魔道車いす
ハイッ!! サイドチェストぉぉぉぉ!!!(ゴルドワーフ)
「出来たよおばあちゃん! 魔道車いすだ!!」
「あらあら、よかったわねぇ」
いつもの唐突なキヤにおばあちゃんは正直何のことかわかっていなかったが、とりあえず何かが完成したことは伝わった。おばあちゃんがキヤから横に目線をずらすと、そこにはイスの両脇に車輪を付けたようなものが置いてある。そしてその存在感を薄れさせるほどのゴリゴリのマッチョマンがキヤの隣に佇んでいた。
「なるほど、車輪のついたイスだからくるまいす、なのね」
「そう! それだけじゃないんだけどね……ウフフ。ゴルドさん、お手伝いお願いします!」
「こんにちはおばあちゃん。ワタシはゴルドワーフ、このキヤちゃんのトコロで金属加工職人をしてるの。よろしくね」
一瞬ゴルドワーフを警戒したような表情をしたおばあちゃんだったが、その風貌とは違い柔和な応対のゴルドワーフにおばあちゃんは緊張を解いた。
「ゴルドさん、毎回思うんスけど、初対面の人に挨拶すると同時にサイドチェストはどうかと思うんですよ俺。誰だってビビるっす、俺だってビビったッス」
「あら、そう?」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「ということでおばあちゃんにはこの魔道車いすのモニター……実際に使ってみての感想を言ってもらいたいんですよ。もちろんお礼はします」
「あらあら、そんな大役私に務まるかしら?」
「一応ウチの工房のメンバーで試運転やら耐久実験やらは済ませてるんで、モノはちゃんとしてるんです。でも、やっぱり一番は使用者の使用感……使い心地ですから」
車いすの後ろにあるハンドルを撫でながらキヤは言う。仕事にしている以上ダテや酔狂を混ぜ込むわけにはいかないし(趣味で作るものは除く)、雑に作ることは職人の矜持を踏みにじることだ。なんだかんだでちゃんとするところはちゃんとしているキヤである
「ということで、おばあちゃんにはこの車いすを実際に使ってもらいたいんです。どうでしょうか?」
「いいわよ。キヤちゃんの頼みだもの。それに、伝説の鍛冶職人さんもいらっしゃるからね」
「光栄ですわ、おばあ様」
なぜか左胸に手を当て頭を垂れるゴルドワーフ。珍しいゴルドワーフの紳士的な面を見つつもキヤは準備を進める。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「さておばあちゃん、魔法の絨毯で浮いてここに座ってくれる? それとも俺とゴルドさんが運ぼっか?」
「絨毯で行くわ、ありがとうね。よいしょっと」
おばあちゃんが絨毯に触れ魔力を流し込むと絨毯の刺繍が僅かに光り、絨毯はおばあちゃんごと浮き上がった。そしてゆっくりと浮遊し、車いすのイスの部分に着地した。
「よーしそんじゃおばあちゃん、このひじ掛けについてる操縦桿握ってちょっとだけ魔力流してもらえる? 両方同時に、同じくらいでお願い」
おばあちゃんは言われるまま両方のひじ掛けについている操縦桿を握り、少しの魔力を流してみる。すると車いす全体に魔力が流れ、力が張るのをおばあちゃんは感じた。
「そしたらその操縦桿を前へ少しだけ倒してみて。前へゆっくり進むはずだよ」
「やってみるわね」
操縦桿をゆっくりと倒すおばあちゃん。すると車いすがゆっくりと全身を始めた。
「あらあらあらあら! これはすごいわねぇ! 絨毯を動かすよりずっと魔力が少なくて済むわ」
「よし、一先ずはOK……そしたら右の操縦桿だけを倒してみて」
おばあちゃんは右側の操縦桿を倒す。すると車いすが左回りにゆっくりと回り始めた。ちなみに片方の操縦桿を倒すだけで左右の方向転換は可能である。
ここまででカンのいい方は察してくれたかもしれないが、この魔道車いすの車輪の部分にはマーソウが合成した回転の魔石が埋め込まれている。現時点で乗っている人が操作する場合前進しかできないが、片方の車輪のみを動かすことによって方向転換が可能。道幅が非常に狭い場所や足場が悪い場所では少々性能は落ちるものの、実用性は非常に高い。
操縦桿から車輪までの魔力を通す道はよく使われるシルキーワームの糸束が使われており、それを車体フレームを空洞にし内蔵することで、衝撃などによる劣化を最小限に抑えている。
タイヤは以前自転車を作った際に作られた車輪を流用、さらに乗っている人の腕でも動かせるように車輪の外側に新たに輪が増設されている。タイヤは伸縮性と弾性、衝撃吸収性が非常に高いチューブワームの皮が使われており、悪路でもある程度の衝撃を軽減することができる。
普通ならここで終わるところだがキヤは凝り性だった。
車いすの座る部分、シートの下部に小さいジャッキのような機構が仕込んであり、手動クランクによる操作で座面が上へとせりあがる。これは立ち上がる際の補助と、ベッドに行く際にベッドの高さまで座面を上げることで移動がしやすいようにするためである。肘掛は取り外し可で、乗っている人は体をスライドさせればベッドに戻ることができる。
さらに背もたれ (バックサポート、つまりは背面シート)に角度を付けられるようにシートの横部に傾きを調整できる機構 (ギザギザの間に凸パーツを差し込んで調整する機構)があり乗っている人にとっての楽な角度も自由自在だ。
他にも足置き場 (フットサポート)や介護者が後ろから車いすを押すためのハンドルもデフォルトで装備してあり、一応車いすとしてのモノは完成形に至っている。
正直キヤはまだまだ改善の余地はあると思っているが、改善や改修はこの世界の人に丸投げする所存のキヤである。
「工房のメンバーで実験したけど、このゴルドさんが乗って操作しても全然問題ないッス。さらにそのまま貴族街と商業街の境のあの坂を平然と登れるくらいの出力があるんで、この王都内なら大体の場所はイケるんじゃないかと!」
王都には大きく分けて五つのエリアがあり、王城、貴族街、商業街、平民街、スラム街といった区分がある。その中で貴族街と商業街の間にはそこそこ急な坂があり、一説によると戦争で攻め入られた際に敵兵の足を鈍らせるために坂があるとか。なので貴族の馬車を引く馬はどの馬も非常に体格がよく力持ちな馬が多い。北海道で開催されるばんえい競馬に出場する、非常に力の強い馬の品種ペルシュロンによく似ているとキヤは思っている。
話が逸れたが車いすとしてのスペックはかなり高い、ということである。
「すごいわねぇ……」
「その絨毯を併用すればどんな場所にも行けると思いますよ! まぁ介護する人がいればもっとラクなのはラクなんスけど……」
「そうねぇ。そうだキヤちゃん」
「なんです?」
「実は私行きたい場所があるの。今まであの絨毯だと、魔力が続かなくて行けなかった場所なんだけれど……」
「お、そうなんですか? よかったら付き合いましょうか? 長時間使用の感想も聞きたかったんで!」
「ありがとう。それじゃ……三日後にお願いしてもいいかしら? それまでこのクルマイスに慣れておきたいから、これを借りたいのだけれど……」
「いいですよ! その代わり、ちゃんと感想聞かせてくださいね!」
「ええ。約束するわ」
「それじゃあおばあちゃん、また三日後に!」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「……聞いていたわね。約束は三日後。準備しておいて」
「御意に」
「そうだ。隠れてないで出ておいで、このクルマイスを押してくれないかしら。たまにはゆっくり城下を見ながら帰りたいわ」
「はっ」




