あなたに栄養と安心を
「急病人だ、サツキ! 仮眠室用意して、マーシュン、サツキと一緒に手ェ貸してくれ! ゴルドさん! 近所のお医者さん呼んできて、荷車付き自転車使ってそれに乗せてきてもらえる?!」
「「了解!」」
「わかったわ、ちょっと借りるわよ! ヌゥゥェオリヤァァァァァァァ!!!!!!」
バイクを実験場のガレージに入れ、拾ってきた謎の少女を背負ってキヤは休憩小屋に帰宅した。普段めったに聞かないキヤの鋭い声に彼女たちは機敏に反応、すぐさま行動を開始する。土煙を上げながらゴルドワーフの乗る荷車付き自転車は王都へと爆走していった
「外の警戒は必要か?」
「大丈夫だろうけど一応お願い、サンキュ!」
「わかった、礼には及ばん」
呼ばれなかったマーソウは壁に掛けてあったマーソウ専用蒸気十手を外し肩に担いで外に出た。サツキは戸棚からポーションなどが入った救急箱を取り出して仮眠室へとキヤを先導する。
仮眠室のベッドの上にキヤはゆっくりと拾った少女を横たえた。頬や手に走る擦り傷が痛々しい。ボロボロの服にも所々血が滲んでいるが、呼吸自体は安定している
「外傷は?」
「多分ある、傷用とスタミナのポーションをちょっとずつ飲ませてあげてくれる? マーシュンはサツキを手伝ってあげて」
「わかったわ。キヤはどうするの?」
「なんか入用なもんがあったら言って、町で買ってくるから」
「ありがと、とりあえずタオルと洗面器に水入れて持ってきてもらえる? 化膿する前に傷口の泥落とさなきゃ」
「りょ!」
数十分後、どこかげんなりした医者が到着し少女は適切な処置をされ事なきを得た。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
お医者さんが帰宅して数十分、休憩所はひと段落した空気が漂っていた。現在容態が落ち着いた少女は女性ということでサツキとマーシュンが看ている。一先ず仕事の無くなった男二人とオネェは休憩所の大部屋でお茶を飲んでいた。お茶を飲み干しフゥと一息つき、バンダナを外して頭を掻くキヤ
「大したことなくてよかったよ。どんだけ逃げてきたか知らないけどガッツあるわあの娘」
「キヤちゃん、そろそろ説明してくれるかしら。あの娘どこで拾ってきたの?」
「森を横切るルート走ってたら森からゴブリンに追われて出てきたんだよ。ゴブリンは一匹殺して撃退した、んで急いで帰ってきたワケ」
「しかしあの女……服はボロいが普通じゃなさそうだぞ?」
マーソウの言うこともごもっともだ。少女は服装こそボロボロの薄汚れた白いドレスを着ていたが、黙っていてもその身に纏う気品は消えない。汚れを貫通するほどの美しい金髪と大分崩れているものの貴族女性に多い縦ロール、そしてほとんど外に出ていないからなのだろう、肌の色も雪のように白かった。
「そうだよなぁ……絶対どっかのお貴族様だよなぁ……オンディスさん呼ばなきゃだよなぁ……」
「あの娘が貴族と決まったわけではないが、あの格好の婦女子が魔物蔓延る森から出てきたのが一番気になる。旅行の途中で族に襲われ森へ逃げ込んだか、それとも」
「権力闘争で敗れ敵対貴族にあの森に追放されたとか」
キヤの口からポロッとでた恐ろしい推察。マーソウとゴルドワーフの眉間に深いしわができる。だがキヤは動じず再びバンダナを巻きなおす
「ま、どっちでもいいや。助けた時点で厄介ごとは避けられないって覚悟してたし、俺は俺のやれることをやらないとね。バイクの整備してくる」
二人はそんなキヤを見て安心した。何があっても挫けることのない揺るぎない信念がキヤの瞳の中で燃えているのがわかったから。そして次の日、少女が目を覚ました。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
少女は眩しい朝日と物音に刺激され起こされる。長い間目を開けていなかったせいか微妙に瞼が空きづらいが、ゆっくりと数回瞬きするとようやく見知らぬ天井が目に入る
「……ここは」
頭をゆっくりと横へ向けると見知らぬ女の子が何やらゴソゴソとやっている。そして少女の声が聞こえたのか、ツインテールを揺らしてこちらへ振り向いた
「あぁ、目が覚めた? おはよう。体、起こせそう?」
「は、はい……」
満身創痍になるまで逃げ続けていたのに体自体は妙に軽い。少女はまだ通常運転には程遠い脳を働かせ始める
「あの、ここは……貴女は……」
「無理しないで、今は余計なこと考えなくていいから。ホラ、コレで口濯いで、そっちの洗面器に」
手渡されたのは水の入ったコップと洗面器。そこで少女は口内がいまいち良い状態でないことに気付く。口を濯ぎ吐き出すと、久しぶりの清涼感を感じた。ふと、いい香りが鼻腔をくすぐる。女の子が机に置いていた鍋からスープを皿に注いでいるところだった。そのどうしようもなく魅力的な香りに少女の三大欲求が大いに刺激される
「お腹空いてる? スープくらいは大丈夫かしら」
「いただきます」
するり、と一口スープを啜る。刹那、少女の口内に震えるほどの喜びが溢れ出した。おいしい。とろりとしたスープに溶け込む様々な野菜の味、そしてそれをがっしり後押しする肉の味。具のないスープだがそんなもの必要ないと言わんばかりの満足感。自然と匙が二口目を掬い上げる。そこからは止まらなかった。少女は本能のままに、恥も外聞もなくただひたすらに目の前のご馳走を食べ続ける。
「ほら、急いで食べちゃダメ、むせるわよ。あと泣くほどのものでもないと思うけど」
女の子が苦笑いしながらハンカチで少女の頬を拭う。それに気付いたのはすっかり皿を空にしてからだった。
「私、泣いて……」
「大変な思いしたんだね。大丈夫、もう大丈夫だからね。おかわりいる?」
美味しかった。嬉しかった。暖かかった。色んな感情がない交ぜになり、うまく言葉が出てこない。口から漏れるのは嗚咽。でも体は栄養を求めておかわりを受け取る。少女は泣きながらおかわりを平らげ、勧められるまま口を濯ぎ、再び穏やかな眠りについた。その表情は安らかで安心しきった表情だった。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
サツキが仮眠室から出ると扉の隣にキヤが壁に寄りかかって立っていた。
「お疲れさっちゃん、ありがとね」
「ん」
「嬉しそうだな。喜んでくれるとこっちまで嬉しくなるよね」
「立ち聞きはマナー違反よ」
「万が一なんかあったら困るし。さっちゃんの野菜のポタージュは世界一ってね、俺もあの娘の気持ちわかるわ~」
「キヤがミキサーだの作ってくれたからカンタンに作れるようになったの。こっちこそありがと」
「ん。そんじゃ俺らも朝飯にしますか。本日は食パンの目玉焼き乗せにトマトのサラダ、そしてそのスープの残りとなっております」
「ちゃっかり飲もうとするんじゃないの」
「もうないの?」
「あるけど」
「なら万事OKだな!」
歯車鍛冶工房の朝が始まっていく。
さてなにやら一波乱起きそうですよ?




