互いにリスペクトすること、これホント大事
キヤはよくやってくれていると思う。あちらの世界の再現品を創意工夫でこちらの世界に再現し、そして製造販売権をハナツキ爺さんに売る。けどキヤは金勘定は苦手のようだ。製図の数字の調整やミリ単位の加工は得意なくせに。だから私がいる。
初めて会ったときは一発で同郷だと確信できた。なんというか、どこかこの世界に馴染めていないような雰囲気。でも表面上はそれを全く感じさせない振る舞い。ちょいちょいボケては他の人を笑わせようとしているが、そのネタは元居た世界でないと通じないと思う。図太いのだろうか? と思っていたが違ったようだ。
キヤが仲良くなったというおばあちゃんが亡くなった時、キヤは見ていられないくらいに憔悴した。こういうのも何だが、他人が死んでここまで憔悴するものだろうか? キヤに病人食のスープを渡しに部屋に入ったとき、キヤは語ってくれた。そしてふと思った。私はキヤのことを何も知らないと。
結論から言えば、キヤはカラ元気だっただけだった。不安に見えないように、不安にならないようにやせ我慢していただけだったのだ。異世界に来て不安で弱った私をさらに不安にさせないために。
キヤはこちらに来る前に親代わりの祖父母を立て続けに亡くしていたらしい。キヤと共に生きるはずだった親から愛情を貰えず、拠り所は祖父母のみの幼少時。そんな二人にせめてもの恩返しをするために計画していた手製の車いす製作計画。だがそれは計画を始動寸前の段階で祖父母が亡くなった。あのおばあちゃんに祖父母を重ねていたのだ。
「長く使ってもらえるように、長く生きていろんなものを見てほしくて、丈夫に作ったのに」
そう呟いてキヤは泣き崩れた。キヤの背中をさすりながらサツキは自分の余裕のなさに気付く。キヤが他人のことを思って行動してくれている間に、私は彼を思って行動しただろうかと。同郷であり誰よりも近くあったはずの私は、キヤに何も返せてはいないのではないのだろうかと。
キヤが寝た後部屋を出、リビングでお茶を飲む。他のメンバーはもう自分の部屋に引っ込んだようだ。少しボーっとしながら入れたせいか、ものすごく苦かった。これから眠るというのに目が冴えてしまうような濃さのお茶を顔をしかめながら飲んでいると、ふと誰かがリビングに入ってくる音が背後からした。明かりが一瞬遮られたのでゴルドワーフだろう。
「こんばんは。眠れないの?」
「ちょっと眼が冴えちゃって、お茶飲んでました。ちょっと失敗だったかも」
「そうね、ホットミルクのほうが向いてるわね。まぁ淹れちゃったものは仕方ないけど。明日飲んでもよかったんじゃない?」
「あ……もう飲んじゃったんで飲み切っちゃいます。一杯だけだし」
「そっか」
ふと、沈黙が訪れる。割と長いこと一緒に過ごしてきたので今更沈黙が気まずいというのもないはずだが、今だけはなんだか気まずいサツキだった。会話の口火を切ったのはゴルドワーフだった。
「ねぇサツキちゃん」
「なんですか?」
「サツキちゃんだって甘えてもいいのよ?」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「今のサツキちゃんなんだか思いつめてるみたい。キヤちゃんもだけど、まだ二人とも甘えてもいい年ごろなんだからもっとアタシ達に頼ってもいいのよ?」
「何言ってるんですか、今だって十分に甘えて……」
「細かいことはいいの。それともアタシは頼りないかしら? 話すだけでもラクになるわよ」
「いえ、むしろ頼りになりすぎてるといいますか……(ガタイ的な意味で)」
「しっかりしてる子こそちゃんと支えてあげなきゃいけないわ。特にサツキちゃんみたいに抱え込んじゃうタイプはね。このオネェさんに話してみなさい?」
圧がすごかった。観念したサツキは自分の中に溜まった鬱屈とした感情を少しずつ吐き出していく。最初はポロポロ程度だった言葉が徐々に流れるように口から出てきて、最終的に堰を切ったように止まらなくなってしまった。泣きしぎて喋れなくなったサツキの頭をゴルドワーフのゴツい手が優しく撫ぜる。
「大丈夫、サツキちゃんは貴方自身が思っているよりもずっと誰かを思っているわ。ワタシの着てるエプロンなんかカタくて大きいせいでスゴくお洗濯し辛いのに、毎日洗ってくれてるじゃない。サツキちゃんのおかげでワタシ清々しい気分で過ごせて毎日が楽しいの。ヤグルちゃんたちの分のお洗濯だってそう、年頃のマーシュンちゃんのはちゃんと分けて洗っていたりね。
さらに毎日のご飯。毎日考えるのも大変なのに毎回違う手の込んだメニューが出るなんて、これ以上のゼイタクはないわ。これだけでも十分すぎるのに、この工房の経理までやってくれて。
正直キヤちゃんも報いるために必死なんだと思うわ。さっちゃんがいないときに高級品である砂糖をツテで安く買えるようにハナツキ会頭に必死に交渉してたの見ちゃったの。なんでか問い詰めたら、『さっちゃんのお菓子がウマいのもあるけど、まぁ一番はさっちゃんが楽しそうにお菓子作ってるんで。多分趣味なんでしょうねぇ。散々お世話されてるんだし、報いなきゃ漢じゃねぇんで。あ、これさっちゃんにはヒミツでオナシャス!!』 ですって。あらヤダ、今のは聞かなかったことにしてくれる?
ともかく。サツキちゃんが当たり前にやってくれていることはワタシたちにとって本当に感謝しかない、ありがたいことなのよ。毎日ありがとうね」
キヤからの無言の感謝を聞いてしまったサツキ。サツキは決意した、そっちがその気ならこっちも無言で感謝を返すとしよう。押しかけた身なのに自分の居場所を作ってくれて、毎日余裕をもって暮らせるお金を稼ぎ、酷いことも理不尽もせずリスペクトをもって接してくれる彼に。これからも美味しいご飯と快適な生活環境、そしてお望みの美味しいお菓子を提供しようと。
さっちゃんだって年頃で思い悩むことだってあるのです。当たり前だけど。皆さんはちゃんと感謝できてますでしょうか? ありがとうの一言や、ちょっとだけの手伝いだって、やる側からすれば本当に助かることが多いのです。いずれ永遠に言えなくなる感謝や態度、今やっておくに越したことはありませんよ?




