止まるんじゃねぇぞ……
第三章、新章です。ここからはより生活に近い道具を作っていけたらな……
「出来たよさっちゃん! 自転車だ!!」
「いきなり何よ……」
これまた唐突にキヤの出来たよ宣言。今度は自転車を作り上げたようだ。見た目はほぼ完全にママチャリである。唯一ブレーキの部分が少々ゴツくはあるが
「なんだ、今度は何を作ったんだ?」
「何々? またキヤ兄ちゃんがなんか作ったの?」
魔力切れから復帰したヤグル兄妹も物珍しそうに自転車を見ている。特にマーシュンは珍しいものに目がない性質なので目がキラキラとしている。兄のマーソウもクールぶっているものの、その目の奥の好奇心は隠せずにいる。その反応に満足げに性能解説を始めるキヤ
「コイツは自転車。足元のペダルを足で回転させることで動力を車輪に伝え、その力で前進する移動用の道具だな。試作ってことで胴体のフレームは前に余ったジャイアントセコイアの廃材で作ってある。で、車輪はゴルドさんに軽い金属で作ってもらって、その周りをチューブワームの皮のタイヤで覆ってある。ペダルからの動力を車輪に伝えるチェーンは、原型の一つをゴルドさんに作ってもらって俺のギアボックスでいっぱい複製して作りました。ブレーキは荷車の時と違ってちょいと凝った機構だけど、ちゃんと機能します」
「あれ? チェーンソーに使ってたヤツは違うの?」
王都への道で魔物に襲われた時のことを覚えていたサツキは尋ねる。
「あー、あれにはチェーンメイルリザードって魔物の素材が使われてたんだけど……割と修理が利かないってのもあるけど、なにより魔物素材ってことで高いし在庫が……ね。在庫は研究用としてストックしときたいんだよ」
「なる。え、あのギアボックスってそんなこと出来たの?」
「うん、設計図記録して材料と魔力を注げばいくらでも出来るよ。魔力で作ったものは時間制限あるし脆いし。ちゃんとした材料を入れればちゃんとしたもの出してくれるよ。マジでヤベェなアレ、ガチオーパーツだよ」
満足気に自転車を撫でるキヤ。マーシュンは自転車のペダルを手で回し、車輪が回転する様を見て喜んでいる。鉄加工の匠であるゴルドがいるからこそ部品が奇麗に噛み合い効率よく稼働したのだ。待ちきれないという風にマーシュンはキヤに尋ねる
「それで、どうやってコレに乗るの?」
「ん、一先ず裏の場所で試運転してみっか」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「うぬぬ……」
「そうそう、そのままペダル回して回して、視線は常に前へ。もっと肩の力抜いていいからなー」
キヤは自転車に乗るマーシュンの後ろを持ちながら自転車の乗り方を指導している。マーソウが表情に出ないものの首から下はあわあわと慌てまくっている。この男、まごうことなくシスコンである
「だ、大丈夫なのか……? コケたら大けがするんじゃないのか……?」
「今は見守りなさいシスコン。マーシュンちゃんが自分からやりたいって言ったことよ、邪魔するのは保護者失格になるわ」
「ぐぬぬ……」
やり場のないフラストレーションにマーソウは小さく地団太を踏む。キヤがマーシュンに指導する姿を懐かしそうな目で見るサツキ
「懐かしいな……近所の子が公園でよく自転車に乗ってたっけ……」
「あ、さっちゃんも乗りたかったら乗る? そっちにもう二台あるよ。マーソウに乗り方教えてみたら?」
そう言いつつキヤは指導する手を止めない。少ししてどうにか乗り方が形になったマーシュンだが、正直まだおぼつかない。だがこの調子ならマスターできるだろう。問題は
「おわあっ?!」
「ちょっとキヤー、指導変わってくれない? フォローしきれないわ」
この数十分でボロッカスになっているマーソウだろうか。体格差もあってサツキではマーソウの指導には向かなかった。ちなみにマーソウ、数か月かかってどうにか自転車をマスターした。マーシュンは数週間かかった。兄の威厳はボドボドだが、二人連れ添って自転車を走らせることができるようになったので結果オーライだろう。多分。
「ドーセオレナンカ……」
「お兄ちゃんがんばって!」
「……頑張る」
「「ダメだこのシスコン、早く何とかしないと……」」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「ねぇキヤ」
「なんだいさっちゃん」
マーシュンに自転車を指導してもらっているマーソウを眺めながら二人は水分補給をしていた。屋根のヒサシがよい日陰になっており、心地良い風が通り抜ける。日差しの中頑張る兄妹を微笑ましく見つめながらキヤはお茶を口に含む
「私のために異世界のことを調べ回ってるでしょ? 自分の小遣い使って。それも工房始めて間もないころから冒険者ギルドに依頼だして調べ続けてる。成果は芳しくないみたいだけど」
「ボフィーーーーーーー?!」
キヤの吹いたお茶で実験場に小さな虹がかかった。わぁ~、お茶を吹く音ぉ~
「ぶっは、え゛っほえっほ……死ぬ……」
「もぅ……」
あきれながらもタオルを渡してくれるサツキ。夫婦かな?
「私が帰りたいって雰囲気だしてたの、覚えてたの?」
「……居たくもないとこに押し込められるってアホほどストレスかかるし。なーんもない俺と違ってイガラシは色々と向こうに残してきてる訳だから。余計なお世話もいいとこだろうけど、なんもしないのは違うって思ったから……すまん」
膝に肘をつき、手で顎を支えながらキヤはバツの悪そうな表情を浮かべる。普段の彼からは想像できないような沈んだ声色。キヤなりにサツキを想っての行動だったのだろう。正解のない選択肢。例えその行動が相手の為を想ってのことでも、その相手がどう思うかによって解が変わる。
「謝らないで。キヤって頭いいけど……いや、全体的にバカね」
「知ってる」
「でもキヤのそういうとこ。私は嫌いじゃないわよ」
「……そっか」
チラリと横目で見たサツキは、以前一度だけ見た優し気な笑みを浮かべていた。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「ねぇキヤ」
「ん?」
「私、中途半端はキライなの」
「料理も家事も経理も全然手ェ抜かないもんね。わかるとも。感謝してます」
「よろしい。だから、キヤたちの世話を途中で放り出して自分だけ元の世界に帰るのは私のポリシーに反するの」
「……」
「私、しばらくはこの世界で生きてく。どうせまだある程度は生きるんだし、その間に帰る手段があるなら気長に探すわ。期待はしないけど」
「そっか」
「だからコウタ。当面は私たちの生活費、ちゃんと稼いでね?」
「請け負った、サツキ」
二人は不敵な笑みを浮かべながら拳を突き合わせる。工太とさつきの間に奇妙な友情が芽生えた瞬間だった
男女間の友情ってアリだと個人的には思う(友情が別の情に変わらないとは言ってない)
新作短編投降しました、よかったらそっちも読んでね。大分はっちゃけてるよ
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