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第25話

葛西城。


城門を抜け、北条の旗が次々と城内へ入ってくる。


「北条綱成様、御到着!」


その声とともに、城内の空気が変わった。


武蔵各地から集まった国衆や土豪たちが道を開ける。


その先頭を歩く男こそ、北条家中でも名高い勇将、北条綱成であった。


「地黄八幡様だ……」


「綱成様が来られたぞ」


やがて綱成は本丸へ入り、諸将を集めて軍議を開いた。


その中には、土方歳三と沖田総司の姿もあった。


近藤勇と木下藤吉郎は高幡城に残っている。


今回、葛西城へ来たのは土方と沖田、そして二百の兵である。


土方は軍議の席につきながら、周囲を見渡した。


先ほどまで自分たちを百姓上がりと侮っていた武士たちも、今は口を閉ざしている。


綱成が上座につく。


「では、軍議を始める」


綱成の家臣が地図を広げた。


「現在、里見義堯の軍勢が上総へ進出しております」


指が上総へ移る。


「恐らく里見の次の狙いは庁南武田氏。庁南武田が落ちれば、上総はどうなる?」


綱成が近くに居た部将に尋ねた。


「里見の支配下に入る可能性が高うございます」


「そして上総を押さえた里見が、次に目を向けるのは下総」


「そうだ」


武将の答えに綱成が頷く。


「下総へ進出されれば、古河公方にも影響が及ぶ」


土方は黙って地図を見る。


綱成が続けた。


「足利義氏公は、古河公方になられたばかりだ」


「しかも、義氏公の父君である足利晴氏公は、河越夜戦で我ら北条と戦っている」


室内が静まる。


「晴氏公は河越で敗れ、古河公方としての力を失った。命こそ助かったものの、長男の藤氏公は廃嫡。そして義氏公が新たな古河公方となった」


綱成は地図を指でなぞる。


「その義氏公を、我ら北条は保護している」


「だからこそ、里見の下総進出は看過できぬ」


一人の国衆が口を開いた。


「ならば、庁南武田氏に援軍を送り、里見軍をこれ以上の進出を諦めさせれば良いのでは?」


「向こうが、兵を引けば無理に追撃する必要はありますまい」


「里見を防ぐことができれば、それで目的は果たせます」


兵の損傷を嫌がる幾人の武将が頷いた。


それらの意見を土方は黙って聞いていた。


沖田も口を挟まない。


しばらくして、綱成が口を開いた。


「……防ぐだけでよい、と?」


「はい」


綱成は腕を組んだ。


「それでは、里見に主導権を渡すことになる」


「しかし、こちらから戦を仕掛ければ兵を失います」


「戦とは、兵を失わずに勝つものではない」


綱成の声が低くなる。


「必要な時に兵を使い、相手にこちらの力を知らしめるものだ」


室内が静まり返る。


「里見が上総へ攻め込んでいる今、我らが守るだけならば、里見はこう考える」


綱成が言った。


「北条は退く、と」


誰も口を開かなかった。


「それではならぬ」


綱成は地図の上総を指した。


「庁南武田氏を救い、そして里見軍を叩く」


一人の武将が驚いた顔をする。


「一戦を交えるおつもりですか?」


「無論だ」


綱成は即答した。


「里見に上総を好きにさせるつもりはない」


そして、葛西城に集まった諸将を見渡した。


「ここで北条の力を見せる」


その言葉に、土方の口元が僅かに上がった。


すると綱成の視線が土方へ向く。

「土方」


「はい」


「お前たちは二百を連れてきたと聞いている」


「その通りです」


「使えるか?」


土方は迷わず答えた。


「使えます」


「お主ら2人を除けば、百姓ばかりの兵だと聞いているが?」


周囲から、微かな笑い声が漏れた。


土方はそちらを見た。


「ええ」


「足軽として集めた百姓どもだろう?」


「そうです」


土方は否定しなかった。


「ですが――」


腰の刀へ手を添える。


「ただの足軽ではありませぬ。俺たちが鍛えた兵です」


沖田が静かに続ける。


「皆、戦う覚悟もできています」


綱成は二人をじっと見た。


「ならば、見せてもらおう」


土方の目が鋭くなる。


「戦場で?」


「そうだ」


綱成は笑った。


「お主たちが、どこまで戦えるのか、じっくり見させて貰う」


土方も笑った。


「それなら話は早い」


「何?」


「戦場で確かめてもらいます」


沖田が小さく笑う。


「土方さんらしいですね」


綱成は二人を見て、声を上げて笑った。


「ハハハ!気に入った」


そして軍議の全員へ告げる。


「出陣する!」


「里見軍をただ防ぐのではない!」


「こちらから一戦を仕掛ける!」


葛西城の外で、北条の兵たちが動き始めた。


土方たち二百の兵もまた、出陣の準備に入る。


その多くは百姓だった。


田畑を耕していた男たち。


家を継げず、足軽となった男たち。


しかし、土方と沖田の鍛錬を受けた彼らの顔には、他の足軽にはない緊張感があった。


土方はその兵たちを眺める。


「……いよいよだ」


沖田が隣に立った。


「ええ」


土方は北条の旗を見る。


「近藤さんが残っている高幡城を、こいつらに守ってもらってるんだ」


「はい」


「なら、俺たちがここで恥をかくわけにはいかねぇ」


沖田が笑う。


「土方さん」


「あ?」


「負けるつもりなんて、最初からないでしょう?」


土方はニヤリと笑った。


「あったら、こんなところまで来てねぇよ」


二人の前で、出陣の準備が整っていく。


百姓上がりと侮られた二百の兵。


そして、それを率いる土方と沖田。


彼らにとって、これが初めての本格的な戦場となる。


葛西城から、北条軍が動き始めた。

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