(法を)作って学ぼ!
「俺が来たぞ!!!」
歯車鍛冶工房大規模実験場の休憩所にその男は現れた。扉の前に仁王立ちするその男の名はギルガメス・ゴルディー・ジーバングル。キヤの人生のターニングポイントであるおばあちゃんことベルマアンナ・ゴルディー・ジーバングル皇后陛下の孫であり、皆様がお察しの通りこの国の王太子である。豪放磊落にして頭もキレ、賢王としての片鱗が既に滲み出ている二十四歳である。なお未婚だ
「お、ギルガメスさんいらっしゃーい。時間通りッスね」
「王たるものたがえては、たがえてはならぬ約束はわきまえているからな! 特に自分に身になるものについては大事にせねば」
「前に開講二時間前に来てダベってたらパーシヴァルさんにしこたま怒られましたもんね……」
「反省はしている、後悔はしておらん。だがもうヤツを怒らせようとは思わんな……あの時あ奴に殴られた脳天がまだ痺れているような気さえする……」
キヤと軽く会話を交わしながら休憩所の机に座るギルガメス。彼がここに来たのは勉強の為である。そう、魔動バイクの運転免許の勉強会だ。ギルガメスがプロトタイプ魔動バイクのお披露目に出くわしてから数週間、彼は当たり前のように魔動バイクに惹かれた。空き時間を見つけては城を抜け出し実験場にやってきてバイクの事を聞くものだから、パーシヴァルも根負けして一先ず気が済むまでバイクに関わらせることにしたのである。仕事もちゃんとしているものだから始末が悪い。
キヤとしては実働実験が完了し安全性が確保されていれば問題なかったのでギルガメスのバイク免許の講師を買って出た。というかキヤにしかできないことだが。キヤがこちらに来た時の荷物の中にバイク免許講習の教科書が入っていたのが幸いした。この時ばかりは荷物整理していなくてよかったとキヤは思っていた。ちなみに講習用バイクは小型中型大型と揃っていて、公衆用の防具はプロテクターとして薄い金属製の鎧を使用している。
余談だがギルガメス本人のお墨付きということで講習中、というか工房に来ている間は無礼講ということになっている。最初こそ王家の威光に委縮しまくりだったキヤだが、何度も会いこうして講習を受け持つことで緊張は消えある程度砕けた対応が出来るようになった。慣れとは怖いものである
そうして始まったバイク講習だが、もちろんこの世界でバイクの法律なんてものはない。なのでギルガメスとキヤで新たに法律のベースとなるもの、基本的なルールを考えていくものとなっている。
「この世界での法律……当たり前ですけど魔動バイクについての法はないので、基本的なことは
人の多い所では運転しない、移動の際はバイクを押して移動させる
常に周囲に気を配り可能な限り接触事故を避ける
早めのブレーキを心がける
人の気配を感じた時はすぐにスピードを緩める
緊急発進は極力避ける
その日の自分のコンディションや天気、走るコースの状況を見極める
……こんな感じになりますかね」
「そうだな、おおよそ馬に乗るときと変わらんだろう。いずれこのバイクが出回る時までに法を整備しておかねばな」
「差し当たって馬とか馬車についての法を整備したほうがいいのでは? 身近な物からベースを作っておけば受け入れやすいと思いますし。一昨日も王都の外で馬車同士の接触事故があってトラブったって聞きましたよ」
「ほう、それはいいな、戻ったら検討するとしよう。お前は頭も切れるのだな。いや、今までお前が作った様々なモノ……それを鑑みれば当然か」
「発明に使う頭と政に使う頭は違うと思いますけどね、HAHAHA! こう言っちゃなんですけど、身内以外で一番最初にバイクを知ったのが法に強いギルガメスさんでよかったですよ」
「こちらとしても間に入るものが居ないのは助かるな。なんせ虚実誇張が一切ないのがいい! こうして直接俺が学ぶことで法も作りやすいし、間に入ろうとするものは大抵どこかしらで妨害や中間マージンを取るものだ」
「あー絶対ありますよねそういうの。お、もうこんな時間か。さて、次は実技行きましょうか」
「俺は大型に乗りたいぞ!」
「いいですけど、大丈夫ですか? 他よりも重さや大きさの関係で扱いづらいんでケガなんてしたらまたパーシヴァルさんが……」
「む、むぅ……次の講習でパーシヴァルを連れてくる、その時に大型についてのことは詰めるとしよう。今日は中型をやる」
「了解ッス」
二人は席を立ちバイク格納庫へと向かった。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
今日の魔動バイクの実技が終わり二人は小休止していた。今まで無言を貫いていたギルガメスの護衛の人がお茶を淹れてくれ、キヤはサツキから貰ってきたオヤツを供した。無論毒見済みである。ここは王城や格式ばったことは必要ない場所なので二人ともリラックスした様子で休憩を楽しんでいる
「そういえばキヤ、お前の工房でよく見かけるようになった金髪の女だが」
「え? ウチの金髪っつったら……カレンのコトっすかね?」
「カレンというのか。そうだ、その女だ。あの女元貴族だろう? それも外国の貴族だ」
キヤの背中にジワリと冷や汗が伝う。なにかマズいことでもあったのだろうか? カレンの話を聞いた限りこの国とカレンの故郷とは特に確執もなかったはずだが。こういうガチの案件はいつものようなコントのようなリアクションが取れないためキヤは石になったように固まる。
「ははは、そう警戒するな、俺があの女に何かしようという訳ではない。いやなに、少し引っかかる噂話を聞いてな」
「……それは一市民である俺が聞いていいヤツですか?」
「一市民ではなく、あの娘の保護者としては聞いておくべきことだろう」
「詳しく聞きましょう」
キヤの覚悟を決めた目を見てギルガメスは満足し話を伝える。それはキヤにとって、そしてカレンにとって凶報だった
「隣国で貴族令嬢と婚約破棄し廃嫡された元王太子が、軟禁されていた辺境から脱獄。この国に潜伏しているそうだ。婚約破棄した貴族令嬢は追放され死んだとされているが、奴らはどこかで生きていると妄信し探し回っているらしい。その貴族令嬢が居れば自分たちはもう一度王太子として返り咲けると思っているようだ。
これは不確定な情報だが、付近の盗賊を買収して徐々に勢力を拡大しているようでな。トラブルを持ち込まれては困るので俺たちも密偵を放って探ってはいるが、どうやら相手に魔法使いがいるようでなかなか尻尾を出さん。もし奴らが捜している貴族令嬢がお前の所の女なら気を付けておけ」
しれっとギルガメスとおばあちゃんの本名が出てきましたね。そして迫るざま……もとい不穏な空気




