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第23話

天文二十一年(1552年)十一月


小田原城に、一人の急使が駆け込んできた。


「申し上げます!安房の里見義堯が、上総へ急襲!」


「真里谷家の当主・真里谷信政殿、ならびに叔父・真里谷信応殿が戦死!」


評定の間に緊張が走る。さらに急使は続けた。


「里見勢はそのまま進軍する構えを見せております!」


氏康は眉をひそめた。


相手は安房の里見氏、父北条氏綱の時からの宿敵。


これ以上、里見氏に上総で勢力を広げられれば、北条にとって看過できない事態となる。


「……放ってはおけぬな」


氏康はすぐに決断した。


「(北条)綱成に出陣を命じよ。上総へ兵を送り、里見勢の進出を食い止める」


「はっ!」


だが、氏康はもう一つのことを考えていた。


近頃、北条家中でも存在感を増している近藤勇たちである。


氏康は綱成を呼び止めた。


「待て、綱成」


「はっ」


「近藤にも兵を出させる」


綱成が少し意外そうな顔をする。


「近藤殿にも、でございますか」


「ああ」


氏康は頷いた。


「先の太田資正の一件で、あの者らは我らの期待に応えてみせた」


「だが、領地を持ち、兵を抱える者として、戦場でどこまで通用するのかはまだ分からぬ」


氏康は綱成を真っ直ぐ見る。


「そなたには、近藤、あるいは代理で来るかもしれない土方らの働きを見極めてもらいたい」


「武勇だけではない。兵をどう動かすのか、敵を前にして、どのような判断をするのかをそれを見て参れ」


綱成は深く頭を下げた。


「承知いたしました」


こうして北条氏康は、里見義堯への対処と同時に、近藤らの軍事的な力量を見極める機会を得たのである。


その報は、ほどなくして高幡城にも届いた。


近藤、土方、沖田、そして木下藤吉郎秀吉が集まり、評定が始まる。


使者が氏康からの命を伝える。


「北条氏康様より、上総への出兵を命じられました」


近藤は迷わなかった。


「承知した」


土方も頷く。


「北条からの命令なら、応じるまでだ」


現在、高幡城が常備している兵は三百。


以前の農民剣士の集団から考えれば、大きく成長していた。


近藤は地図を広げる。


「全軍を動かす必要はないが、留守を守る兵も必要だ」


土方が兵数を確認する。


「二百なら出せる」


沖田も頷いた。


「三百のうち二百。残り百は城と領内の守りですね。」


藤吉郎も口を挟む。


「それがよろしいでしょう。今は戦だけでなく、石田散薬の生産や商売も止めるわけにはいきません」


近藤は三人を見る。


「よし。出兵する兵は二百」


そして誰を指揮官にするか。


その答えは、すぐに決まった。


「歳」


「はい」


「お前が一隊を率いろ」


続いて近藤は沖田を見る。


「沖田」


「はい」


「お前も行け」


沖田は一瞬驚いたものの、すぐに笑った。


「分かりました」


こうして、上総へ向かう二百の兵を、土方と沖田が率いることになった。


土方は静かに地図を見つめる。


「……初めての大きな戦になるな」


沖田は刀を手に取りながら笑う。


「新選組の時とは違って、今度は自分たちの兵です」


土方も口元を僅かに上げた。


「ああ、だからこそ負けるわけにはいかねぇ」


近藤は二人を見つめる。


「歳、総司必ず生きて帰ってこい。これは命令だ」


土方と沖田は同時に頭を下げた。


「承知しました」


こうして、高幡城から二百の兵が上総へ向けて出陣することとなった。


そして彼らを待ち受けるのは、安房里見氏との本格的な戦いであった。

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