第12話
夜明けとともに、高幡城には誠の旗印が掲げられた。
夜襲による高幡城奪取は成功し、城主は一族とともに退去を選び、近藤らは流血を最小限に抑えて本拠地を手に入れた。
この一報は瞬く間に武蔵国中へ広がっていく。
その日、土方歳三は使者を伴い、三田氏の居城へ向かった。
面会したのは、当主・三田綱秀である。
綱秀は歳三の姿を見るなり、静かに口を開いた。
「……まさか、本当にやるとはな」
歳三は一礼する。
「お約束どおり、高幡城は我らの手に入りました」
綱秀は思わず苦笑した。
「儂は仲裁は引き受けたが、ここまで早く事が運ぶとは思わなんだ」
歳三は落ち着いた口調で答える。
「時間をかければ大石方は兵を集めます。こちらは兵力で劣ります。勝機は今しかありませんでした」
綱秀は深く頷く。
「見事な判断だ」
しばらく考え込むと、綱秀は静かに言った。
「安心せよ。約束どおり、大石との仲裁は儂が引き受ける」
「感謝いたします」
歳三は深く頭を下げた。
綱秀はその姿を見ながら心の中で思う。
(この男……武勇だけではない。先を読む目を持っておる。近藤という男が羨ましいものよ)
その頃、大石氏の居城。
家臣が血相を変えて広間へ駆け込んできた。
「ご注進!」
「高幡城が落ちました!」
当主・大石綱周は立ち上がった。
「何だと!」
家臣は息を整えながら報告する。
「昨夜、百人ほどの兵が夜襲を仕掛け、高幡城は陥落いたしました!」
「城主は命を助けられ、一族とともに退去しております」
綱周は険しい表情で問いかける。
「敵は何者だ」
「近藤と名乗る一団とのことですが、詳細は判明しておりませぬ」
「石田散薬を売っていた者たちか……」
綱周は腕を組む。
さらに家臣が続ける。
「城主は生け捕りにされた後、切腹か退去かを選ばされ、退去を選んだとのことです」
「また、城や兵糧への乱取りもほとんど無く、領民にも危害は加えておりません」
綱周は驚きを隠せなかった。
(ただの野盗ではない……何者なのだ、近藤という男は)
そこへさらに使者が現れる。
「三田綱秀殿より使者が参っております」
綱周は眉をひそめた。
「三田だと……?」
予想もしなかった名に、広間は静まり返った。
一方、高幡城では近藤・土方・沖田の三人が次の一手を話し合っていた。
「大石は必ず動く」
近藤が静かに言う。
歳三は頷いた。
「だからこそ、北条に敵意がないことを先に示します」
沖田が首を傾げる。
「どうするんです?」
歳三は答えた。
「金剛寺だ。高幡不動尊として知られるあの寺は北条家との縁も深い」
「まずは石田散薬を寄進し、領民のために役立ててもらう」
近藤も賛同する
「民のための薬であることを示せば、我らの志も伝わる」
沖田は笑顔で頷いた。
「戦だけじゃなく、人の心も味方につけるんですね」
数日後、近藤らは金剛寺を訪れ、多くの石田散薬を寄進した。
住職はその志に深く感謝し、こう語った。
「民を思う心こそ、真の武士の道」
近藤は静かに頭を下げる。
「我らは、この地を豊かにしたいだけです」
この寄進はやがて金剛寺を通じて北条家にも伝わり、近藤らの名は武勇だけでなく、「民を思う新たな国人」として少しずつ知られていくことになる。




