雨の帰り道、すれ違う気持ち
スタジオを出る頃には、外は小雨が降り出していた。
傘を差す間も惜しいくらい、心臓がずっと高鳴っている。
「みおちゃん、傘ある?」
夏海の声に振り向くと、さっと自分の傘を差し出してくれる。
その距離感が、優しくて、甘くて、やっぱり苦しい。
「ありがとう……」
受け取ると、夏海はにっこり笑った。
「濡れると風邪ひいちゃうからね。私、心配だから」
その“心配してくれる”のが、まるで告白のように胸を締め付ける。
でも夏海の表情には、恋の意図なんて微塵もない。
「……でも、みおちゃん、なんかいつもより元気ないね」
雨に濡れた髪の端を、夏海は気にするように指で払う。
近すぎて、息づかいまで届きそうだ。
「別に……大丈夫だよ」
うまく言えない。
心はドキドキしてるのに、口から出るのはつまらない言葉だけ。
「本当に? じゃあ、明日も一緒に出かけて、リフレッシュしようよ」
その提案に、胸がぎゅっとなる。
友達として、って言うけど、心臓が勝手に期待してしまう。
「……うん、楽しみにしてる」
つい、素直に返事してしまう自分がいる。
でも心の奥では、これがどういう意味なのか分かっている。
夏海は傘を少し傾けて、ボクに寄せる。
「ほら、濡れないでしょ?」
雨の匂いと、夏海の香りが混ざる。
その瞬間、ボクは頭の中で一度叫んだ。
──好きだ、って言えたらどれだけ楽だろう。
でも口には出さない。
夏海は無自覚だから、きっとボクの胸の内なんて分からない。
二人並んで歩く帰り道。
雨音と足音だけが、距離を包む。
「……みおちゃん、明日、楽しみだね」
「うん……楽しみだ」
ほんの少しだけ、笑みを交わす。
それだけで、今日の甘さと切なさが心に残る。
両思いに見えるけど、実は片思い。
ボクの胸の奥で、好きと憧れがぐちゃぐちゃに絡まっている。
雨の中、傘越しに夏海を見上げる。
この距離が、ずっと続けばいいのに――
でも、きっと明日も、ボクの胸は甘く締め付けられる。




