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プロローグ3

明治二年五月十一日。


箱館で、最後の戦いの火蓋が切られた。


新政府軍による総攻撃——。


そして函館港を守る弁天台場はすでに新政府軍に包囲され孤立していた。

だがそこを守るのは、かつて京の都で共に戦い、土方を慕い付いて来た同志島田魁を含む新選組隊士。


「籠るのは性に合わねえ」


土方歳三は、静かにそう言い放った。


守るために戦うのではない。 


斬り開くために戦う。


それが——新選組副長の流儀だった。


「行くぞ」


僅かな兵を率い、歳三は弁天台場にいる島田らを救うべく出陣する。


一本木関門。


敗走してくる味方の兵を前に、歳三は怒号を飛ばした。


「止まるなァ!!前へ出ろ!!」


歳三と共に付いて来た陸軍奉行添役・大野右仲に命じ、崩れた隊列を叩き直す。


そして自らは、馬上にて前線へ。


七重浜から押し寄せる新政府軍。


銃声が響き、土煙が舞い上がる。


劣勢——誰の目にも明らかだった。


だが、歳三は退かない。


斬る!斬る!斬る!


迫る兵を次々と斬り捨て、その刃は止まることを知らない。


その殺気に優勢であるはずの新政府軍の兵たちが怯み歳三に近付こうとしない


一瞬、戦場に“隙”が生まれる。


その時だった。


歳三は、笑った。


腹の底から、戦場に響き渡るような高笑い。


「ハハハハハ!!見たかァ!!」


血に濡れた刀を掲げ、叫ぶ。


「新政府軍の兵どもよ!!日本広しと言えど、俺ほど戦って戦って戦い抜いた者がいるか!!」


馬上で堂々と胸を張るその姿は、もはや一個の武将そのものだった。


「京!大坂!関東!奥州!そして蝦夷!!」


「ここまで戦い尽くし人を斬った者は、この国広しと言えど——俺くらいのものだ!!」


 さらに声を張り上げる。


「信長や秀吉でもなァ!!ここまで自ら戦い斬り尽くしはしなかっただろうよ!!」


「たとえ薩長が天下を取ろうとも!!この事実だけは消えねえ!!」


その言葉は、誇りだった。


京・大阪では尊王攘夷派や討幕派の志士たちを斬り、そして新政府軍との戦いでも自ら陣頭に立ち、数多くの新政府軍の兵たちをこの手で葬ってきた。


これは決して敗者の叫びではない。


戦い続けた者だけが持つ、揺るぎない証であり誇り。


「そして——」


歳三は首に掛けていた浅葱色の旗を引きちぎるように掴み、掲げた。


「この旗こそ最強!!」


風を受け、浅葱色がはためく。


「新選組こそが——最強だァ!!」


その姿は、まさに鬼。


悪鬼羅刹と呼ばれた副長の魂の咆哮だった。


——その時。


恐怖に駆られた新政府軍の一人の兵が、震える手で銃を構えた。


引き金が引かれる。


乾いた音。


銃弾は——歳三の腹部を貫いた。


「……っ!」


だが、歳三は倒れない。


血を流しながらも、刀を構える。


「まだだァ……!!」


さらに一歩踏み込み


斬る!


一人、更にもう一人と。


残り力を振り絞って目の前にいる敵をひたすらに斬る。


だが次の瞬間に突然終焉を訪れた——力が抜け意識が無くなった。


馬上の身体がわずかに傾く。


それでも顔は前を向き、戦場を見据えたまま。


その瞳に宿る光は、最後まで消えなかった。


——土方歳三、戦死。


享年三十五と言われている。


しかし戦の後、いくら探してもその遺体は見つからなかった。


血に染まった戦場のどこにも。


浅葱色の旗も、鬼の副長の姿も。


まるで最初から、この世に存在しなかったかのように。


ただ一つ残ったのは、あの戦場で響いた誇り高き笑い声だけだった。


——そして、その魂は。


まだ終わってはいなかった。


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