とある冒険者の決着
遅れてごめんなさい……体調悪いやらなんやらでズレました、その分ボリュームがあるので許して
「ギルバさん。正直、俺ちょっとばかり後悔してます」
義手の仕上げに入った時、唐突にキヤはそう言った。まだ魔動義手が正式採用型にたどり着くほんの少し前の話だ。
「人の技術ってのはどうあがいても戦いに転用されてしまう。それでも道具は人の生活をより良くするモンです。だがそれが巡り巡って人を殺すことだってあり得る。俺は人間個人個人は嫌いじゃないです、でも人間と言う種族は全く信用できないんですよ。だから、正直俺の作ってるものはこの世界にゃまだ早かったんじゃないかって」
ギルバにはわからない感覚だった。彼は生きるために敵を糧とし続けて生きてきたからだ。己以外の世界を見る余裕などない。だがここのところギルバにも周りを見る余裕ができ始めていた。そして自分の行動がどう世に影響するかも考え始めていた。
「確かに、剣は人を殺す道具でもある。だが見方を変えれば人を生かす道具にもなりうるのではないか? 俺は今まで多くの魔物を狩ってきた。それは多くの場合が人に害をなす存在だ。俺が魔物を狩ることで、この先傷つくはずだった者を救っていることになる」
「………」
「お前は思うが儘に作れ。お前が作った道具で俺は多くを救おう」
キヤは憑物が落ちたような表情で「ありがとうございます」とだけ言った。こころなしか、そこから作業スピードは上がったような気がする。作業スピードが上がるのはいいのだが、さらに義手のバリエーションを増やそうとするのはいかがなものか。全部買い上げたが。
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
事前に聞いていたインクブスの徘徊ルートに入った時、じわりと空気が変わった。奴が通った後だけに粘つき、湿ったような空気が充満している。それは一種の殺気に通じるものだ。体全体で殺気に包まれているようなものなのでよほどの冒険者でない限り奇襲を受けたら即終わるだろう。義手を生活用の木製の義手から戦闘用の義手に切り替えておく。軽く指を動かすように魔力を操作すると、義手は自分の思った通りに動いてくれた。拳を握り締め、ギルバは歩を進める。
ざわり、と一筋の風が森を駆け抜ける。その瞬間藪の中から黒く細い触手が大量に出現、ギルバを貫こうと接近してきた。ギルバはそれを剣を素早く抜刀、刀身を使って防御し受け流すように弾き飛ばした。そして数本の触手を義手でつかみ取り、そのまま思い切り引き寄せる。黒い触手はあっけなく引き千切れ、しばらく痙攣したあと動かなくなった。
「どうした、こんなものか」
動かなくなった触手をポイと投げ捨て、ギルバはそこに居るであろう存在を挑発する。森の中だというのに全くの無音が少しの間場を支配した。刹那
『ンア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
木々をへし折り、藪をブチ破り、草木を踏み砕きながらインクブスが凄まじい勢いで突進してきた。舌をだらりと垂らし、血の混じった強酸性の唾液をバラまきながら死に物狂いといった様子でギルバに迫る
「喧しい」
ギルバは腰を落とし、義手の拳を握りしめその時を待つ。そして拳の射程圏内に入った瞬間
「龍顎砕!!!」
今にも食いつこうと迫るインクブスの顎下にギルバの鉄拳が突き刺さり、インクブスの顎の骨は皮膚の下で粉々に砕け散った。そしてだらしなく垂れていた舌は顎が砕かれるのと同時にインクブス自身の歯によって噛み千切られ宙に舞った。鬼人族渾身の顎を粉砕する強烈なアッパーに、インクブスはひっくり返るようにダウンした。激痛に悶え、枯れ枝のような足でもがくインクブス。
手首を廃し、指の開閉すらも極限まで簡略的に。器用さを犠牲にして手に入れたのは凄まじい強度とその重量による一撃必殺の鉄拳。これがキヤが開発したギルバ専用の戦闘義手の一つ『鉄拳制裁』
ギルバの左腕にはゴツすぎる義手が鈍色の光を反射して輝いていた。そしてすかさず肘から先の義手を別のタイプの義手へと換装する
「巨人手……」
ギルバが新たに付け替えた義手は鋭い爪の生えた義手だ。全体的に意味深な分割線が入っている。
『ィググググググググググググ……』
唸り声を上げながらようやく起き上がったインクブス。怒りが頂点に達しているのかドス黒い闘気をうっすら纏っている。先ほどとは違い、様子をうかがうようにギルバの周りを周り始める。そして
『ンホォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!』
強烈な音圧の咆哮を上げながら突進するインクブス。ギルバはそれをジャンプしてかわし、巨人手に魔力を流し込む。すると巨人手が分割線に沿って分かたれ、肘から先が複数のワイヤーで繋がれたパーツへ展開、巨大な手へと変化する。その長い指をインクブスの胴体に巻きつけインクブスにしがみつくギルバ。
しがみつかれ、必死でギルバを振り落とそうともがくインクブスだが、ギルバが容赦なく次の手を打つ。インクブスにしがみついたまま機構剣を逆手に持ち自分の足元、つまりインクブスの柔らかい胴体に思い切り突き刺した。そして機構剣のグリップを捻り、魔力回路を合わせ魔力を流し込み魔石を起動する。機構剣の背の排出口から強烈な蒸気がインクブスの体内で一気に炸裂、大ダメージを与える
『ギィィィィィィィィィィィィィ?!』
あまりの苦痛に大きく痙攣しもがくことすらできなくなるインクブス。ギルバはそこで容赦なく剣を切り上げ傷口を広げる。そして拘束を解き一旦離脱し様子を見る。インクブスの背には大きな傷口からとめどなく血が溢れ出しており、体の動きも徐々に弱弱しくなっている。やがてインクブスは力尽きたように脱力した
「ハァ……ハァ……」
インクブスが脱力して数分経った。そこでギルバは剣を血払いし、地面に突き刺して一息ついた。乱れた髪を後ろに撫で付け、剣を鞘に納めようとした瞬間『ピクリ』とインクブスが動いた
「……なんて生命力だ」
最初は小さな蠢きだったものが徐々に大きくなり、背中の傷口の辺りが大きく胎動するように脈打ち始める。脈動するたびに不快な湿った音を出すのでギルバは内心嫌悪感を覚える
「ッ!」
湿った音を立てながら蠢いていた傷口が突如大きく膨らみ、不規則に膨らんだり引っ込んだりを繰り返し始めた。まるで中から『ナニカ』が膜を破って出てこようとしているように。そして、膜を突き破って中からナニカが出てきた
『ギィルゥバアァァァァァ……』
膜から染み出てきたおぞましい体液が地面をしとどに濡らす。生まれたのは人の上半身だった。胴体には人の苦しむ表情が浮き出て、さらにやたらめったらに腕が生え虚空へ手をモゾモゾと動かしている。
生えてきたのはタクヤンの上半身だった。顔中に火傷や裂傷が刻まれている上、上記のようなおぞましすぎる異形と化しているが。ギルバは無言で剣を構えなおす
『お前の、お前のせいでぇぇぇぇ……俺は、俺はァ……』
幾人もの男女が同時に喋っているような声で喋るタクヤン。インクブスに食われ取り込まれた犠牲者たちの声なのだろうか。タクヤンの声色は間違いなく怨嗟のソレだが、それ以外の声はどこか無念さを含んでいるようにギルバは思った
『お前さえいなければ……俺はSキュう冒ケン者にィィ……金モ、名声も……』
タクヤンの身体に浮かんだ苦悶の表情がより苦しそうな表情へと変わる。同時に体の末端から蝕んでくるように殺気がじわじわと広がっていく
『ギィィィルバァァァァァァァァ!!!!!!』
強烈な咆哮による衝撃波が木々をへし折り、彼らが居る場所一帯からあらゆる動物が逃げ出す。ギルバは冷静に義手を汎用性の高いものへと換装し、機構剣に魔力を送る。機構剣の背にある排出口から音を立て蒸気が僅かに漏れ出す。互いの殺気が頂点に至った時、第二ラウンドの火蓋は切って落とされた
「死ね」
その類稀なる身体能力でギルバは大きく飛び上がり、インクブスの頭上へ躍り出る。そして刃を真下にいるインクブスに向け、蒸気開放弁を全開放した。『マキシマムベッド・兜割』。自由落下ではありえない、凄まじい速度で刃がギルバごとインクブスの脳天へと降り注ぐ。
常人離れしたギルバだからこそできる離れ業。というより、この剣の出力自体がデタラメすぎるのだ。使いこなせればありえないほどの火力を生み出すものの、ピーキーが過ぎる
『こぉレしきィィィ!!!』
刃を受け止めようと人の上半身の腕をクロスさせ防御態勢をとるインクブス。が、超重量の剣+大柄なギルバの体重+蒸気の噴出による推進力=尋常ではない破壊力、肉の塊に受け止めきれるものだろうか? 答えは否だ。
ギルバの一閃はインクブスの両腕ごと真っ二つにした。その斬撃はインクブスを切り伏せるだけにとどまらず、地面を大きく抉る
『ギィィィィィエェェェェェェェ!!!!!!』
大量に血をブチ撒けながら逆ハの字に分割されたインクブスは力なく地面に倒れ伏した。
「……なんて威力だ」
機構剣から余剰蒸気を排出させながらギルバはインクブスの死体を見る。その一瞬の隙だった
『ガァァァァァ!!!』
「何?!」
半分に分かたれた右側の肉塊に残っていた触手一本がギルバに迫る。義手を前に出して盾にするが……いつまでたっても衝撃が来ない。
「……何だ?」
見ると、伸ばされた触手をインクブスの胴体から生えた無秩序な腕が掴んでこちらに来るのを阻止している。それはインクブスに食われた犠牲者の最後の抵抗だろうか。先ほどまで苦痛に歪んでいた表情が憤怒の表情に変わっているように見える
「……許せ」
ここに来るまでに溜まりに溜まったギルバの強大な魔力が収束した左腕。義手を魔力放出形態に変化させ、足を踏ん張り狙いをつける
「逝け」
発射された膨大な魔力の塊はインクブスの身体全てを飲み込み、肉片も残さず消し飛ばした。肉体の消滅と共に空に光の粒子が上っていく。しばらくの間ギルバはその場に佇み黙祷を捧げた
ギルバ関連にやっとケジメがつきました。次回から新章です
期待しててね




