幕間~隻腕の鬼神が掴む腕~
幕間シリーズ(続くかどうかは不明)ギルバ編です。多分ちょいちょい続きます。一回お休みしたのでちょっと長めです
「ミリィ! 今日からお前はクビだ」
「そ、そんな……」
冒険者ギルドで事件があった。とある新鋭の期待されているパーティがパーティメンバーの支援術師の少女を追放しているのだ。冒険者がクエストに出かけている時間帯の為周りに人は少なく、そのパーティを除いてウトウトしているギルドの受付嬢と隅のベンチに寝転がって昼寝している男しかいない。
「なんで、ボクを追放するの?! 今までちゃんと皆のために……」
「お前の支援術は弱すぎる。さらに事あるごとに俺たちの足を引っ張りクエストの邪魔をしてきたじゃないか」
「お前がちょこまか動き回るから目障りでしょうがなかったぜ」
「ごめんね~、でもリーダーのいうことだしぃ~?」
ニヤニヤと反吐の出るような表情で支援術師を嗤う剣士と重戦士の男。そしてありったけの侮蔑を込めた目線で支援術師を見る派手な化粧と衣装に身を包む女回復術師。自分に味方がいないことを悟った支援術師はショックから俯いてしまう。その反応にさらに付け上がったパーティのリーダーはさらに笑みを深める
「そういうことでお前は追放だ、とっとと出ていけ。お前の今までの報酬は迷惑料として受け取ってやる!」
「そんな、それじゃボクはこれからどうやって生きろっていうの?!」
「お前は顔はいいからな、俺たちにカラダでも売ればいいだろ?」
あまりのことに絶句する支援術師。その絶望の表情を見てさらに付け上がるゲスパーティ。だがふいにパーティたちの笑顔が曇る。支援術師の少女の背後から大きな影が差した
「お前、雑務は得意か?」
突然支援術師の背後から現れたのは青髪オールバックの大男だった。若干まだ寝ぼけ眼の彼は乱暴に頭を掻きあくびをかます。流石にゲスパーティも予想外だったのか少女共に固まっている。あくびが収まった大男は再度少女に問いかける
「雑務は得意かと聞いている。旅支度、料理などが主だ。もっと言えば俺にできない細かい雑事だな。その辺りは追々説明するが、どうだ」
「えっと、多分できます……」
自信なさげに応える少女。幸いこの少女はゲスパーティからそういった雑事を押し付けられ酷使されていた為得意になってしまっていた。怪我の功名とでも言うべきなのだろうか?
「そうか。ならお前、俺と組め。報酬はクエストの報酬金の三分の二だ。そこには雑務にかかる諸費用も含まれている。他に条件はあるか?」
「え、いいんですか?!」
少女は驚愕に目を大きく見開いた。破格も破格の条件だ、さらに男の口ぶりからさらに交渉次第で条件を増やせるというまさに夢のような条件。
「どうせ金など余っている、俺と組むというならそこの受付嬢に契約の書類を発行してもらえ。ちゃんと義務を果たすならお前をそこの奴らのようにぞんざいに扱ったりはせん」
無意識なのか、ゲスパーティを自然に煽る大男。それにカチンと来たのかゲスパーティの面々が立ち上がる
「オイオイオイオイ、横からしゃしゃり出てきて何言ってくれてんだテメェ? 調子乗ってるとブッ殺すぞ?」
「いい年こいたオッサンがウゼェんだよ殺すぞ?」
「自分の事カッコいいとかカン違いしてない? ドン引きなんだけど~!」
嘲笑と殺意で応戦するゲスパーティだが大男はどこ吹く風で平然としている。嘲りと嘲笑の嵐にも平然と耐える大男に少女は希望を見出した。そしてありったけの決意を持って大男の提案に乗る
「どうする? 考える時間が必要なら待つが」
「……わかりました、ボクを貴方のパーティーに入れてください!!」
「わかった。では行こう」
結局大男はゲスパーティを一瞥もせずに少女を引き抜いた。だがそうは問屋が許さないとゲスパーティが全員武器を持って立ち上がる。通常ギルド内での争いは処分モノなのだが、不穏な空気を感じ取った臆病な受付嬢は奥へと引っ込んでしまい誰も止める者はいない。
「何勝手に話進めてんだよ殺すぞ?!」
「俺たちはこのギルド一の冒険者パーティ『絶剣の刃』だぞ? そんな態度でこのギルドでやっていけると思ってんのか?」
「ちょっとオッサン調子乗りすぎ。死ねば?」
そんな恐ろしい罵声が大男に降り注いでいるのを受付嬢は奥の部屋でビクビクしながら聞いていた。ヘタすれば自分にとばっちりが来てしまう、彼女の行動は褒められたものではないが一触即発となったこの場においては一応は正しい判断と言える。今ギルド内に居る者で彼女だけはその大男の正体を知っていたから
「……まさか本気で俺を殺すつもりか? そんな粗悪な鉄の棒と手袋に毛が生えたような武器で?」
恐れや恐怖、というより呆れや困惑が浮かんだ目で絶剣を見る大男。その一言が引き金となった。ここに来てやっと空気が変わったのを感じたのか、大男は支援術師を自分の背後に押しやる。その行動がさらに絶剣の神経を逆なでした
「「「死ねぇ!!!!」」」
剣士は全力の兜割を、重戦士はハルバードを全力で振りかぶって繰り出す叩き下ろしを、そして回復術師は棘付きのメイスをブン回して。普通ならたった一人に使う技ではないし、そもそもここは建物内だ、常識知らずにもほどがある。これは立派な殺人事件だ。
相手がその大男でなければ。
「な、ウソだろ……」
「あ、ありえねぇ!!」
「そんな……アンタなんなのよ?!」
大男は殺意の籠った攻撃を全て左腕で受け止めていた。メイスは摑み取り、剣とハルバードは腕に食い込んだまま止まっている。刹那、回復術師のメイスがミシリと音を立てて砕け散った。そして大男が無造作に剣とハルバードが食い込んだままの左腕を振ると、剣は刺さったところから砕け、ハルバードは柄の中ほどで折れた
「お前らマジメにやれ。つまらんぞ」
呆れたような声色で男が呟く。そして斬りつけられたところから破けて落ちてしまった袖を見て、次に支援術師を見る。そして切り落とされてしまった袖を拾い支援術師に投げ渡す。袖から見えていたのは生身の肌ではなく、もっと黒く重い光沢を放つもの。そう、彼は義手だったのだ。
「お前、裁縫は出来るか?」
「え、は、はい」
「後でこれを直してくれ」
「はい……」
支援術師はもしかして自分はとんでもない人に拾われたのではと思った。大体あっている。大男が腕を振ると金属製の義手が今度は木製と思われる質感に変化した。そしておもむろに吹き飛ばされ尻餅をついた絶剣のリーダーに近寄り、義手で彼の右肩を掴み持ち上げる。あまりの握力と恐怖で情けない悲鳴を上げながら空中でもがくリーダー。その姿はまるで捕まった虫のように無様で
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!??」
「本来ならどうでもいいんだが、これもケジメだ」
ばきゅり! カルシウム質のものが砕ける音と湿った音が混じった音がギルド内に響く。ぼとりと落とされたリーダーの右肩は粉砕され右腕はだらんとだらしなくぶら下がっていた。力の入らなくなった手先からポタポタと血が落ちる。あまりの激痛に右肩を抑えて悶えるリーダー。その様子を見た重戦士は尻餅をついたままカン高い悲鳴を上げてずりずりと後退する。ついでに股から臭う液体を垂れ流しながら
「ひ、ヒィィィ?!?!」
「お前もだ。殺しに来たのなら殺される覚悟もあるのだろう」
大男はずかずかと後ずさりする重戦士に近寄り、そのまま彼の右足の膝を鎧ごと勢いよく踏み砕いた。鎧の膝当てがひしゃげ、凸だったものが皿のような凹んだ形になってしまった。当然その下にあった膝はマトモな状態では残っていないだろう、潰れたところから赤黒い水たまりがどんどん広がっていく
「安心しろ、手足一本無くなったくらいで人間は死なん」
あくまで無感情に、淡々とゲスパーティを粛清していく大男。回復術師は大男に恐れおののきつつも起死回生の一手を狙う。つまりは自分の女としての武器を使う。自分が助かるにはこれしかない、今までもそうやって生きてきた。ただ悲しいかな、大男に小細工は効かなかった。小細工どころか大細工も平気で踏みつぶす巨神なのだが
淡々と自分の方へ歩を進める大男に回復術師は胸元を緩め、上目遣いで媚びる
「わ、悪かったよお兄さん……ね、私だけは見逃してくれない? その代わり、イイコトしてあげるから! いっぱいサービスするからさ! どう? 悪いハナシじゃないでしょう?」
「……いいだろう、見逃してやる」
大男から帰ってきたのは回復術師の思った通りの言葉だった。だが次の彼が発した言葉に表情が固まる
「その代わり俺に代わってそこの二人を殺せ。サービスはいらん、見逃す条件はそれのみだ」
冒険者ギルドのど真ん中で殺人教唆である。確かに冒険者ギルド内では荒くれが集まるがゆえに『殺すぞ!』『死ね!』『野郎ブッ殺してやる!!』など物騒な言葉は日常茶飯事ではあるが、明らかに冗談の通じない男が殺すというとさすがにヤバい。何より彼の目と雰囲気がガチであることを物語っている。
「どうした、見逃してほしいんだろう」
「……本当に、コイツらを殺せば許してくれるんだね?」
回復術師は床に転がっている折れた剣を拾い両手で持ち、ゆっくりと痛みに悶える剣士へと歩み寄る。痛みで意識を失いかけている剣士の前に立つと、折れた剣を両手で逆手に持ち、そして
「そこまでだ」
振り下ろそうとした折れた剣が止められた。他ならぬ大男の手によって。回復術師の手の上から更に大きな彼の手が包み込んでいる。場違いながら大男の手のぬくもりに回復術師は少しだけ乙女心を刺激される
「こいつらを殺せと言ったな。アレはウソだ」
折れた剣を握る手ごと横へとズラされる。自然と回復術師と大男の目が合う。その瞬間好きだと気付くとでも思ったのか?
「ところで見逃すと言ったな。アレもウソだ」
そして回復術師の剣を握る手が大男によって柄ごと握り潰された。女から出たとは思えぬ、喉の奥から出た絶叫がギルド内に響いた。
ギルドの床に転がり悶える三人にギルバは懐からビンを三つ取り出し雑に彼らにぶちまけた。すると彼らのケガが徐々に治っていく。重傷を一瞬で治すこの効能の高さ、低級冒険者では手に入らないであろう上級ポーションだろう。男は躊躇いもなく三つも使った。支援術師ミリィはその度量に感服する
「いいんですか? それって上級ポーションですよね?」
「俺にケンカを売った度胸を買ったまでだ。身の程知らずモノ知らずとはいえその蛮勇を俺は称える。だからこそこの程度で済ませた。ヒマも潰せたし何より貴重な雑用係を手に入れられた」
ミリィはその言葉に思わず後ずさる。冒険者として、人として立っている場所が違いすぎる。そしてふと彼女の脳裏にあるウワサが過った。
「片腕を無くし引退したある上級冒険者が、最近復帰して活動を再開した……もしかして」
大柄なものが多い冒険者の中でも彼は特に大柄で、蒼い髪を後ろへ撫で付け、その怪力はゴブリンを一撃で殴り倒す。一度暴れ出せば誰にも止められない鬼神。無くした腕を異形に変え、新たな巨剣を携えて。
「隻腕の鬼神……青鬼、怪腕、青の凶王……あなたはもしかして」
「他人が勝手につけたあだ名だ」
鬼神ことギルバ・は淡々と答えた。
実はスピンオフシリーズとして独立させようとしたけど中途半端になっちゃいそうだったので混ぜ込みました。おにぎりにハンバーグブチ込むがごとく




