支えてくれる手、包み込む優しさ
キヤがなんでメンタルマッハしたのかの理由回です。有体に言うとキヤの過去の先っちょ出しです
「……んぉ」
ふと目を覚ますとキヤは自分の部屋のベッドに寝かされていた。窓から入る光はもう僅かで、夕方くらいなのだろう。思い切り打ちつけた背中がまだじんわりと痛みを持っている。目をこすっているとふといい香りが鼻腔をくすぐる。マーソウが蹴破ったせいで仕事をサボっている扉の在った場所から人影が出てきた。
「あ、起きた?」
「イ゛ガラ゛シ……」
おぼんに何かを乗せたサツキが入ってきた。おぼんに乗っているのはおそらくサツキ特製のスープだろう、鶏がらと野菜を使ったブイヨンの利いた胃に優しい栄養満点のスープだ。きっと寝起きでガラガラの喉にも優しいだろう
「で? どう?」
キヤが普段設計図を書いている机にスープを置き、自分はイスに座りながらサツキは簡
潔に尋ねる。キヤは今までの自分の行動の恥ずかしさからサツキから顔を背けるが、本能はどうしようもなく正直なようで、腹の虫が栄養を求めて轟くほどの雄たけびを上げる。
「……………」
「ん、そんだけお腹が鳴るなら大丈夫そうね。ホラ、飲みなさい」
「…………口、濯いでくる」
今のキヤには冷静になる時間が必要なのだ。あと恥ずかしさでアツくなった顔も冷ましたい。口内衛生もアレだし。誰にも届かない言い訳を心の中で呟きながらキヤは洗面所に向かう。
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「ズルッ、ズルルルルル、ゴブォッ、ゴブォッ、ゴブォッ……コクン……ぶはぁ」
「いっそ清々しいほど食欲復活したわねアンタ。具無しにしといてよかったわよ」
ちょっと深めの皿に入ったスープを一息に飲み干すキヤ。どこぞの世界最大級の親子喧嘩マンガの食事シーンレベルである。極限の空腹状態の胃に急に食べ物を入れると体に良くないのを考慮して、サツキが具は全てすりおろして投入してあるのが功を奏した。じんわりと食道と胃に広がっていく暖かさがキヤの体と心に染み渡る。
「ごちそうさま、でした」
「ハイ、お粗末様。今日はもう歯磨いて寝なさい、その調子じゃちゃんと寝れてないでしょ」
食器を受け取りおぼんに乗せて立ち上がろうとするサツキ。
「ゴメン、イガラシ。ちょっとだけ聞いてくれないか」
「あら、何? 体拭くタオルでも欲しいの?」
「いや、その、さ。ホントにゴメン。イガラシの作ってくれたメシ、残しちゃって……あと色々と迷惑かけて、さ」
一瞬キョトンとしたサツキだが、ふっと笑った後キヤの背中をペチペチ叩く。マーソウの荒療治とは違う、優しく労うような激励
「いいわよ、許す。アンタ普段から気を張って生きてるような感じがしたし、そういうヒトってヘコむときは物凄いヘコむからね。アンタも色々あったって言ってたじゃない」
「まぁ、ね。俺、じいちゃんばあちゃんに育てられてさ。ばあちゃん、俺が高校に入ってから足腰が弱りだしてさ。医者にこのままじゃ数年後に立てなくなるかもしれないって言われて……約束したんだよ。
高校卒業したら車いす作ってプレゼントするって。じいちゃんの知り合いの金属加工業の人とか、いろんな場所にアポとって、材料もツテもちょっとずつ揃えて……で、あとはもう時間を見つけて作るだけ、だったんだけどさ」
キヤの強く握りしめた拳の上に数滴の水が落ちてくる。
「じいちゃんが心臓麻痺で急に死んで、ばあちゃんも階段で躓いて、頭ぶつけて……結局、約束果たせなくて…………色々片付いて、やっと一息つけるって思ったらこっちに飛ばされて……あのばあちゃんが、俺のばあちゃんにカブってさ……車いすが完成して、ばあちゃんが喜んでくれて………壊れないよう、に、じょうぶに、作ったのに、なぁ……もっと、いろんな場所に、行ってもらって、これからも、長生きしてもらおうって……ちくしょう……」
俯くキヤにサツキは優しく背中をさすり続けた。
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「そうだよね、アンタも私と一緒で向こうから来たんだもんね……後悔も、あるよね。色々頼りっぱなしでゴメンね。ありがとう。ホントに感謝してるよ」
泣き疲れてそのまま泥のように眠り出したキヤをベッドに寝かせ、サツキはキヤの頭をそっと撫でる。窓からは優しい月明かりが差し込んで幻想的な雰囲気が漂っている。と、光源となるものがないはずの部屋の隅に蒼白い炎が灯る。そこから色気のある女性の声が響いてきた
『こっち来てから張り詰めてたあのサツキが、こんなにもしおらしくなるなんてね。そのボウヤもなかなかやるじゃない』
「……アンタ、今までどこ行ってたのよ」
『ちょっと言えないトコ。大丈夫よ、アナタたちに迷惑はかけないわ』
クスクス、と鈴を転がすような声で笑う女性の声。そして炎は一瞬にして移動し、サツキの肩に乗る。
『うん、やっと馴染んだようね。アナタこっちに来たときはずっとこの世界の空気を拒絶してたから、わっちも消滅しないよう必死にならざるを得なかったわ』
「キヤが起きるわ。移動するわよ」
『了解、私』
仕事をサボり続けている扉を脇にどけ、サツキはキヤの部屋から出ていった。部屋から出る一瞬、サツキの肩の炎の輪郭がブレる。その炎の形はどこか狐に似ていた
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次の日の朝。マーソウのマーシュンが身支度を終えてリビングに出てきた。ゴルドワーフは既にテーブルにつき、老眼鏡のレンズを磨いている。そこへサツキが朝食のサラダを持ってキッチンから現れた。
「おはよ、ゴルドさんサツキさん」
「あらヤグルちゃんたち。おはよう」
「おはよ二人とも。座っててくれていいわよ」
「私も運びますよ!」
「ありがと」
マーソウも無言でスープの入った鍋を取りにキッチンに行く。三人が戻ってきたとき、見慣れない青年が居た
「「「…………どなた?」」」
「俺だよキヤだよ?! ここの工房長の!! バンダナ外してるだけでそうなる?!」
珍しくトレードマークのバンダナを巻いていないキヤがいた。普段後ろに撫で付け気味の前髪もそのまま前髪として垂れている。
「ゴメンさないキヤさん、私今までそのバンダナで判別してました」
「マーシュンに同じく」
「お前ら兄妹もうちょっと他人に興味持とうよこのシスコンブラコン!」
「ホラ、皆朝ごはん冷めちゃうわよ、早く食べましょ」
ゴルドワーフはゴルドワーフで磨き終わった老眼鏡をケースに入れてテーブルを布巾で拭いている
「ゴルドさんもうちょっとツッコんで!」
「ゴメンなさい、朝からはちょっとハードかしら」
「何が?!」
朝からドッタンバッタン大騒ぎ。日常が帰ってきたことをサツキは内心喜んでいた。まぁここの従業員全員が喜んでいるのだが。やっと落ち着き全員がテーブルに着く。
「えーっと、この度は皆さまにご迷惑を」
「いただきます」
「「「いただきます!」」」
「流れから予想はしてたけどもういいやイタダキマス」
キヤの謝罪に食い気味にサツキがいただきますの音頭を取った。これからもこの日常が続きますように
このあとめちゃくちゃ団らんした




