君が作ったのはモノでなく、笑顔なのかもしれない
王城の内部にあるVIP用と思われる応接室、そこにそぐわない風貌の男が豪華なソファーに浅く座っていた。手を組み、体を前に折って額を組んだ手の上に置いている。パーシヴァルにここに連れてこられ、待機するように言われてそのまま待機しているキヤだ。パーシヴァルはキヤを案内した後すぐに出ていった。ここに居るのはキヤのみだ。国の重鎮の危篤という一大事に部屋の外では慌ただしく人が動き回っているのがキヤの耳にも届く。
と、ふいに応接室の扉が開き誰かが入ってきた。岩のように動かなかったキヤがすごい勢いで扉の方を向くが、そこに居たのはパーシヴァルでもおばあちゃんでもなく初めて見る人物だった。目の覚めるような金髪に眩いばかりの銀の瞳、だが格好は冒険者が来ている服のように質実剛健な使い勝手のいい服といったアンバランスな男。顔も当然のように整っており、道を歩けば誰もが振り向くであろう風貌をしていた。
「お、先客か。んー、確か頭に布と腰に上着を巻いてるやつ……あ、お前がばーさんとパースのお気に入りの職人か?」
そしてその男はあくまでラフにキヤに話しかけてきた。軽い感じで手を軽く振っているが、VIP専用の応接室に軽い感じで入ってきた以上重要人物なのは明白だ。キヤは慌てて頭を下げようとするが、机とソファーの間が思ったよりも狭く、あわあわしつつもキヤは一旦机の前にまで出て頭を下げた
「は、ハィ、コータ・キヤと申しマシュ!」
「噛んだな……まぁ落ち着け、取って食ったりはしないし、式典でもないのにそういう堅苦しいのはいいだろ。俺もこんなカッコだしな」
ケタケタと笑う男。パッと見二十代後半と言うところか。ばーさんとパースという二人の呼び方から恐らくこの男も王家に近い存在なのだろう。パースというのはパーシヴァルの略称だ、そうなれば必然的にばーさんはベルマアンナ皇后なのだろうか。もしかしてこのお人、やんごとなきご身分の御方なのだろうか?
「まぁ楽にしな。ほら、ソファーに座れ。俺もちょっと休憩だ」
どっかと勢いよくソファーに座る男。本当に疲れていたのだろう、大きなため息をつきながらソファーの背もたれに身を預ける。そして跪いているキヤを自分の座っている隣をペシペシと叩いてへ座らせる。キヤはといえば絶対この人エラい(二重の意味で)人なので恐縮しつつも微妙に間を開けて恐る恐る座った。
「えっと……不躾ながら、あなたはどちら様なのでしょうか?」
「ン? お、まだ自己紹介がまだだったな。ギルガメスだ。ギルって呼んでくれ」
そういって快活に笑いながら拳を出してくる男ことギルガメス。この拳を突き合わせる挨拶は主に冒険者の間で行われている挨拶だ。キヤはなんとなくこの人がヤンチャに生きているのだろうなと思った。大体あってるのだが。キヤも恐る恐るそれに答える
「はい、よろしくッス……」
「ん、よろしく。で、ばーさんのオキニの職人がなんでここに居るよ?」
「えっと、いきなりパーシヴァルさんに連れてこられまして……ここで待つようにと」
恐縮しつつも慎重に言葉を選ぶキヤ。緊張で冷や汗が止まらず、パンツも汗で濡れ座っているソファーに汗染みが出来ないかヒヤヒヤしている。冷や汗だけに。この世界ではマジで不敬罪で首チョンパがありえるので慎重に言葉を選ぶ必要がある。だってこの人絶対お偉い人じゃん。ヘタすれば皇族だよ? 誰だってそうする、俺もそうする
「あーパースが呼んだのか。ヒデえよな、連れて来といて何の説明もないまま待機させられてるんだろ? あのオッサン今自分の部下を振り回したりしてるか書類に埋もれてかしてるとこだから、ヘタすりゃ今日もうここ来ないぞ?」
思ったよりも絶望的な言葉がギルから飛び出してきた。キヤの顔面が面白いくらいに真っ白になってきたのを見てギルは慌ててフォローに入る
「あー大丈夫だ、心配しなくてもちょっと顔だすくらいはするだろ、ホラ、茶ァ飲むか? 待ってろ、人呼ぶからな、おーい、メイドぉ! どっか手すきなヤツいねぇのかーー?!」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
メイドさんに淹れてもらった紅茶を飲みつつキヤは慎重にギルに質問した。メイドさんは仕事を終えると速やかに外に出た。ギルガメスが外で待つように命令していたので扉の横で待機するのだろう。
「えっと、その……皇后さまの容態は、どうなんでしょうか……?」
「ン~~~……なんとも言えないな。ホラ、俺ったら一応そういうのを軽々に口走っちゃいけないタイプのアレだから」
「そう、ですか。ヘンなこと聞いちゃってすみませんでした」
「いや、構わねぇよ。言い方が悪いが、お前は平民で住んでる世界が違うもんな。それもやむなしってヤツよ」
でしょうね、とキヤは内心確信しつつ紅茶をまた一口飲む。なんだかんだ気遣われているので、このギルガメスと言う男中々に律儀で好感が持てる。そして少しの間をおいてギルガメスはぽつりとつぶやくように話し始めた
「…………ばーさんがよ。お前の作ったアレ、なんてンだっけ?」
「魔動車いす、ですか?」
「そうだ、ソレソレ。アレに乗って、珍しくはしゃいでたんだよ。あの車いすもそうだが、ニコニコしながら部屋の中を車いすで走り回ってたんだ。ばーさんの笑う顔なんざ初めて見たぜ」
え? とキヤは思ったが少し考えて納得した。王族ともなれば感情を表に出すのは憚られることなのだろう。自分の作ったもので人が笑顔になるのは製作者としては非常に嬉しいことだ。きっとあの空き地はおばあちゃんの数少ない感情を表に出せる場所だったのだ
「俺がソレについて聞いたらさ。コレのおかげでじーさんの墓にも参れたし、地面が続くならどこでも行けるようになったって。驚くべきことに俺よりも年下の職人が作ったってンだからビビったぜ。俺の小さいころはばーさんはずっと一か所に座ってむくれた顔してたんだが、車いすを使い始めてから俺たちが見たこともない顔して笑ってやがったのさ。貴族連中どころか俺達でも引き出せないばーさんの笑顔を、キヤは引き出したのさ。ありがとな」
本当に嬉しそうな表情で軽くキヤの背中をパンと叩くギル。おばあちゃんに近しい人間として、少々思うところがあったようだ。
「いえ、俺は……」
「いや、マージでお前は誇っていい。あの車いすのおかげでメイドもばーさんの世話をしやすくなった、作った人にお礼を言いたいって言ってたぜ。オヤジも車いすを押しながらばーさんと散歩して、久しぶりに親孝行出来たって言ってたよ。お前の作った道具は俺たちの希望になったんだ。一族代表して言う。本当にありがとう」
ギルガメスは笑いながらキヤの頭をグシャグシャと撫でた。鼻の奥がツンとする。目がアツくなる。喉の奥からなにかがこみあげてくる。作ったものが認めてもらえた嬉しさとド直球の感謝の言葉。職人として嬉しくないわけがない。
「っと、そろそろ呼ばれるだろうし俺は行くぜ。キヤはもうちょっとここで待ってろ、使いを送るからよ。ハラが減ったらドアの外に居るメイドになんか用意してもらえ」
そう言ってギルガメスは立ち上がり出ていった。キヤは俯き、バンダナを外して顔を拭いていた。
男の涙は軽々に他人に見せるものではないのだ。




