陰る命の火
前回のお話を加筆修正しています、よければそっちも見てね
「さて、色々とひと段落したところですが残念ながらヤグルさん達に悲報です!! 悪い話と悪い話、どっちから聞きたい?」
「そうだな、とりあえず歯ァ食いしばれ」
「いいよ、来いよ! もちろん俺は抵抗するで? 拳で!!」
しばらく青年二人が見苦しく泥臭い喧嘩をするのでしばらくお待ちください……
「「ハァ、ハァ、ハァ……」」
「はぁ、で? 仕事はなんだ?」
「今工房にある回転の魔石、在庫全部使って特大の回転の魔石を作ってほしいのよ。マーソウの回転の魔石の合成上限っていくつだっけ?」
「お前のせいでスキル練度が上がって百の大台に乗った。二つで貴族の乗る馬車をゆっくりだが動かすことができるだろう」
以前ギルバの義手を作った際にヤグルたちはとんでもない数のカラの魔石を合成する羽目になった。それなりに急を要する事態だったので作業を急いでもらったのが堪えたらしい。あの時の兄妹は目からハイライトが家出してしばらく帰ってこなかったくらいだ。誰だってそうなる、俺もそうなる
「んじゃとりあえず五十刻みで六つずつ合成してもらえる? 五十合成したのが六つ、百も六つ、行けたら百五十のも六つってカンジで。パパパッとやって、終わりって感じで」
「簡単に言ってくれるな……まぁ出来んこともなさそうだが」
「前回は納期の問題でちょっと無理させ過ぎちゃったからね……ちゃんと反省して余裕のある時に大きい仕事を出しとかないと」
「報酬は弾むんだろうな?」
「モチロンよ。前回より余裕あるから納期は長めに取っとく。さっちゃんに経費落としてもらえるように口説くのタイヘンだったんだからなー」
「わかった、今から作業を始める。回転の魔石を運ぶのを手伝ってくれ」
「りょー」
「それで、今度は何を作るつもりなんだ?」
「この世界の移動手段に革命を起こすつもりだよ。ま、出来てからのお楽しみかな」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
ヤグル兄妹に魔石の合成を頼んだ後、キヤは工房の作業場で羊皮紙に設計図を書いていた。高校を卒業したら町のバイク屋に就職しようと考えていたキヤは、ネットや様々な媒体から情報を収集し、エンジン部などを除いて大体のバイクの設計図を書けるまでになっていた。知り合いのバイク屋店員に見てもらったところ、あまりの完成度にドン引きされたこともある。もしあのままあの世界で生きていたとしても企業から引く手数多だっただろう。
しかしキヤが今作ろうとしているのはこの世界オリジナルのバイク、『魔動バイク』だ。回転の魔石を使った元居た世界では絶対に作れない、元の世界の設計が通用しないシロモノ。こちらの世界専用として設計図をイチから書き起こさなければならない。機械製品とはどれも綿密な計算と度重なる実験、そして失敗と成功を重ねたうえで完成するものなのだ。だがキヤはただただ楽しかった。なんであれキヤはものづくりが大好きだったから。
書き起こしたバイクの設計図を基に材料を集めていく。鉄はもちろん魔物の素材であったり様々だ。さらにはそれらを自分の作った道具で加工していく。ゴルドワーフ達大人に手を借りながらも、魔動バイクのプロトタイプは着々と完成へと近づいていった。
そんなとき、とある人物が歯車鍛冶工房へと訪れた。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
その日、キヤはオンディス侯爵のもとへ遊びに、ヤグルたちは作業中、ゴルドワーフはギルドの会合に出席し工房にはサツキ一人だけがいた。サツキはハナツキ商会との取引や次の新製品の開発予算などを計算しているところだった。と、ドアが数度ノックされる
「すまない、キヤ殿はいるか」
落ち着いた男性の声がドアごしに聞こえてきた。念のためサツキは自己防衛のため小型蒸気銃を懐に忍ばせてドアをゆっくり開ける。そこにいたのはどこか高貴な雰囲気を漂わせる初老の男性だった。軽装だが鎧も着ている。サツキは鎧に刻まれた紋章を見て眉をひそめた。カイトシールドの絵の中心に剣と槍がクロスした紋章。王都の騎士団の紋章だ。少し離れた場所には同じ紋章の馬車まで停まっている。
「すいません、キヤは今所用で出かけております。私でよければ御用をキヤに伝えておきますが」
「ふむ、そうか……いつ頃帰ってきそうかな?」
「すいません、それはわかりません。侯爵に呼ばれたと言っていたので時間はかかるのではと」
「そうか……どうしたものかな。できるだけ早いほうがいいのだが……」
初老の男性が少々焦りを滲ませ困ったような表情をしていると、貴族の馬車が工房へ向けて走ってきた。そして馬車が止まると、中から出てきたのはなんとキヤだった。
「キヤ?! どうしたのその馬車?!」
「たでまー、なんかオンディスさん急用が入ったとかであそ……ゴホン、話が出来なくなっちゃってさ。せっかくだからって送ってくれたんだよ。ありがたいよねぇ」
「それはいいけど、キヤ、お客さんよ」
「え? あれ、パーシヴァルさんじゃないスか。どうしました?」
予想もしない来客にキヤも少々驚きつつもにこやかに応対する。だがパーシヴァルの顔は真剣そのものだった。
「コウタ・キヤ殿。貴方に来てもらいたい場所があります。ご同行願えませんか?」
「え? 俺なんかやっちゃいました?」
「いえ、貴方が何をしたという訳ではありません。ここでは話せません、詳しくは馬車の中で」
「わかりました。さっちゃん、悪いけど後よろしく」
「わかったわ。行ってらっしゃい」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
人がまだ出歩く時間の為馬車はそれなりのスピードで安全に考慮しながら道を進んでいく。キヤはこのルートに少々覚えがあった
「そんでパーシヴァルさん。俺みたいな一般人を王城に呼び出す理由はなんでしょうか?」
「カンがいいな」
「前にオンディスさんに王城へのルートを教えてもらったので。それで、なんなんですか?」
「……ベルマアンナ皇后様が倒れられた。君が魔動車いすを送った方だ」
「ッ!!!」
キヤに伝えられたのは、ついこの間一緒に出掛けたおばあちゃんの危篤だった




