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プロローグ2

畳の匂いが、やけに濃く感じられた。


江戸・千駄ヶ谷。

植木屋平五郎の家は、戦の喧騒とは無縁の、静かな時間に包まれている。


だがその静けさは、沖田総司にとってあまりにも残酷だった。


浅い呼吸を繰り返しながら、沖田は天井を見つめていた。 


指先に力を込めようとしても、思うように動かない。


かつてあれほど自在に振るった剣は、いまや遠い記憶の中にある。


「……情けないな」


かすれた声が、自嘲のように零れる。


庭の向こうで風が揺れ、木々が擦れる音がする。 


その音を聞くたびに、沖田の脳裏には別の光景が浮かんだ。


剣を構える近藤の背中。 


冷静に戦場を見渡す土方の横顔。


「……近藤さんや土方さんは、きっと今も戦ってる」


そう思うと、胸の奥が締めつけられる。


沖田は近藤が既に刑死していることは知らずにいた。


病床にいる沖田に心労を掛けたくない周りの配慮があり、沖田には近藤と土方が江戸を出て戦いの中にいると告げていたからだ。


本当なら、自分もそこにいるはずだった。 


隊の一番隊組長として先陣を切り、敵を斬り伏せているはずだった。


それなのに。


「俺は……何をやってるんだろうな」


握ろうとした手は、空を切る。 


そこに刀はない。


いや、あったとしても——もう握れない。


込み上げる悔しさに、沖田は目を閉じた。


もし——この身体が、もっと丈夫だったなら。 


病などに侵されることのない身体だったなら。


どれだけ斬れただろう。 


どれだけ戦えただろう。


どれだけ——役に立てただろう。


「……次が、あるなら」


ふと、そんな言葉が口をついて出た。


次などあるはずがないと、わかっている。 


それでも願わずにはいられなかった。


「次に生まれるなら……」


息が浅くなる。 


言葉が途切れ途切れになる。


「丈夫な……身体で……」


遠くで、誰かの声がした気がした。 


だが、それが誰なのかはもうわからない。


ただ一つだけ、はっきりと思い浮かぶ顔がある。


「……近藤さん……」


その名を呼ぶ声は、もうほとんど音にならなかった。


守りたかった。 


支えたかった。 


共に戦いたかった。


そのすべてを胸に残したまま——


沖田総司は、静かに息を引き取った。


享年二十七。


その瞳は、最期までどこか遠く、戦場を見つめているようだった。

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