作っちゃダメなら旅行しな
新章のプロローグです。
「キヤ、お前には一旦新しいものを発明するのをやめてもらいたい」
「…………第三部、完! ……………ウソダドンドコドーーーーーーーーーン!!!!!」
久しぶりに登場のハナツキ爺さんから言われた宣告にミイラのようにカサカサに干からびてしまったキヤ。幽鬼のようにフラフラとソファから立ち上がり、部屋の隅の丸椅子に座り真っ白に燃え尽きてしまった
「燃え尽きた……燃え尽きたよ……」
「懐かしいのぅー、影響されてワシもボクシングかじったことがあったわ。違う、落ち着かんかキヤ! 一旦、や。一旦、ここ大事な」
「詳しく聞こうか」
瞬時にキヤは再起動した。復活するタイプのボスよりも速い復帰である。
「つまり、新しいものが一気に出来すぎて生産やら手続きやらが間に合ってないと」
「そうや。ただでさえキヤの作った再現品はこの世界のモンとは一線を画しとる。ヘンな模造品が出回って儲け……もとい、粗悪品が出回るのは商会としては許せることやない。特許が出来てからはある程度マシになったんやけど、それでも抜け穴はアホほどある」
「例えるなら田舎の雨降って泥まみれの道をランボルギーニで爆走する感じですか」
「合っとるようで合ってないような……まぁええわ。この機会に社員旅行でもやったらどうや? 溜め込んどるんやろ? え?」
爺さんが手をカネの形にしながら腹立つ顔でニヤニヤする。ふとキヤは考える、そういえば社員である皆にあまり功績を還元できていなかったように思う。精々が給料やボーナスに反映されるくらいだ。それでも工房メンバーの待遇はこの世界の生活基準からしたら凄まじく恵まれているものだが……
金とは溜め込むものではない、使うことで経済を回すためのものだ。今回は社員の慰安と言う形で社員と社会に貢献するとしよう
「イイっすね、ソレ。ということでハナツキさん、なんかいい場所に心当たり無いッスか?」
「こんなこともあろうかと社員旅行のプランを持って来とったんや」
「おいテメェジジィ、狙ってやったな? 毛根絶滅させて文字通り不毛の頭皮にしてやろうか」
「このクソガキ、わずかに残ったワシのオアシスを砂漠にする気か!」
「何がオアシスだオアシスに謝れ、面積水たまり以下のくせによォ!」
「このアホガキ!! ハゲろ!!」
「悪いがウチの家系にハゲはいな……クソッタレジジイハゲろ!!」
「その反応心当たりあるんやな!! ざまぁ!! あとワシはもうハゲとるわ!!」
「自分で言ってて悲しくねぇのか」
「……………」
「ごめんてじいちゃん、ほら、さっちゃん特製のおせんべやで。じいちゃんが製造してる醤油使ってるやつやで。ウマいで」
「ワシが製造監修しとるんやから当たり前や……」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
その日のお昼、オヤツタイムにて。キヤとサツキがお茶と煎餅で優勝していた。
「そういうことになった」
「そういうことになったじゃないよこのアホ社長、なんで副社長である私抜きで話進めたの? 報連相はしっかりって再三言ったよね? 返答によっては強く殴るとやや強く殴るにわかれるんだけど? ァ?」
さっちゃんの拳が光って唸る。アホ社長をシバけと輝き叫ぶ。大魔王からは逃げられない。右? 左? いいえ、オラオラです。
「どっちにしろviolenceは避けられないのね……あの時さっちゃんオンさんとこにお菓子作りに行ってたじゃない、ハナツキじいちゃんもたまたま立ち寄っただけみたいだし。社長としてはさ、やっぱ福利厚生をおろそかには出来ないなって」
「腹立つけど一理ある、か。で? ハナツキさんから貰った旅行プランってやつは?」
「なんだかんだ気になってるさっちゃんカワイイっすねwwww」
「邪ッッ!!」
「ITEッッ!?」
「はよ言え」
一撃入れられたところを撫で擦りながらキヤはハナツキは置いていった紙を取り出し読み上げる。
「え~~っと……隣国のフクィーカツ、だって。隣国っつってもフクィーカツは端っこの方で、俺らの居る王都から割と近いみたい。で、馬車の行き帰りで大体二日、一泊するなら弾丸旅行だとしても最低三日くらい見てくれって話だったな」
「あの食えないじいさんがオススメするってことは、なにか旅行の目玉になるものがあるの?」
「喜べ、温泉がある!! そして新鮮な魚がある!! 肉もあるぞ!!」
「OK,社員会議よ」
「行動はえーなオイ、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。よく見たらこの紙、ハナツキ商会傘下の宿の割引チケットまでついてら。あの爺さんマジで食えねぇな」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
そして晩御飯が終わり一息ついたところでキヤが旅行について切り出した。工房始まって以来の大イベントにマーシュンが一気にハイテンションになる
「旅行、ですか。色々と忙しくて行ったことありませんでしたね」
「ホント?! 旅行なんてお貴族様くらいしか行けないと思ってた……スゴイスゴイ!! さすがシャチョー! 変態! 唐変木!」
「HAHAHAマーシュン、それは賛辞ではない、罵倒と言うのだよ、俺のメンタルが死んだらどうする。オイクソアニキ、妹の情操教育どうなってんだシバくぞ」
「マーシュンは世界一かわいいから許される。これは世界の真理だ」
「なるほど、アニキのアタマがイってた訳ね、後で表出ろや、テメェの脳天にネジをネジネジしてやる」
視線だけでドンパチやらかしそうだった馬鹿二人をサツキの神之手が沈めた。戦いとはいつだって虚しいものである。そしてその結果両者共倒れとなればなおさら。平和が一番。ラブアンドピースである。
「いいわねぇ、フクィーカツ。一度湯治に行ったことがあったけど、懐かしいわ~。新鮮なお魚と山の幸がとても美味しかったのを覚えてるわ」
「お魚が食べられるの?! なんで?!」
「それはですねマーシュン」
不思議そうなマーシュンにカレンが解説を入れる。この国、そして周辺国もだが基本的には内陸だ。だがフクィーカツの領地内には大きな塩の湖があるのだ。どうやら地下深くで海と繋がっているとかなんとか。さらに近くには地熱により水脈が温泉となり地上に湧き出ている。旅行に行く場所としてこれ以上向いている場所はあるまい
結果、工房メンバー全員が社員旅行に賛成ということで話がついた。キヤとマーソウは次の日さっちゃんを見ると反射的にビクッとしていた。
この章のヒント。ダイ〇ゾーン




