第11話
闇の中、百の影が静かに動く。
標的となっている高幡城は、近藤たちの動きにまだ気づいていない。
灯りはそのままで見張りの動きも緩い。
城兵たちの動きを見て歳三は一言、兵たちに
「‥‥行くぞ」
と言った次の瞬間、歳三は動いた。
最初に斬り込んだのは歳三で、その後に兵たちも続く。
そして歳三は兵たちに
「三人一組で崩せ」
と低い号令を掛けると兵たちは、城兵らに一気に間合いを詰める。
これを見た城兵が応援を呼ぼうと大声を上げようとするも
「敵――」
言い終わる前に、城兵の首が飛んだ。
歳三の無駄がない動きに恐怖が瞬時に広がる。
「な、何だ!?」
城内がざわめくが遅い。すでに城内に入られている。
別方向では沖田隊が動く。
「火は使うなよ」
軽い声。だが、その目は鋭い。
「混乱させて、逃がすな」
走る。速い。影のように。
敵の背後に回り込み、次々と倒していく。
「どこだ!?」
「こっちだ!」
敵は翻弄されている。
どのような敵なのか、そして人相手の数や敵がどのように配置されているのが全く掴めず、恐怖だけが増していく。
正面。近藤隊。
「前へ!」
声が響く。乱れない。崩れない。
一歩ずつ、確実に押し込む。
農民だったはずの男たちが“隊”として動いている。
「止まるな!」
「押せ!」
近藤の声に兵たちも応える。
恐怖よりも、前へ出る意思。それが戦を変える
城内は、完全に混乱していた。
夜襲。想定外の出来事に城方は統制が取れない。
「持ち場へ戻れ!」
何とか体勢を変えようと城方の武士が叫ぶが既に遅い。
要所は抑えられ、やがて城主の間の扉が蹴破られる。
「……ここか」
歳三が入る。その後ろに、近藤と沖田と三人が揃う。
そこにいたのは城主と、重臣たち。
そして――
「あの時の……」
使者の男で既に顔が強張っている。
一瞬の沈黙。短いが重い時間。
歳三が前に出る。
「終わりだ」
一言を告げると城主が歯を食いしばる。
「‥‥卑怯な」
「戦だ」
歳三は城主の言葉を即答で論破。
「勝った方が正しい」
それ以上の言葉はない。
近藤が口を開く。
「選べ」
静かに。だが、重い声。
「切腹か――」
「城を出るか」
近藤の言葉に空気が凍る。
重臣たちがざわめくが城主は黙って考える。
そしてゆっくりと顔を上げた。
「‥‥退く」
城主は何とか絞り出すような声を出して城から退去することを認め
「家族と、この者たちの命を保証しろ」
城主は先程よりは力強い声を出すと
近藤が頷く。
「いいだろう」
即答だったが、使者の男が叫ぶ。
「待て!それで済む話では――」
と男が言葉を言い続けようとしたが、沖田が静かに首元へ刃を当てる。
「静かに」
顔は笑っているが、言葉は冷たい。
沖田を見て男は黙った。
夜明け前、城門が開く。
城主とその一族、重臣たちが城を去る。
恨めしく城を見る者、悔しくて頭を下げている者などいるが敗者はただ静かに去るのみ。
やがて、城方の者が視界から消えると静寂が訪れる。
城は、近藤たちにより完全に掌握された。
歳三が城内を見渡す。
「‥‥取ったな」
近藤が頷く。
「ああ」
沖田が伸びをする。
「思ったより楽でしたね」
だが、誰も油断はしていない。
これは、始まりだ。
近藤が、静かに言う。
「ここを、本拠にする」
異論はない。
歳三も頷く。
「ちょうどいい」
沖田が笑う。
「道場より広いですしね」
三人が並ぶ。
城の上から、朝日を見る。
光が差し込む。
新しい一日。
そして新しい時代の始まり。
「……ここからだ」
歳三が言う。そして
「全部、取り返す」
誰に向けた言葉でもない。
だが近藤も沖田も頷く。
高幡城。
それは、ただの城ではない。
新選組が戦国で“旗”を上げた場所だった。




