一緒に見る景色、心の距離
翌朝、スマホの通知音で目を覚ました。
夏海からだ。
「おはよう、みおちゃん。今日、ちゃんと起きられた?」
画面の向こうの声が、頭の中でそのまま響くようだ。
慌てて返事を打つ。
「うん、ちゃんと起きたよ」
返事を送るとすぐに、夏海から笑顔のスタンプが返ってきた。
それだけで、ボクの心はじんわり温かくなる。
約束の時間に、駅で待ち合わせ。
夏海はもう来ていて、傘を手にボクを見つけると、ぱっと笑った。
「みおちゃん、遅れないでよ」
軽く叱られたみたいな口調なのに、どこか甘くて、胸がドキッとする。
ボクは思わず笑い返した。
「ごめんごめん、ちゃんと来たでしょ?」
「うん、来たね。よかった」
夏海の言い方も表情も、いつもと変わらない。
なのに、ボクの心はいつもより早く鼓動している。
二人で歩き出すと、空気は少しひんやりしていて、雨上がりの匂いが混ざる。
「ねぇ、みおちゃん。この景色、きれいだと思わない?」
夏海は目の前の公園を指差す。
木々の緑に光る雨の雫が、まるで宝石のように輝いている。
「うん……きれいだね」
でもボクの視線は、夏海の方に何度も向いてしまう。
自然体の彼女が、すごく近くて、甘くて、心を掴む。
「私、こういう景色、みおちゃんと見るのが好き」
その言葉に、胸がぎゅっとなる。
友達として、って言うけど、どうしてこんなに心に刺さるんだろう。
「……ボクも、みおちゃんと一緒だと楽しい」
思わず口に出してしまう。
声を聞いた夏海は、ふふっと笑った。
「そっか。嬉しいな、みおちゃんがそう言ってくれると」
距離が近くて、声も温かくて、雨上がりの空気が甘く溶けるみたいだった。
ベンチに座って、傘を半分だけさして二人並ぶ。
手は触れていないのに、確かに何かが伝わる距離。
「ねぇ、みおちゃん。今日はいっぱい歩くけど、疲れたら言ってね」
「うん、大丈夫だよ。夏海と一緒なら、どこまでも行けそう」
夏海の目が少し細くなり、柔らかく笑った。
その笑顔に、ボクは胸が熱くなる。
片思いじゃないみたいで、でもやっぱりボクだけが好きな気持ちを抱えている。
この距離感が、甘くて切なくて、心地よい。
「さ、次はあそこに行こうか、みおちゃん」
「うん、楽しみだ」
二人で見る景色も、声も、すれ違いの甘さも。
今日という一日が、まるごと胸に染み込んでいく。
ボクの心は、夏海でいっぱいだ。
片思いのままでも、今はそれで十分――そんな風に思えた。




