シャルノームと歯車鍛冶工房
前後編で纏められそうになかったので続いてシャルちゃん回です。出番少なかったし、多少はね?
あれから私とサツキさんは商談を纏め、サツキさんがお茶に誘ってくださったので出向くことにしました。建前はまだ特許を出していない、重くて動かせない道具などの見分ということになっています。ちゃんとギルドマスターに報告は済ませています。お土産にサツキさん特製のお菓子を要求されましたが。
実は王都の貴族界隈で正体不明の職人 (サツキさん)特製のお菓子がウワサになっているらしく、甘党のギルドマスターがそのことをどこからか嗅ぎつけ私に依頼してきたというわけです。報酬は勤務時間にティータイム(サボり)を黙認する形で支払われました。ウィンウィンですね。そして私たちは歯車鍛冶工房の門戸を叩いたのです
「ただいまー。お客さん連れてきたけど構わないわよね、答えは聞いてないわ」
「さっちゃんお疲れー、帰宅早々のジャイアニズム、アコガレルナー」
出迎えてくれたのはこの工房の主、キヤさんでした。服に木くずらしきものが付いているので、作業中だったのでしょうか?
「ところでそのお客さんは? 見当たらないけど」
「何言ってるの、ここに居るじゃない」
「えーー? 見えないなー」
キヤさんはキョロキョロと視線を私の頭の上に動かしてます。なんだか腹が立ってきたので、サツキさん、やっちゃっていいですか?
「許可するわ、ゴー!」
「え? なんのはなs ごっふぇぃ?!」
かつてサツキさんから教えてもらった相手の体の中心線を撃ち抜く掌底。キマったようです。
「ぐふっ……ウィレーム君、かねてより女性を恐れ……もとい、敬いたまえ……がふっ」
「女心を学ぶのだな、お前も死にたくはないだろう。てか誰よウィレームって」
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サツキさんがお茶請けに出してくれたのはラスク、というお菓子だそうです。持ってみると非常に軽く、高い砂糖がまぶしてあるようです。パンを薄く切って油で揚げるという工程を経て作られるとか。サクサクしてて優しい甘さ……たまりません。この油で煮る、もとい揚げるという発想も要チェックですね……
「このラスクってお菓子、サクサクして美味しいです!」
「作り方はカンタンだから材料さえあればシャルちゃんでも出来るわよ」
「ホントですか! ……そういえば料理のレシピも特許化できますよね……」
「そういうのは後で考えたら? 今は休憩の時間よ。ほら、紅茶」
「あ、すいませんつい……えへへ」
下品ながら唇に着いた砂糖を舌でペロリと舐めて反省です。
「なーさっちゃん、シャルちゃんが両手でラスク持って食べてるのクッソ可愛くない?」
「不本意ながら同意ね。なんというか、小動物見てるみたい」
「へぎゅ?!」
キヤさんが妙なことを言うので思わず頬の内側を噛んでしまいました……私が痛がってる間キヤさんは両手を合わせて「尊い……尊い……」とか言ってたので思わず本のカドが出ちゃいました。サツキさんは心配してくれたのでいいのですが……
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お茶の後私はキヤさんの作った、道具を作るための道具を見分しました。ベルトサンダ、センバンなどなど。なるほど、この道具の大きさはギルドへ持ってくることは不可能ですね。そしてその有用性は非常に高く、職人さんも放っておかないであろう魅力的な道具ばかりでした。そんなこんなでついつい長居してしまい、日が大分傾いた頃に私は今の時間に気付きました
「いっけない! もうこんな時間、帰らなきゃ!!」
「あー楽しい時間はあっという間、というやつだな。どーするシャルちゃん、どうせなら晩メシもウチで食ってく? どーよさっちゃん」
「私は構わないけど、シャルちゃんは大丈夫?」
正直私もキヤさんたちとお話したいのですが、一旦ギルドに戻ってギルドマスターに挨拶と軽い報告をしなければなりません。仕方なく今日の所はおいとますることにします
「ン、ほんじゃちょいと待ってて、蒸気銃取ってくる」
「え?」
「王都とはいえ夜は物騒でしょ? シャルちゃん片手で持ち上げられてそのまま誘拐されそうだし」
「失礼ですね!! さすがにそこまでは……いかない、はず……」
否定しきれないのが悲しい所です。落ち込んでいるとキヤさんが背中に蒸気銃を背負って戻ってきました。
「うっし、んじゃ送るよ。一旦商業ギルドまで送るけど、そっからシャルちゃん家まではどうする?」
「あ、できればお願いしたいです。そこそこ歩くので」
「りょうかい、んじゃ行きますか! 迷子防止に手ェ繋ぐ?」
「要りません!!」
キヤさんがニヤニヤしながら聞いてきました。私は子どもじゃありません!! ただちょっと小柄なだけなのです!! そのせいで視点が低くてたまに、たまーに迷っちゃうことがあるだけです!! その時によく大柄な不審者に連れ去られそうになるだけなのです!!
「キヤ……これからシャルちゃんが来たときは家まで送ってあげなさい」
「おう……これほどの逸材、俺が守護らねばならぬ……ッッ!!」
なんだかキヤさんの頼もしさが大幅に上がったような気がしますが……なぜでしょうか? あと何故私は泣いているのでしょうか?
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「つってもそれほど暗くはないんだよな。魔石の街灯が割とあるルートだし」
「そうですね。裏路地に近づかなければ」
薄暗くなり光の魔石で作られた街灯が灯り始めるころ、私とキヤさんはギルドマスターに挨拶を済ませて商業ギルドから私の家への道を歩いています。光の魔石の街灯はどこにでもあるわけじゃなくて、貴族街と商業街に多く設置されています。主にやんごとなき方々の為なのでしょうが、私達も助かっているので恩恵を受けておきましょう
「それにしても、キヤさんはスゴいですね」
「唐突にどったの?」
「いままでにない魔動具の概念を作り出し、そしてその技術が悪用されないよう特許という制度を作り出し……さらに侯爵様との人脈、大商会とのツテ……上げ出したらキリがないですよ」
「ン~~~、道具はともかく人脈に関しては俺が幸運だったダケなんだよなー。俺ヘタしたら野垂れ死んでてもおかしくない境遇だったから。でも、こうやっていろんな人の力を借りて生きていけるようになったんだし、恩返しくらいはしないとなーって。もちろんシャルちゃんもね。シャルちゃんが俺の道具を見出してくれたから商業ギルドでも顔が利くようになったんだし」
「……」
普段おちゃらけているけど、ちゃんと考えているんですね。ちょっとだけキュンとしちゃいました。キヤさんもちょっとテレているのか、しきりに鼻の頭や頭を掻いています。
「とまぁそんなワケで俺はシャルちゃんをこういうヤツらから守り通して家に帰す役目があるワケなんだよ」
キヤさんの目が一気に鋭くなり、背負っていた蒸気銃を抜き放ちます。私たちの前には大柄な不審者が数名出てきていました。
次回、キヤがちょっとカッコよくなったらいいなーって(願望)




