夕焼けの約束、揺れる思い
夕方、空は茜色に染まり、雨上がりの街を柔らかく照らしていた。
夏海と並んで歩くと、普段なら気づかない街の匂いまで鮮明に感じる。
「みおちゃん、あのカフェ見たことある?」
夏海は小さく笑って、指さす先には小さなカフェがある。
「行ってみたいな」と思うより先に、ボクはもう夏海の手元に意識が向いていた。
「うん、行ったことないよ。楽しみだな」
笑顔で答えると、夏海も満足そうに笑う。
その笑顔が自然すぎて、胸がぎゅっとなる。
店に入ると、二人だけのテーブル席に案内された。
窓の外にはまだ雨の名残が光って、なんだか特別な空間に感じる。
「みおちゃん、ここ落ち着くでしょ?私、この雰囲気好きなの」
「うん、すごく……落ち着く」
その言葉に、夏海は少しだけ顔を傾けて、やわらかく微笑む。
ボクの心臓は、そっとリズムを速めた。
「ねぇ、みおちゃん。今日一日、どうだった?」
「……楽しかった。夏海と一緒だから、ずっと楽しかった」
心からそう思う。
でも口に出すと、夏海はちょっと意外そうに目を見開いた。
「そう言ってくれると、私も嬉しいな」
その声の柔らかさ、距離感。
片思いのはずなのに、まるで両思いのように感じてしまう。
「みおちゃん、明日も一緒に出かけようね」
「うん、楽しみだよ」
笑顔を交わすだけで、胸が甘くしびれる。
心の奥で、ボクは小さな声で呟く。
──好きだ、夏海のことが、すごく好きだ。
でも言わない。
言えない。
夏海は無自覚だから、きっとボクの気持ちには気づいていない。
カフェを出る頃、夕焼けが街を赤く染める。
夏海はそっとボクの傘を自分の傘と並べた。
「ほら、みおちゃん、濡れないでしょ?」
「うん……ありがとう」
その距離、笑顔、手元の傘。
全部が甘くて、切なくて、胸がいっぱいになる。
「ねぇ、約束ね。明日も一緒に楽しい一日にしようね、みおちゃん」
「うん、約束だ」
夕焼けの光の中、ボクは心の中で誓う。
明日も、夏海と一緒にいられるように――胸いっぱいの想いを抱えたまま。




