あなたに祈りと花束を
「こんちゃー、来たよーおばあちゃん」
「あらキヤちゃん。こんにちは」
三日後、キヤがいつもの広場に行くとおばあちゃんはいた。と、隣には冒険者風の装備に身を包む老齢の男が寄り添っている。いつもはおばあちゃん一人なので、キヤと男は初対面だ。老齢とはいえ、キヤでもわかるほどこの男タダモノではない。短く刈り込んだ白髪に浅黒い日焼けした肌、顔に刻まれたシワの一つ一つから、濃密な彼が生きてきたであろう時間の重みがにじみ出ている。
「あ、ども……おばあちゃん、そちらの方は?」
「私はこの方の護衛、名をパーシヴァルという」
「あ、コウタ キヤっす……もしかして冒険者の方ですか?」
「似たようなものだ。今日はよろしく頼む」
「ウス……え、おばあちゃん、今日行くとこそんなにヤバいの?」
少し顔を青ざめさせ、心配そうな顔表情でおばあちゃんを見るキヤ。おばあちゃんはといえばそれほど緊張した様子もなく、いつも通り柔らかい雰囲気のままだ
「町から少しだけ離れた場所が目的地なの。盗賊が出るとかそういうわけではないけれど、一応念のためね。ところで、キヤちゃんが手に持っているものはなにかしら?」
「あぁ、お得意様に貰った(魔)導具ッスね。自分が持ってても使わないからって頂きました。万が一車いすが壊れてもいいように、修理道具やら部品やらが入ってます(道具だけ入ってるとは言ってない)」
「そうなの、頼もしいわねぇ」
「なにやら含みがあったような気がするが……まぁいいだろう。では行こうか」
パーシヴァルさんが少しだけ訝し気な表情をしたが、納得したようだ。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
道中はそれほど特筆すべき驚異はなく、三人はゆったりと歩を進めながら目的地を目指した。途中大き目の砂利が転がっている道があったが、魔道車いすは問題なく乗り越えた。空気を入れたタイヤとは違うものの、それに匹敵するくらいの衝撃吸収力をこのタイヤは持っている。魔物素材万能説
「パーシヴァルさんってやっぱりその腰の剣で戦うんですか?」
「まぁな、だが状況によって武器は使い分けている。あらゆる武器を使いこなせてこそ兵士だ。出なければ生き残れん」
「歴戦の戦士なんスね~! いやー男として憧れるなァ」
「武芸は身に着けておいて損はないぞ。キヤ殿はなにか戦う手段はあるのか」
「いやー、ちょっとした体術はイケますけど、パーシヴァルさんレベルになると通用しないでしょうねぇ……ガタイのいいチンピラ相手もキツいかなぁ」
「自衛の手段は多いことに越したことはない。一番いいのは経験を積むことだな」
「職人が本業なんで、戦うようなことが起こらないことを願ってます」
たはは、と困ったように笑うキヤにパーシヴァルはそれもそうか、と軽く笑いながら納得する。職人には職人の、兵士には兵士の戦場があるものだ。おばあちゃんはその話を聞きながらニコニコしながら車いすを動かしている。
「頼もしいわ、今日は貴方たちに頼んで本当によかった。今日行く場所は何度も行こうと思っていたんだけれど、どうしても行けなかった場所なの」
「大事な場所なんスねぇ~。思い出深いんですか?」
「えぇ。若いとき、心折れそうになった時はたまにそこに行っていたわ。もうすぐ着くわよ」
「ウッス!」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
そしてたどり着いたのは、王都のはずれにある辺鄙な場所だった。そこは
「…………墓地、っすか」
「そう。私が立てなくなってからずっと行けずにいた場所。私の……夫が眠る場所よ」
そう静かにおばあちゃんは告げ、キィキィと車いすを動かす。キヤは戸惑いつつもおばあちゃんとパーシヴァルについていく。そして墓地を歩くこと数分、一番奥まった場所へとついた。そこは他の墓地と違い高く剛健な柵に囲まれており、どこか高貴な印象を受ける。一般人が立ち入れない雰囲気があり、入り口と思われる扉には大きな南京錠がかけられていた。扉の中心には王冠とそれを両側から守るように佇むドラゴンと騎士の紋章があった。
「パーシヴァル、これを」
「は」
おばあちゃんが懐からカギを取り出しパーシヴァルに渡した。パーシヴァルはそのカギで南京錠を解錠し、扉をゆっくりと開けていく。金属がこすれ合い、軋むような音を立てて扉は開けられた。
「ありがとうパーシヴァル。それじゃキヤちゃん、行きましょうか」
「え、っと……ここって、俺なんかが入っていい場所なんですかね? よくわかんないけど、一般人立ち入り禁止的な……」
「確かに赤の他人が他人の墓に参ることは少ないな」
カギをおばあちゃんに返しながらパーシヴァルは返事をする。
「構わないわ。私をまたここに連れてきてくれた立役者だもの、ぜひ夫に紹介したいわ」
おばあちゃんは嬉しそうにキヤに笑いかける。いつ死に別れたのかはわからないが、思うように外出できなくなり自分の最愛の夫の墓にも行くことができない。そんな歯がゆい思いをしていたのだろう。そして三人は墓地の最も奥へとたどり着いた。
「その……そろそろお聞きしてもよろしいですか?」
「何かしら?」
「もしかしておばあちゃん、いえ貴方は……王家一族では……」
キヤの言葉を聞き、少しだけ俯くおばあちゃん。先頭を歩いているため表情はわからないが、こちらを騙すような真似をしていたのを悔やんでいるのだろうか?
「そう。今はもう隠居の身だけれど、私はかつてこの王都の王城で暮らしていた王家の一族よ。騙すようなマネをしてごめんなさいね?」
「それは構いませんが……王家の方ならば、なぜ……高貴な方って、軽々しく出歩いたりできないイメージがあるんですが……」
「以前言ったことは本当よ? 私、自慢じゃないけどお転婆なの。だから部屋にずっと引きこもってるのがツラくてね。たまに、兵士たちに黙って外の空気を吸いに外出したりしてたのよ」
「それは、まぁわからないでもないですけど……ということはもしかして、パーシヴァルさんは王家の近衛兵、または騎士団の方では?」
キヤの推理に少々驚いたような表情をするパーシヴァル。
「ほう? 頭は悪くないようだな。その通りだ。俺は元々皇后様の近衛兵の兵長をしていた。今は一線を退いたがな。その代わり、このお転婆が脱走したとき城に連れ戻す仕事をやっている」
その言葉で彼とおばあちゃんの間柄は少しだけ察することができる。長い付き合いなのだろう。そして三人は周りのものとは明らかに違う、大きく荘厳な墓石の前へとたどり着いた。歴代の、偉大なる王たちが眠る墓だ。パーシヴァルは跪いて顔を伏せる。キヤもマネをして跪く。墓前とはいえ、ここは王の前なのだ
おばあちゃんは空飛ぶじゅうたんに乗り換え、どこからか取り出した花束を墓前に供えた。そして両手を組み、祈る
「あなた。こんなに長く、来るのが遅れてごめんなさい。あなたが旅立ってから、私は歩けなくなってしまいした。あの時も色々あってなかなか会えませんでしたね。それでも私は、あなたをお慕いしておりました。今になって、やっと言えます。あなたの隣を歩けて、本当に幸せでした。ありがとう」
おばあちゃんはただただ静かに泣いていた。隣で跪いているパーシヴァルが押し殺すような声で泣いている。
キヤも、この世界に来る直前に亡くなった祖父と祖母を想い泣いた。もう二人のお墓参りにはいけそうにない。せめて、別れの挨拶くらいはしておきたかった。その後悔が涙と一緒にキヤの頬を流れ落ちた




