。
「お前は、最後まで戦った」
一歩近づく。
「それでいい」
近藤の声には迷いがなかった。
「新選組は、お前がいたから最後まで“新選組”だったんだ」
歳三の目が、わずかに揺れる。
ほんの一瞬だけ。
「……」
近藤の言葉に言葉が出ない。
だがそれで十分だった。
近藤は、ふっと笑う。
周囲を見回す。
この道場にこの時代。
「もう一度、やり直せるな」
近藤の言葉に、空気が変わる。
沖田が、にやりと笑った。
「ですね」
木刀を肩に担ぐ。
「今度は、最後までやりましょうか」
土方は、ゆっくりと息を吐いた。
そして刀に手をかける。
「……言われなくても、そのつもりだ」
三人が並ぶ、かつてと同じように。
だが、今度は若返り強い。
「いくぞ」
近藤が構える。
その瞬間、空気が引き締まる。
沖田が動く。
歳三が応じる。
三つの剣が交差する。
乾いた音が何度も響く。
速さ、重さ、芯。
それぞれ違う剣が、ぶつかり合う。
だが不思議と、噛み合う。
「はは……!」
近藤が笑う。
「いいな、これだ!」
心の底から、楽しそうに。
沖田も笑う。
「やっぱり、この三人ですよ」
歳三は何も言わない。
だがその剣は、迷いがなかった。
打ち合いの中で、確かに感じていた。
(まだ終わってねぇ)
むしろ――ここからだと。




