シャルノームのお仕事
最近出番のないマスコットことシャルノームちゃんのお話です。
私、商人ギルド受付嬢シャルノームの朝は早い。といっても、皆大体朝日が昇ると同時に起きて行動を開始するのだけれど。私はそれよりも気持ち早めに起きて身支度をする。顔を洗い、歯を磨き、なかなか言うことを聞かない寝ぐせをどうにか宥めすかして仕事着に着替える。頭頂部の一房の毛だけはどうあがいても手に負えないので放置。
以前キヤさんがこの言うことを聞かない頭頂部の髪をアホ毛と呼び、よくわからないけど私はバカにされた気がしたのでハードカバーの本のカドでキヤさんを叩いてしまった。反省はしている、後悔はしてない。
「今日も一日、頑張りましょう!」
ギルドに出勤すると商人ギルドのギルドマスターが既に出勤していて、床をモップ掛けしていた。商人ギルド職員全体から好かれる好々爺としたギルドマスターは私に気付いて人のよさそうな微笑みを浮かべます
「おはようございます、ギルドマスター! 今日も一日、よろしくお願いします! 私もモップ掛け、手伝いますね!」
「おぉ、おはようシャルノーム君。手伝いは不要だよ、昨日の戸締りする前に職員全体で掃除したじゃないか」
「そうですけど、ギルドマスターがやられているのに……」
「いやね、さっきここにお茶をこぼしてしまってね。それの後始末さ」
「マスター……」
「だから君は自分の仕事を全うしなさい。これから私は副ギルドマスターにお説教をされねばならないからね……」
「あーその、そうですね」
いかにも深刻そうな表情でモップをかけ続けるギルドマスター。ちなみに副ギルドマスターはめちゃくちゃコワいです。戦闘能力は上級冒険者に引けを取らないとか。火のない所にウワサは立たないのです。つまりはそういうことなのです。
モップを片付けているギルドマスターを尻目に私は今日の自分の仕事を確認します。今日の私の仕事はギルドを通しての商人さんたちの取引の手続きの整理、商人志望の方の応対、そして最近導入された特許というシステムの推考とまとめです。
この特許というシステムは主に職人さんに関係あるもので、例えばある工房が開発した新しい技術をギルドが保護できるのです。そしてその登録した技術は他の工房の人がお金を払うことでその技術を手に入れることのできるというもの。ただしその技術を使って出た利潤の一部を特許使用料としてギルドに納付しなければなりません。
登録する際には技術の一から十までのほぼすべてを登録する必要がありますが、登録された技術が悪用されたり、劣化して廃れないようにギルドがその技術を保護します。登録する際に登録する人は特許登録料として一定のお金をギルドに払うことになりますが、技術を買った人が出した利潤の一部をギルドを介して定期的に手に入れることができるのです。
そして多くの利潤をだす良い技術となると技術等級が上がり特許登録料が戻ってきたり、ギルドで顔を覚えてもらえツテが増えたりと多くのメリットがあるのです。ただし、こういった新しいシステムは抜け穴を見つけられ利用されるのが常。そういったものを防ぐために私も知恵を絞らなければ。
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午前の勤務は順調に終わりお昼休憩を終え、担当の受付へ私が戻ってきた時でした。私は待合に見たことのある髪型を見つけ、声を掛けました。
「あ、サツキさーん!」
「あ、シャルちゃん。シャルちゃんもお昼終わり?」
「はい! たった今戻ってきたところです。何か当ギルドにご用ですか?」
「いつものよ、キヤが新しいモノ作ったからその報告にね」
「かしこまりました、ではこちらへどうぞ!」
実はキヤさんが立ち上げた工房、歯車鍛冶工房は比較的新しく誕生した工房の中でも注目株で、この王都商人ギルドでもこの工房がたたき出す利益の大きさから非常に注目を集めている工房なのです。そういった経緯から、ギルドマスター公認で私には歯車鍛冶工房の仕事を最優先するように言われているのです。あの時キヤさんたちの専属になると宣言しておいてよかったです。あれ以来、少しだけ毎日のご飯が豪華になりました
それはさておき、私は歯車工房の経理を担当されているサツキさんを防音性の高い別室へ案内しようと待合に出たのですが……私とサツキさんの前に人が立ちふさがりました。
「し、シャルちゃん……ぼ、ボクが持ってきた商談の手続きをしてほしいんだけど……いい、よね?」
立ちふさがってきたのはボンビー・ナリキンさんという商人さんです。彼は大商会ナリキン商会の跡取り息子さんなのですが、一代で大商会を築かれたお父様マイド・ナリキン様に比べ正直商才はあまりないように思います。普通に接していれば悪い人ではないのですが……
以前ボンビーさんが今と同じようなことを言って商談を持ち込んできたのですが、後々調べてみるとその商談はナリキン商会の別の方が努力の末に勝ち取ったものであったことがわかり、信用を第一としている私達商人ギルドからは正直煙たがられている方です。しかも何度か同じようなことをしでかしている常習犯なので尚更です。
そしてどうやら私に好意を抱かれているご様子。私はフィーリングが合えば見た目はどうでもいいと思っていますが、他人の努力を無碍にしウソをついて自分を誇称する人は正直眼中に在りません。恋は盲目にも限度はあるものです
「ボンビーさん申し訳ありません、これからこの方と取引のお話がありますので他の受付へどうぞ」
「そ、そんな小さな工房のガキの商談よりも、ボクが持ってきた商談のほうが、グフッ、もっと利益がでるよ……だから、さぁ」
「この商業ギルドは私よりも有能で仕事のできる人たちがたくさんいます、なので大きな利益の出る取引は私より優秀な方の力をお借りするのが最善ですよ? 私はこの方との取引を最優先にするようにギルドマスターから仰せつかっておりますのでこれで」
「ぼ、ボクとの取引をすればギルド内での、シャルちゃんの評価もあがるよ!! ボクがギルドマスターに、直談判して……」
「結構です。行きましょう、サツキさん」
何やら悔しそうなうめき声が後ろから聞こえたような気がしましたが、構わずサツキさんと一緒に部屋に向かいました。キヤさんたちとの取引は私が初めて自発的に結んだ取引。それをどうでもいいと遠回しに言われてしまったので、少々怒ってしまいました。そのことをサツキさんに話すと、感謝の言葉と共に頭を撫でられました。もう、私の方がお姉さんなんですからね?
場合によっては前編後編になるやも……




