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第10話

使者は、しばらくして再び現れた。


道場の空気が、張り詰める。


「返答を聞きに来た」


使者の男はぶっきらぼうな声で前回よりも、明らかに圧が強い。


近藤が座すとその左右に歳三と沖田。


三人が揃って会うのは、これが初めてだった。


使者の視線が動く。そして歳三のところで視線で止まる。


「‥‥お前か」


使者の男は何かを感じ取ったような目だが、話を進める


「商売をするなら、後ろ盾は必要だ」


「大石の名を使えば、やりやすくなる」


静かな圧力。だが


「いらねぇな」


歳三が即座に言い切る。


部屋の空気が凍り、使者の眉が動く。


「‥‥何?」


「後ろ盾なんざ、弱い奴が欲しがるもんだ」


歳三は相手の視線を逸らさない。


「俺たちは違う」


完全な拒絶。


近藤も静かに頷く。


「その通りだ」


沖田は笑っているが、目は笑っていない。


三人の態度を見て、そして


「‥‥愚かだな」


使者が怒りを抑え、立ち上がる。


「後悔するぞ」


「させてみろ」


歳三の一言。


これで終わった。交渉は決裂した。


使者が去った直後。


「集めろ」


歳三が言う。


近藤が頷く。


「一刻以内だ」


門人たちが走る。


村へ、畑へ。人を呼び戻す。


日が傾く頃。


百ほどの男たちが、道場に集まっていた。


ざわめき、緊張期待。


近藤が前に立ち、静かに周りを見渡す。


「これより戦だ」


近藤の一言で、空気が変わる。


「相手は大石」


門人たちのざわめきが止まる。


「だが、恐れるな」


近藤の声が更に響く。


「俺たちは逃げない」


「ならば、勝てる」


単純だが強い言葉。


門人たちの目が変わる。


沖田が前に出る。


「陣を分けます」


軽い口調だが、内容は的確。


「三隊」


「近藤さん、歳さん、僕」


指を立てる。


「それぞれに振り分けます」


「あと――」


少しだけ笑う。


「三人一組で動いてください」


「勝手に動いたら死にます」


冗談のようで、冗談ではないので誰も反論しない


歳三が、最後に言う。


「夜襲だ」


「今から出る。明日になれば向こうも動く」


「そうなりゃ、数で負ける」


冷静な判断。


「だから――今叩く」


目標は一つ。


「高幡城」


その名が落ちる。


近くには寺があり、後に“高幡不動”と呼ばれる場所で近藤・土方の碑や土方の銅像がある。


だが今はただの静かな土地。


そのすぐ傍にある城。


山城とはいえ、険しくはない。


そして何より


(油断している)


歳三は確信していた。


戦いの準備が進む。


胴丸。小手。脛当て。


さらに――鎖帷子。


「必ず着ろ」


歳三が言う。


「死にたくなきゃな」


軽口はなく、歳三の言葉に全員が従う。


一方、三人は違う。


鎖帷子と最小限の防具のみ。


兜も鎧も着けない。


「動きが鈍る」


それだけの理由だが、それで十分だった。


近藤が、ふと呟く。


「‥‥旗は無しか」


少しだけ残念そうに。


沖田が笑う。


「夜襲ですからね。目立ちますよ」


歳三は何も言わない。


だがその気持ちは分かっていた。


夜、闇が落ちる。風が止む。


「‥‥行くぞ」


歳三の声に静かに、そして全員が動き出す。


足音を殺す。息を潜める。


百の影が、闇に溶ける。


高幡城に近づく


その灯りが、遠くに見える。


油断した灯り。守られていると思い込んでいる光。


「‥‥叩く」


歳三が呟く。


それは宣言だった。


戦が――始まる。

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